第16話 クリスマス会①
終業式とともに、私の高校二年の二学期は終わった。
淡々とホームルームを進める三山先生と、すぐ前の席に座るミカの後頭部を交互に眺めながら、私はルーズソックスの暖かさに小さな感動を覚えていた。
何往復目かの視線の先で、ミカがクルッとこちらを振り向く。
「クリスマス会、楽しみだねぇ〜♪」
「あー、うん」
そう。今日の放課後は、生徒会と学級委員……だったかクラスの代表者だったか、とにかく誰かが企画した自由参加のクリスマス会があるのだ。
サンタの服を着たり、トナカイの角をつけたりして、お菓子とケーキを囲んでワイワイするだけの、ゆるい会。
ミカほどではないけれど、私もそれなりに楽しみにしている。
……けれど。いや、なんでもない。
今日で今年最後なのに、進路指導室に行けそうにないのが残念だなんて、思っていない。うん。
ただ、ちょっとルーティーンが崩れるのは困るかな?生活のリズムって、やっぱあるじゃん?
とりあえず、先生を軽く睨んでおくことにした。
「はい、じゃあ良いお年をー」
三山先生は、私の睨みに特に反応することもなくそう言って、颯爽と教室を出ていった。
――と思ったら、くるりと振り返り、私の席のほうへ戻ってくる。
え、なに? なんの不意打ち? ……いや不意打ちって。
「ミカ、ホームルーム中は前向いとけ」
「あー、ごめんち!」
注意されていたのはミカのほうだった。
「え、なんでミカって呼び捨てなの?」
「いや、みんなコイツのことミカって呼んでるからさ。俺だけ名字で呼ぶと不便なんだよ」
「あー、なるほど」
「名前で呼ばれると……なんかカップルみたいだね? 先生♡」
ミカが調子に乗って茶化す。
「みんなサーティワンって言うのに、俺だけバスキンロビンスって言ってたら面倒くさいだろ、って話だ」
「ロマンチックのかけらもない例え!!」
ミカが勢いよくツッコミを入れ、教室中に笑い声が広がった。
「でも、実際バスキンロビンスみたいな名字だよね」
「ま、可愛くはないよねぇ~」
私がそう言うと、ミカこと金剛乗美嘉は金髪の毛先をクルクル撒いて、ニシシと笑った。
* * *
放課後。
私はミカたちと一緒に、ミニスカサンタの衣装に身を包んで体育館へ足を踏み入れた。
「ツリー、でっか……」
真っ先に目に飛び込んできたのは、天井に届きそうな巨大クリスマスツリー。
え、去年は小さいのが何本か並んでただけじゃなかったっけ?
「なんか、実行委員の人のツテで、今年は立派なのが用意できたんだって〜」
ミカがスマホを構え、パシャパシャと撮りながら言う。
誰が実行委員で、どんなツテなのかはよくわからないけど――まぁ、なんか凄いからいいか。
そんなこんなで、私も友達と写真や動画を撮り合っていると、同じクラスの坊主頭・田中が声をかけてきた。
「柊……おまえ……似合ってるけど、エッチすぎね?」
「田中も、シカのコスプレ似合ってるよ」
坊主頭にツノを生やし、茶色い全身タイツを着た田中。
なんだろう、どこかで見たような……関西の方にいそうなゆるキャラみたいな?
「シカじゃねーし! トナカイだし! とりあえず一緒に写真撮ってくれ!」
「うん、いいよ」
ミカが田中からスマホを受け取り、カメラを構える。
「おい田中、葉月の写真を変なことに使うんじゃねーぞ!」
「つつつ、使わねーし!!」
田中は下唇を突き出した変な顔で、見事にフレームに収まった。
そんなこんなで、代わる代わるいろんな人と写真を撮って遊んでいたんだけど――。
「……げっ」
「いや、なんだよそのリアクション」
「うわ、来やがったって思っちゃった」
元カレが、ふらりと現れた。
ふと横を見ると、ミカが手で何かを伝えようとしている。
2……夏……? ああ、『二年の夏に付き合ってたヤツ』って? うるさいなぁ、もう。
「その……なんだ。すげぇ似合ってる」
元カレは肌の見えてるあたりに視線を漂わせながら、妙なトーンで言った。
いや、もうちょっと頑張れよ。
「ありがと」
「ちょっとだけ、あっちで話せねぇかな?」
「え、なんで? ヨリ戻す気とかないけど?」
「いや……そういうんじゃなくて……」
ちょっと離れた場所で話してみたけど、結局「ヨリを戻さないか」という提案だった。
これがサンタ服の魔力、ってやつである。




