第14話 美少女は好きじゃない?①
12月になった。
寒い中、私は緑チェックのスカートをほんの少しだけ長くして登校している。
タイツ履いて、ロング丈にすれば寒さはもっと凌げるんだけど、私のギャルとしてのプライドがそれを許さない。
たとえ雹が降ろうが槍が降ろうが、私はミニスカートを維持し続けようと思っている。
……ごめん、やっぱ槍が降ったら勘弁して。家から出たくない。
この時期は意外と微妙なもので、マフラーを撒いてると暑かったりする。
そう意味でもミニスカートは適度な体温維持に一役買っているのではないだろうか?
……うーん。無理があるな。やっぱただのギャルのプライドって事にしておいてくださーい。ごめんなさーい。
教室に入るとミカが駆け寄ってきた。
「葉月おはよー!!寒いねー?寒そうだねー!?」
カーディガンの袖をすりすりと私の背中に擦り付けてくる。
静電気起こるからやめてくれないかな。
ミカはスカートの長さそのままに、ルーズソックスを履いていた。
「ルーズ……。その手があったか!!!」
「んふふー。じゃあ明日は一緒にルーズ履こうね♪」
「うん」
ミカの足元をチラチラ見ながら雑談をしていると、やがてチャイムが鳴り朝のHRが始まった。
三山先生は珍しくキッチリとしたスーツだった。すかさず男子が質問する。
「先生、デートっすか??」
「なんで?」
「気合入ってるじゃないですか」
「ああ、スーツの事?」
先生はジャケットの襟を軽く持ち上げてから何てことないように質問に答える。
「試しに着てみたら、今の気温にピッタリだったから。しばらくコレで行こうと思ってな」
グレーの薄くチェック柄の入ったスーツに、臙脂色のニットベスト。
ネクタイの柄が……よく分からないけど凄く合ってると思った。
ふーん、やるじゃん三山。私は謎の上から目線で褒めたたえる事にした。
その後はいつもの出席。
「柊」
「はい」
先生はここ最近、うっかりフルネームで呼ぶことが無くなった。
だいぶ慣れてきたのかな、と思うと何だか少し寂しいような気がした。
三山先生。三山晶先生。
代わりに今度、私がフルネームで呼んでみようかな?
先生の出席を取る声を聴きながら、ボンヤリとそんな事を考えた。
* * *
いつもの放課後。この時期の進路指導室は3年生で結構賑わっている。
私は普段通り小さくノックをして室内へ入るーー
「じゃー晶的にはベル女もオススメなんだ?」
「せめて先生つけろ。……っていうか女子大以外なら選択肢もっと増えるぞ?」
「んー。晶みたいな男子ばっかりなら良いんだけどね?ほら私美人だから。色々と面倒じゃん?」
「高校まで共学だったんだから、残り数年くらい何てことないだろ」
先生を名前で呼んでいるのは。
この学校だと知らないものは居ないであろう、超絶美人で有名な3年生白石萌先輩だった。
腰までほんのりウェーブがかかった赤茶の地毛に、クッキリハッキリパッチリと3拍子揃った瞳は長い天然まつ毛がバッサバサ!!
極めつけは白雪姫の異名を持つ真っ白な美肌である。
……ちょっと語り過ぎたけど、まぁ何というか女の私も憧れるほどの美人な先輩なのだ。
今年の体育祭では色々とお世話になった。
そんな感じで。相変わらず綺麗だな……と見とれていると先輩が私の視線に気づいた。
「柊ちゃ〜ん!今日もバッチリ仕上がってるじゃん」
その美貌が私を捉えた。やだ、美しい。
「……超絶美人に褒められるの、下手な賞もらうより嬉しいですよ」
「もー、お世辞うまいなあ」
「事実ですから」
白石先輩はこれまた綺麗な笑顔を浮かべて三山先生へと向き直る。
「晶ー、コチラ私の――一推し美少女の柊葉月ちゃんです」
「知ってるよ。俺のクラスの生徒だし」
三山先生はメガネを外してこめかみのあたりを揉みながら答えた。
「え、そうなの??なんか運命感じるじゃん」
白石先輩は嬉しそうに頷いた。
その後も先輩はどこを受けるべきかを細かく相談し、「じゃあね、晶」と最後まで三山先生を呼び捨てにして去っていった。
他の生徒もいっぱいいて、今日の先生は大変そうだ。
* * *
そこから数時間後。
「あーもー。」
二人きりになった進路指導室で三山先生は悪態をついた。
私は淡々とノートに目線を落としたまま先生に話しかける。
「今日は忙しそうでしたね」
「んー。大体の生徒は対して手がかからないんだけどな……」
大体の生徒、という言葉に何か嫌な気持ちを覚えながら私は話を続ける。
「白石先輩は手が掛かりますか?」
「あー。アイツな……。」
三山先生の声のトーンが明らかに落ちる。
私は黙々とノートにシャーペンを走らせながら
「……晶って呼ばれて、嬉しそうにしてたじゃないですか」
そう告げた。
「……なんか、怒ってる?」
先生は少し戸惑っているみたいだった。でもそんなの関係ない。
私はノートを書くスピードをさらに早めて……。
ページの最後まで一気に書ききった後、シャーペンを置き。
消しゴムを三山先生に投げつけた。
「うおう!?」
先生としばし見つめ合う。
……恋も何もないはずなのに、私たちの修羅場が始まってしまった。




