第39話 私とあなたは
夢を見たと思うの。
ジェイク様と語らう日が増え、私なりに笑顔が増えてきたからかもしれない。
足の下には、落ちていく『箱庭』が。
目の前には、私より少し大人の姿をした『誰か』が。
『魔王』でないのは雰囲気でわかったので、別の誰かかもしれない。だけど、大人の『私』は私を見るなり、少し悲しい笑顔になってしまった。もしかして……と口が言葉を紡ぐ。
「……ミランダ、女王?」
『…………本当に。エディルが見込んだ私の子孫ね。憎いくらいにそっくり』
『魔王』が言っていた。帝国の勇者として派遣された、ラジールの建国王。だけど、当時の魔王とは密会で仲を深めた恋仲だったと。でも、それをほかの誰にも理解されず、なら自分で……と殺めたのが彼女自身だと教えてくれた。
その意識と、夢の中で『私』と繋がったのだろうか? 何百年も経っているのに??
「……私が、『魔王』を子として産むのはよくないことでしょうか?」
『それは、私の知る『魔王のエディル』ではないわ。混ざりに混ざった『魔王』の魔力から得た人格。……私の恋人ではないもの。それはいらない』
「……なら、何故今?」
『あの『箱庭』を壊してくれたからよ。墓標に仕立て上げただけなのに、子孫たちが魔に唆されて歴史を書き換えた。あなたが最後でよかったけど、こんな幼い子どもに『贄姫』をさせてただんなんて。本当に、人間もだけど魔族も愚か』
悔いているとしても、自分はもう死んでいるからなにも出来なかった。けれど、それでも、『贄姫』という慣習を終わらせるまではどこかで役に立ちたかったのか。
もしかして、『箱庭』の魔力を脈全体に行き渡らせていたのは……この騒動を終わらせるために? ご自分が死んでから、『魔王』に会いたかったにしても会えなかったから……こんな騒動にまで発展してしまったのだろうか。
「……お邪魔、したのでしょうか? 貴女様の思惑について」
『いいえ、いいえ。私自身が愚かだった。どれだけ望んでも、私が知る『エディル』を再生だなんて出来ない。……あなたが、『箱庭』をあの子と壊してくれるまでは』
「……私の知る『魔王』と?」
『ええ。おかげで、出会えたの。……エディルに。私だけの『愛しい人』に』
自分の笑顔を鏡でまともにみたことはないけれど。それ以上に歓喜に満ちた微笑みをこの目で見るのは少し照れてしまう。とりあえず、あの『魔王』が建国王が欲していた方を引き抜いたのだろうか。
あるいは、同じような夢の中での繋がりで、引き合わせたのだろうか。奥の奥が一瞬光ると、黒い影のようなものが見えた。ミランダ様はそちらへ駆け寄る前に私の方へ振り返った。
「?」
『我が祖国に舞い戻る小さな姫。その血筋は側妃であれど、正統なラジール王国のものだと胸を張りなさい。私に辛い使命を与えたあの国は本気で嫌だったけど……子孫が望むなら祝福してああげるわ』
「……ありがとう、ございます」
私がそう言えば、ミランダ様は迷わずに駆けていく。私はというと、意識がふーっとのぼっていくようで夢から覚める様だ。そういえば、今どの年齢だっけと思い出しながら次に目を開けたときは。ベッドでひとり寝ている時間帯だった。まだ明け方には程遠い時刻。
ただ、何故か窮屈だと思う。手足がベッドからはみ出そうなくらいに長いような。ナイトドレスも少しばかり縮んだかのように着心地が悪い。もう少ししっかり意識をはっきりさせ、手足を確認したのだが。
自分のではないのでは?と思うような『大人』の手足を見て、びっくりして叫んだのは仕方がないと思う。メイドふたりが慌てて駆けつけてくれたが、ふたりも『私』が誰なのか一瞬わからなかったらしいくらいに……しばらく『姫様ですか?』『うん』の言い合いが続く。
いくらか確認してから、ジェイク様を呼んでいただくことになったが……服をどうしようかとさすがに困ったので、ミンナがシーツで即席のドレスぽい着方をしてくれて。アーシャはジェイク様の前に夜勤らしいシスファ様を呼んでくれた。
「……姫? その姿もですが、痣は??」
すぐに来てくださったシスファ様と変わらない背丈なのもだが、『魔王』の贄姫になっていたあの動く痣は調べてもらっても……どこにもなかったそうだ。ミランダ様が夢の中でなにかしたのかしら??
次回は土曜日〜




