表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先生と禁断の恋、始めません。  作者: 五月雨恋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/13

第8話 文化祭1日目

 朝からクラスは大賑わいだった。

 廊下から覗き込んでくるお客さんの視線、ワイワイとはしゃぐ声、お菓子の甘い香り。

 文化祭の熱気が、教室の中にまで押し寄せてくる。


 うちのクラスの出し物は、男女混合メイド喫茶。

 甘いお菓子とジュースを出すだけの、簡単なお仕事――だったはず、なのに。

 

 「萌え萌えビィィィーム☆」

 

 坊主頭にカチューシャを生やした男子メイドが、ノリノリでポーズを決めている。

 なんか、これはこれで悔しいほどハマってるし、お客さんにもウケてる。……え、私もあのテンション出すべき?


「ちょ、目線こっちこっち! 葉月(はづき)! そのまま!」

 

 ミカがスマホを構え、私に連写を浴びせてくる。


「可愛すぎて涙出そう……はぁ~尊……」

「ミカも似合ってるよ。……でも私は、そんなノリノリじゃないからね」


 そう言いながら、子どもの成長を喜ぶようなミカについついピースを決めてしまう。

 恥ずかしい。でも、ちょっと楽しい。


 ちょっと気分が乗ってきて、ミカとツーショを撮りだした時。


「先生来たー!」

 

 入り口から、今日もゆるい空気をまとった三山(みやま)先生が姿を現した。手にはビニール袋が何袋も。中身は……うん、完全に屋台の匂い。いや、誰? 観光で来た人?


「おひとり様っすかー!? ご案内しまーす♡」

 

 男子メイドが猛チャージ。


「ぼっちの三山(みやま)です」

 

 先生の満面の笑みは、教室中に妙な笑いを引き起こす。

 ああ、普通にクラスのノリに馴染んできたなぁ……。


葉月(はづき)! 先生のオーダー取りに行こっ!」

 

 ミカに引っ張られるまま、私は先生の前に立った。


「いらっしゃいませ~ご主人様……」

 

 言わされた。自分の声が死んでるのがわかる。

 先生はどこか申し訳なさそうに微笑んだ後、テーブルのメニューに視線を落とす。


「えっと……コーラと、クッキー。それと……チェキは、1枚いくら?」

「いや、チェキとか、そういうのはやってなくて――」


「先生限定で! チェキ1枚、ジュース1本でーす!」

 

 ミカの暴走。


「乗った!」


 先生が立ち上がる。まさかのノリノリ。


「総員集まれー!先生が財布開けたぞー!!」

 

 ミカの号令で、メイドたちが次々に集まり始める。男子も女子もキッチン係も、列の整理役までも。


 あーあーあーあー……。

 

 だがもう遅い。

 教室中のメイドたちが、ぞろぞろとカメラの前に列をなす。

 チェキ会というより、三山ファンミーティングが始まってしまった。


 最初は男子。なぜかやたら距離が近い。肩を組んだり、腰に手を回したり、果ては——


「おい、ほっぺにキスすんな!!」

 

 先生が叫ぶ。そいつはクラス一のモテ男だ。ジュース一本じゃ足りないかもよ?


 ミカは堂々と腕を組んでツーショットを決めていた。

 ……ん?今ちょっとムカっときた? なんで私が嫉妬してんの?


 そして、順番が回ってくる。


「はい次、葉月(はづき)ーッ! ポーズはハートでお願いしまーす♪」

 

 ミカの弾ける笑顔に背中を押され、私は先生の隣に立つ。

 胸の奥のモヤモヤは、勢いでどこかへ吹き飛んでいった。

 

 私は言われるがまま、先生とハートマークを手で作って。


 ――カシャッ。


 フラッシュが光る。

 視線を上げると、そこにあるのはいつもの三山先生。

 担任らしい、穏やかで優しい顔。


 ……なんだろう。

 今日は、ちょっとだけ距離が遠いような……。


 * * *

 

 文化祭初日が終わる頃、先生が大量のジュースを抱えて教室に戻ってきた。


「おつかれさん。 男子、ちょっと運ぶの手伝ってもらえる?」


 手際よく配られたジュースは一人二本。さらに、小さなお菓子詰め合わせまでついてきた。


「明日もよろしくなー! 楽しめよー!」


 ちょっとした打ち上げみたいなテンション。教室の空気はふんわり明るくて、みんな笑顔だった。

 それぞれの予定に合わせて、片付けたり、部活に向かったり、家路についたり。

 ミカは部活に顔を出すって言うから、私は一人で進路指導室へ向かう。

 ノックしてドアを開けると、先生が机に突っ伏していた。顔を上げて、私を見て言う。


「……制服に着替えたのか」

「そりゃそうでしょ。メイド服のままとか、恥ずかしすぎるし。……ミカは着たまま行ったけど」

「……(ひいらぎ)のメイド、すごく似合ってたのに」


 ぼそっと、そんなことを呟く先生。


「やめてください、恥ずかしい……。それに、写真なら撮ったじゃないですか?」


 私の顔を見たあと、スマホの中のメイド姿を名残惜しそうに見つめて。

 

 「……いや、わかってる。わかってるんだけどさ……人間って、罪深いんだよ……」


 先生は椅子の背にもたれて、天井を見上げる。


「この進路指導室で、メイド服の(ひいらぎ)とお喋りできるかもって……ちょっとだけ期待してしまいました」

「……ばかじゃないですか」


 そう言ったら、先生がほんとにしょんぼりした顔をした。

 あぁ……この人、本気で悔しがってる。


 なんだかもう、かわいそうで、可笑しくて、どうしようもなかった。

 私は、気づかないふりをして、そのまま席に座った。

 少しだけ間を置いて、口を開く。


 「ところで先生。私とのツーショットを、待ち受けにするのはやめてください」

 「……やっぱダメだよな」


 明日も、文化祭だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ