第13話 修学旅行③
夜の女子部屋。
修学旅行は、あと一泊と一日を残すのみだ。
今日も今日とて女子会である。
ジュースとお菓子で始まる、乙女たちの小さなお茶会。
「ポテチはそっと開けてよ!? 私のベッドに粉散らさないでよ!?」
友達の叫びを無視して、ミカは――
「無礼講じゃーい!!」
盛大に袋を破った。
「あとで絶対きれいにしてよ!!??」
「おーよ!なんなら私のベッドと交換してやるぜ!?」
……なら最初から自分のベッドで開ければいいのに。
私は炭酸水をキュッと飲んだ。夜遅くにジュースはちょっと……。
私は友人たちの恋バナを聞きながら、こんなふうに心が動く恋をまだ自分は知らないんだな、と思った。
キュンキュンさせたり、ワクワクしたり、ドキドキしたり。意外と面倒くさく、無いのかも。
「あ、そういえば葉月の元カレ、ヤバかったよ」
「へ?」
元カレ……誰だろ?
「2年夏の方ね」
すかさずミカが補足する。
「ちなみに私は1年冬がタイプです!」
いや知ってるし。ていうか、人の元カレを記号みたいに呼ぶな。
「で、どうヤバかったって?」
「なんかね、葉月が心配だ!! 俺が探しに行く!!! って取り乱して大暴れしてたよ」
……うっわ。
「先生たちに羽交い絞めにされててさ。落ち着けって言われてたの、めっちゃ面白かった」
長く付き合ったわけでもないのに、どうして彼はそこまで熱くなれるんだろう。
「で、ミヤマンが行くってなったらさらに発狂してさ――」
そこからはモノマネ大会だった。
『なんでお前が行くんだ!? お前はアイツの何なんだよ!?』
『担任だよ』
『そうじゃねぇだろ!!』
『いや、担任だって』
『俺は元カレだ!!!』
『俺は今担任してる』
『なんで担任なんだあああ!?』
『もう行っていい?』
淡々と「担任です」と繰り返す三山先生の姿が、とんでもなくツボだったらしい。
……その場にいたら、私も笑えたのかな。
でも、心配してくれたのは――素直に嬉しい。ありがとう、2年夏の男。
「モバイルバッテリー買わないだけで大ごとになるとは思わなかったよ。みんな、ごめんね」
私がそう言うと、三人はドッと笑った。
「そういえばさ、先生と葉月が帰ってきたとき思ったんだけど」
ミカの言葉に、胸が一瞬ドクンとした。……いや、やましいことは何もないんだけど。
「めっちゃお似合いじゃない?」
「あー私も思った。身長差かな?」
「葉月も細いし、ミヤマンも細身だし」
「葉月のキリッとした目に、ミヤマンの垂れ目」
「葉月のストレートロングと、ミヤマンの癖毛」
「なんかこう、パズルのピースみたいに噛み合ってる感じ?」
ミカが総括する。
「……私、先生とそんなパズルみたいな関係なの?」
私の言葉に、部屋は笑いに包まれた。
「葉月、心を決めるしかないよ……」
ミカが茶化してくる。よし、乗っかってやるか。
「仕方ない。私が三山を嫁に貰ってやるよ」
「「「柊先生爆誕ー!!!」」」
……そっか。三山先生が嫁に来たら『柊先生』か。ていうか嫁って。
* * *
翌日は淡々と過ぎていった。
朝はロビーで駆け寄ってくる2夏をスルーし、昼はミカたちと観光地を回り、写真を撮りまくった。
その合間に見かける三山先生は、たいてい誰かとツーショットを撮っている。
そして何度目かの遭遇だった。
「ねえ葉月、先生と腕組んでさ。教会の前で立ってみて」
「は?」
ミカの提案に、他の二人もノリノリで賛同する。……いや、昨日の冗談だよね?
恐る恐る先生を見ると――
「どうせなら、ウェディングドレスも借りたいな?」
真顔でアホなことを言いだしたので、ミカは全力ダッシュで衣装屋に飛び込んでいった。
* * *
……事前予約制だったらしい。
「三山先生のドレス姿見たかった~」
口を尖らせて言うミカに、
「なんで俺が着るんだよ」
三山先生は冷静にツッコミを入れた。
結局みんなで順番に、先生と腕を組んで教会の前で写真を撮ることになった。
最後は私の番。……え、ほんとに組むの?
先生が余裕たっぷりに腕を差し出す。その顔が妙にムカついたので――
私は先生の両手を取って、正面で見つめ合うポーズに誘導してみる。
「こっちの方が結婚式っぽいでしょ?」
先生は私を見つめたまま、何も答えない。
「ミカ!撮って!」
「おおおおおおおおおおお!!!」
ミカが雄叫びを上げながらシャッターを連射する。
「エモい! エモい!!」と他の友人も騒ぎ、スマホを構える。
……最後にミカが「キスしろー!」と叫んでお開きになった。
先生は顔だけ余裕そうだったけど、繋いだ手の汗は半端なかった。
ドキドキしたのか、それとも……私の手が、熱かったんだろうか?
* * *
はしゃぎに騒いだ数日間。
帰りの飛行機では、もう起きていられなかった。
「つっっっかれたぁぁぁぁぁ……」
帰宅して荷物を放り出し、そのままベッドに倒れ込む。
横になったままスマホをいじると――画面に、教会の前で先生と見つめ合う写真。
……近いな、顔。
調子に乗ったのは、ミカじゃなくて私かもしれない。
そんなとき、ふと思い出した。
あのとき先生に渡された、小さな箱。
鞄を探って取り出す。小さくて、どこか高級感のある箱。
中に入っていたのは――
路地裏のアクセサリー屋で、私が一番素敵だと思ったステンドグラスのネックレスだった。
光を反射して、キラキラしている。
すっごく、綺麗。
「……え。ネックレスって、生徒に渡すものじゃないでしょ……」
そう言いながらも、胸の奥が熱くなる。
……なんかキュンとする。いやいや、高価だし! アウトだし! ていうかキュンって何!?
慌ててネックレスを箱に戻し、机の端にそっと置く。
なんとなく、このまま寝たら先生が夢に出てきそうな気がして。
私はミヤマクワガタの動画を十五分見眺めてから、着替えもせずに眠りについた。




