第9話 文化祭2日目
文化祭2日目。
初日で売り上げが良かったクラスはその勢いのまま爆発し、そうでもなかったクラスは挽回に拳を突き上げる。そこへ各部活が参戦してくるものだから……もう、熱量がとんでもない。
私はというと、『メイド喫茶はこちら!萌え萌えマシマシ増量中♡』の看板を持って、廊下にぽつんと立っていた。
何もせず突っ立ってると、男子の視線ってよくわかる。
スマホをいじるふりをして脚を見てくるやつ、顔を見た後で視線を下げてくるやつ、下から順に見てから顔を確認してくるやつ……。
……まぁ、いいけど。恥ずかしいけど、減るもんじゃないし。
突っ立っていても勿体ない。ガンガンいってみよ。
「こんにちはー! メイド喫茶やってまーす!」
肩をポンと叩いて声をかけ、通りがかりの生徒を店へと誘導していく。
適当なナンパをかわしつつ仕事していると、坊主頭の男メイドがやってきた。
「柊、お前めっちゃ客引き上手いな! 繁華街でも映えるぞこれ!」
……ガールズバーか、メイドカフェか、はたまたコンカフェか。
まぁ、客引きだけならできそうだけど、向いてるかは別問題。
「うるさい、田中」
看板を田中に押し付けたちょうどそのタイミングで、ミカの姿が見えた。
大きな身体を左右に揺らして、わっせわっせと歩いてくる。
……ティラノサウルスの着ぐるみを着て。
「じゃ、客引きよろしく〜」
「おう! お前も楽しんでこいよーっ!」
田中とバトンタッチし、私はミカの短い腕を引っ張って歩き出した。
「まずはクレープ買いに行こっ」
ミカザウルスは無言でついてくる。
……いや、何か喋ってよ。見た目は面白いけど。
フォーン……
着ぐるみを膨らませるためのファンの音だけが、雑踏の中でやけに響いていた。
* * *
クレープを買ったあと、非常階段の途中に腰を下ろす。
ミカはずっと無言で、頷くか手を振るだけ。
……もしかして、なりきってるつもり? ティラノに。
せめて鳴いてほしい。がおー、とか。鳴き声知らないけど。
「ミカ、そろそろ喋ったら?」
肩をくっつけるように寄り添いながら声をかける。
「……」
「え、恐竜になりすぎて言葉忘れたとかじゃないよね?」
無言のミカザウルスが、なんとなくショボンとして見えて笑ってしまう。
「そのままだとクレープ食べられないし。今、誰もいないし、脱ぎな?」
そう言って、お腹のチャックを下ろすと、プシューッと音を立てて空気が抜け、中の人がくっきりと姿を現した。
――あれ?
でかい。ミカにしては、なんか……でかい。
ていうか、誰?
「……え?」
チャックの中から出てきたのは、眼鏡を真っ白に曇らせた――三山先生だった。
「な……な……」
汗びっしょりの先生は、申し訳なさそうに眼鏡を外し、自分のTシャツでレンズを拭いた。
そして。
「……幸せだった」
第一声が、謝罪じゃなくて感謝だった。
「……ミカは?」
「暑いから代わってくれ、と言われてな」
たしかに暑そうだ、先生。けどそれ以上に、顔がすごく……嬉しそう。
なんだろう、めちゃくちゃ嫌な気分。
「なんか、オオカミにおばあちゃん食べられた赤ずきんの気持ち、ちょっと分かったかも」
皮肉っぽく言うと、
「よく分からんが、俺は柊の友達を食べてないし、無事だぞ?」
先生はなぜか得意げだった。いや、騙されたって意味なんだけど。……もういいや。
「クレープ、食べます?」
「……いいのか?」
先生はやたら嬉しそうに、口をあーんと開けてきた。
いや、なんで当然のように食べさせてもらえると思ってんの?
私は無言で、自分のクレープを食べ始める。
1口。
2口。
3口。
やがて先生は、しょんぼりしながらクレープを受け取り、もそもそと食べ出した。
「美味しいですか?」
そう聞くと、先生はクレープ片手に、爽やかすぎる笑顔で言った。
「柊が横にいるから、味なんてどうでもいい」
……その辺の雑草でも食わせておけばよかった。




