第11話 修学旅行①
11月。
冬の足音がジワジワと近づく中で――気づいたら、私は遠く離れた土地でひとりだった。
ずばり、迷子なのである。
修学旅行先。
バスがあまりにもギュウギュウだったから「私、次のに乗るわ」と降りたのがまずかった。
その後に来たバスに乗ったら、行きたかった場所ではなく、行く気のなかった見知らぬ場所へと運ばれてしまったのだ。
いやまあ、行きたい場所も見知らぬ土地だけど。
視界には、班の誰の背中も見えない。それどころか、同じ高校の人すらいない。
坂道と観光客でごった返す通りを見回して――ため息。
スマホの残量は3%。
さっきまでミカとやり取りしてたせいで、どんどん減っていった。
「……ま、最悪コンビニでモバイルバッテリー買えば何とかなるでしょ。やだけど」
モバイルバッテリーって高いし、普段ほとんどスマホを触らない私には要らないんだよなぁ。
1回きりのためにお金を出すなんて、できれば避けたい。
適当な手すりに腰かけて空を仰いだ、その矢先――。
ポケットの中でブルッと震えた。
画面に浮かんだのは『修学旅行緊急連絡先』。
そういえば、緊急時用に全員登録させられていたっけ。
迷子だもんな私。……仕方ないよね。
「もしもし」
『柊か? 三山だけど』
「あ、先生。スマホの電池、もうヤバイです」
先に伝えておく。切れたら迷惑だから。
『分かった。今いる場所から何が見える? 手短にな』
飲み込みが早い。やるじゃん先生。
「えっと……『世界で5番目に美味しいカステラ』ってのぼりと……なんか甘くて美味しそうな匂いがする」
『その隣に角煮まんの店はないか?店主に特徴は?』
「え、店主!? えーっと……ハゲと、化粧の濃いおばちゃん……?」
『分かった。今から向かう。そこ動くな』
「は、はい」
私の返事と同時に、ぷつりと電話が切れた。
……咄嗟にとんでもない悪口を言ってしまった気がする。
角煮まんのご主人? 奥さん? ごめんなさい、と心の中で深く謝罪しながら、先生を待つことにした。
* * *
数十分後。
私がいる場所から車道を挟んだ向かい側、例の角煮まんのお店の前にタクシーが止まった。
降りてきたのは三山先生だった。
お店の中を覗き込み、周囲を見渡して――私を見つけたようだ。
軽く手招きをされる。信号が変わるのを待って、私は先生と合流した。
「すみません。ご迷惑をおかけしました」
先生はふっと口元を緩め、
「気にするな。柊が無事でよかった」
と言いながら、角煮まんを差し出してきた。……え? なんで? 今買ったの?
「ここのが一番美味いぞ」
「ここも“世界で5番目”ですか?」
隣のカステラ屋の看板を見つつ、なんとなく口にする。しまった。
先生は角煮まんの奥さんと顔を見合わせ、声を潜めて言った。
「となりのカステラ屋は不味いが、この角煮まんは世界で一番美味い」
奥さんもサムズアップして、大きく頷いていた。
そういえば食べたことなかったな……。一口頬張ると、とんでもなくジューシーな角煮と、ふわっふわの生地のダブルパンチ。
……ヤバい。なにこれ。
先生と奥さんは得意げに頷いていた。
私が夢中で角煮まんを頬張っていると、先生はどこかに電話をかけていた。
たぶん学年主任とかその辺だろう。
「――はい。はい。分かりました。……ああ、待たなくて結構です。バスは先に向かっていただいて」
あ、そうなんだ。バスは先に行っちゃうらしい。
「タクシーがこの辺は少なくて……。公共交通機関で向かうので遅れるかもしれません」
……いや、目の前の道路にはタクシーがばんばん走ってるんですけど。
「――はい、はい。それでは後ほどホテルで」
電話を切った先生は、私と同じく角煮まんを頬張り、ひと息ついた。
「柊、行きたいところある?」
「えっと? 今日泊まるホテルに行くんじゃないんですか?」
「んー……そうなんだけど」
手についたソースをぺろっと舐めて、先生は続けた。
「せっかくだし、ちょっと寄り道しよう」
私が食べ終わるのを待って、二人並んで歩き出した。
……んん?? いや待って、これ。デート???




