第4話 三山先生は女子高生好き?
少しだけ風が吹き始めた九月の昼休み。
でも、教室の空気はまだ蒸し暑く、私は制服の襟元を緩めながら弁当箱のふたを開けた。
「……ねえ葉月、その白くて細い脚、マジで男子を殺しにかかってない?」
唐突なミカの一言に、卵焼きを口に運ぼうとしていた私の箸が止まる。
「……は? 何言ってんの……」
「いや、見てみ。ほらそこの男子。今、葉月の太もも見て口半開きになってるから」
何気なく視線を向けると、確かに向かいの男子がこちらをチラチラ見ながら、やや難しい顔をしていた。
……減るもんじゃないし、まぁいっか。しかし男子が下心を隠すとき、妙に渋い顔をするのは何故だろう?
「特にさ、内もものラインがイイよね〜。スカート、絶妙」
「ミカ、おっさんみたい」
「いやいや、女子目線の賞賛ってやつじゃん♪ てか今日のおかずなにそれ、うまそ」
「鶏の照り焼き。母の手作り」
「うっわ羨ま。交換して?」
「だが断る」
「冷たっ」
そう言いつつ自分の弁当をつつき、ミカはにやにや笑いを浮かべていた。
「でさー、夏の彼氏とはなんで別れたの?」
話題が急に方向転換された。少しだけ目を伏せると、ため息がひとつ出た。
「……付き合ってから、好きになれたらいいかなって思ってたけど……無理だった」
「即答~。どこが無理だったん?」
「……夏が熱すぎて、会う気になれず」
「ほうほう」
「夏が熱すぎて、スマホは放置」
「ほうほう」
「通知件数が10を超えたとき、指先で別れを告げてたね」
「詩人じゃん。今は?」
「……お休み中。秋は出会いの季節じゃないしー」
「好きな人とか、いないの?」
その問いに、私はふと……ほんの一瞬だけ言葉を止めてしまった。
「……うーん」
「……おや? 一瞬の間?」
「……なんかさ、ちょっと好きなんだけどさ。まだ恋じゃなくて、変かな」
「変て」
「変から始まる恋も……あるかもね」
「葉月も、変だよ?」
「……だよねー」
……ま、変も恋も似たようなもんだし。今日も母の照り焼きは旨かった。
* * *
そして放課後。
いつものように進路指導室のドアを開けると、変の元凶がそこにいた。
窓際の席。静かに書類へ目を落とすその横顔は妙に真剣で――正直、ちょっとかっこいい。
「柊か……。今日も可愛すぎて困るんだけど」
「はいはい、ありがとうございまーす」
しかし、口を開けばだいたい残念である。いや、というかほぼ犯罪なのでは?
ふと、気になってしまったことを聞いてみる。
「ねぇ、三山先生ってさ」
「ん?」
「女子高生、好きなの?」
数秒の沈黙。空気が、少しだけ凍る。
あ、やば。変態にそういうの直球で聞くの、普通に駄目だったかも――と思った、そのとき。
「……いや。全く興味ない」
先生は、まるで天気でも語るみたいに、さらりとそう言った。
私は無言で椅子を引き、斜め向かいに腰を下ろす。
「でも、ちょっと考えてましたよね?」
「……あー、うん。一応真剣に考えてみたんだけどな」
「で?」
「結論としては――柊だから好き、ってとこに着地した」
「なにそれ」
思わず笑いそうになるのをこらえて、私はもう一つ、意地悪な質問を投げてみる。
「じゃあさ。私が小学生だったらどうなるんですか?」
その瞬間、先生の顔がみるみる青ざめていく。
「……こわいこと言うの、やめないか」
その顔を見て、私は吹き出した。
「ふふっ。――冗談ですよー」
この人は、ちゃんと大人で、でも少しだけ子どもみたいで。私の変の発生源で、なんだかんだ気になる人ではある。
……あるけど、小学生はアウトとしてだ。
「でもさ。女子高生もアウトじゃないですか?」
「そうなんだよ、ギリギリアウトなんだよ……」
「ギリギリって」
アウトにギリギリはないと思う。ほんと、変な人だ。
……明日は何聞こうかな?




