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【完結】『箱庭の贄姫』は呪い以上の愛を知ることに  作者: 櫛田こころ


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第37話 一転二転して

 『箱庭』を崩壊することが出来、ラジール王国にも戻ることがないと決定した私は帝国に戻って……ジェイク様の婚約者としての英才教育を受けてながらの生活が続いていた。


 ジェイク様は近衛騎士団の団長の仕事もしながら、皇太子殿下としての公務を『サボって』いた分かなり取り組んでいるために……朝食すらも会えないでいる。


 私に淋しい思いをさせないと公言はしてくださっても、お互いの『結婚』という儀式を行うまでには足りないものが多かった。それを止めていたのがジェイク様だったということがわかり、それはそれで仕方ないと、私も受け止めたのだ。


 話し相手には、本来これもあまりいけないことだけれど……シスファ様とナーディア様が定期的に部屋に来てくださる。近衛騎士団副隊長クラスのおふたりにわざわざ、と最初の頃は思ったが今はほっとできるくらいに安心している。


 歳の差は大きくても、話し慣れた相手との会話は安心が出来るのだ。



「レティの刺繍の腕、また上がってないかい?」



 会話だけではもったいないと、シスファ様の提案でハンカチの刺繍をしているのだけれど。ナーディア様はご自分のがぐしゃぐしゃになっているので、どうも悔しいという顔をされていた。



「エルディーヌ姫の上達が早いのは喜ばしいことです。……殿下が受け取られる度に、自慢しまくるのはいただけませんが」

「ほんと。レティが~~って、あれ。正直言って、うざ」

「……作り過ぎでしょうか?」

「レティは気にしなくていいのー。殿下がこどもっぽいだけ」

「ええ、そこは同意します」



 ジェイク様は初めてお会いしたときから、明るくて気遣い上手で……優しすぎて、私の心の苦しみを簡単に引き剝がしてくださる。それがそれがとても心地よくて、恋仲になってからの時間が甘やかで痺れるようなものもあるくらいだ。


 まだ十五なので、私は清い身でいなくてはいけない。成熟にも程遠い体なので、それはだいたいあと二年かかってしまう。成人の儀式もまだなので、婚礼の儀式も形式ばったものはともかく、お披露目の意味では出来ないのだ。



「……でも。ちょっと、会いたいです」



 ぽつん、と口から出てしまったつぶやき。


 思いのほか、はっきり聞き取れたのでしまったと思って顔を上げれば……ナーディア様はともかく、シスファ様までぽかんとされていた。



「れ、レティ? 自分から、会いたいって」

「……閨の英才教育はまだまだですのに。この甘やかし具合……そうですね。仕事場はむさくるしいのでお連れできませんが。こちらにお呼びすることは大丈夫でしょう」

「書類完成とかあるかい?」

「既にティータイムの時間。我々と交代……くらいでいいでしょう」

「え~。レティともっと話したかったのに!!」

「私もですが、姫のご希望優先です」

「ちぇ」

「あ、いえ。そこまで」

「いいえ。姫、そこはご自分の優先でよいのです」



 封印具の眼鏡ごしに、瞳がやわらかくゆるんだかと思えば。上着の中から一枚の紙を取り出し、これまたどこから出したペンでさらさら中身を書いて折りたたむ。ふっと、息をかければドアの隙間とか関係ないようにして飛んで行ってしまった。


 そこから、ほんの少し待っていただけだったが、あらっぽいノックの音に心が震えそうになった。



「入るよ」



 息切れが凄く、肩が上下している。髪が汗で少し濡れて下がっている感じも……かっこよく見えてしまうのは、相手がジェイク様だからだろう。すぐに駆け寄りたい気持ちが出てきたが、シスファ様に待ったと顔の前に人差し指で制された。



「殿下。必要以上のお戯れはご法度。それを忘れなきよう」

「心配し過ぎだって。レティに無理はさせたくないさ」

「無理させないではなく、法の意味でもまだ貴方がたはそこを許されていません」

「いちゃいちゃし過ぎて、未成年に強姦とかやっばいもんね~?」

「ナーディア……もう少し慎ましい言い方を」

「結局はそうじゃん?」

「ははは。俺も真昼間からレティとの語らい以外で無理強いしないさ。特に、父上以上に母上から釘刺されているしね?」

「……皇妃様のご助言があるのなら、我々は退室しましょうか」

「じゃね、レティ~」



 おふたりは途中だった刺繍の道具は私のテーブルに置いていき……本当に、私をジェイク様とふたりきりにしてくださった。


 ほんの、出来心というか会いたいという気持ちが前に出かけただけだというのに。ジェイク様に振り返っても、変わらない微笑みのまま……手を広げてくださったので、私はついそちらに飛び込んだ。



「あ~……レティの匂い。父上らが忙しくするから、余計にいい匂いで癒される~」



 別の部屋で控えてくれているメイドのふたりに、出来れば聞いてほしくない言葉だけど。多分、控室の端っこに移動してくれているから大丈夫だろう。前に教わったから、そこは信じることにした。



「……でも。そんなにもお忙しいですのに、申し訳ございません」

「うーうん。二、三日丸々休みを作ってさ? レティとのんびり過ごしたいってお願いしたらこうなっただけ」

「……え?」

「君だって、養育のレベルが上がったでしょう? その頑張りを婚約者の俺が労わらないわけがない」

「……では、無理にしなかったら?」

「俺の処理能力を舐めちゃいけない。団長だけの仕事に見せかけていたの……あれが、ちょっと頑張った方なんだよ」

「……普段は、その方がいいです」

「おっと。これはこれは随分と甘やかしが必要だ」

「そうです」



 態とではなくとも、ふたりきりの時間を多く作るよりも……もっと、もっと普段のふれあいが欲しいと思う欲が出てきてしまった。『魔王』は今酷く疲れているかで、あれ以降呼びかけにも応じてくれない。もしくは、本当にただの『胤』とやらになってしまったかもしれない。


 だから、欲張ってしまうのだ。好きで、大好きで。愛を伝えたいと思う相手が近くにいないのは、物凄く淋しいと。



「なら、シスファたちとの時間も減るけど……それはいいの?」

「それも、捨て難いです」

「はは。わがままになったね?」

「ジェイク様の養育のせいです」

「違いない」



 軽く顎に手を添えれば、すぐに唇が重なることもいつものこと。表面を擦り合うそれは、触れたところから熱を帯びそうになるのでまだ逃げがちになるが。


 手を握り、抱き合うのだけはいつまでも欲しいくらいだ。そこはたしかに欲張りかもしれない。

次回は火曜日〜

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