第36話 我が同士の弔い
『俺』を育ててしまったもの。
『俺』を慈しんでくれたもの。
エルディーヌは、あいつの子孫として不遇と言ってもいい扱いを受けてしまっていた。
『ミランダ』は望んでいないのに。
あいつは、『俺』を討伐するように祖国から言い渡されただけで……何も悪くない。
多くの血潮を浴び。
多くの穢れを払い。
多くの……命を屠った。
まだ魔力脈とやらがほとんど開拓されていない、『瘤』もなにもない平和とも混乱の世とも言いにくい時代だったが。
『俺』はあいつの側にいてやれなかった。
あいつも『俺』と結ばれてはいけなかった。
人間と、魔族。種族の違いなんてただの理由付け。ミランダの祖国が『魔王』を討伐する上での大義名分とやらをつけたかっただけだ。
『俺』を殺しても、魔族がいるというのに。
『魔族』を殲滅しても、脆い人間の何倍も生きるからすべてを殺すことは不可能。だから、愚かなミランダの祖国は『俺』だけを討伐するように仕向けた。それだけ成せば、ミランダの将来も約束すると勝手なことを言って。
『……私を殺せば、いいよ。『——』』
今の『俺』では混ざり過ぎてその名を名乗れないし、覚えてもいない。しかし、エルディーヌが『俺』を受け入れてくれたことで『俺』の名前がうっすらと思い出すことが出来た。記憶の中で、ミランダに呼ばれたそれはひどく甘やかで痺れる思いを伝えてくれる。
しかし、あいつはもうどこにもいない。別の男と結ばれて国を建国した。
別の男との子どもを残し、俺の形見をあの『箱庭』に埋めた。『箱庭』は本当に『俺』の弔いのためだけの場所。離宮に近いことから、避暑地にもしていただけ。
それを何代も何代も。
『俺』を快く思っていなかった、魔族との介入もあり……あいつの子孫の中でも、魔力が豊富な子を『贄』にしてその場所に据えた。『俺』を含める『魔王の胤』を育てに育て……次世代の『魔王』に君臨させるための傀儡にするという、阿呆な計画だった。
(……馬鹿だなあ? 『俺』が表に出たことでた時点で、気づけよ。誰が最強を決めるかなんて勝手にしてくれ)
『俺』はミランダのいない世界に興味はなかったんだ。
あいつとの戦闘は楽しいから、最後の最後に受けたまで。
けど、結ばれないなら……あいつに討ってほしかった。
なのに、静かに眠らせてくれないのなら……と、思ったら、あいつとはまったく似てない子孫の姫の中で目が覚めたんだ。
『ここから……出して』
エルディーヌの悲痛な叫び。
ミランダが泣いているように見えて、心底おかしく思えた。魂の転生はないようだが、魔力と血についてはあいつに匹敵するくらい……強いものだった。
だからこそ、『胤』となった『俺』が復活してしまった。
それはミランダのためにはよくないと思い、俺はエルディーヌを慕い始めたジェイクに申し出たんだよな? 思いのほか、柔軟な考え方のやつで気に入ったが。まさか、ミランダの祖国である『帝国』にそんなもちかけをすることになろうとは。
だが、もう『俺』の知る連中は人間たちの中にはいない。ミランダもとっくの昔に死んでいるんだ。
エルディーヌの身体を維持しつつ、ジェイクの身体を落とさないように気を付けながら『箱庭』が崩れるのを見ていたが。『俺』の庭が壊れていくのが滑稽に見えて仕方ない。
『バイバイ。またね』
『俺』が『魔王』でもないとき。ミランダの遊び相手だったころの記憶が蘇る。ここでの記憶ではないのに、なんでいま?とも思うだろうが。エルディーヌの心にも『別れ』が浮かんだから、意識が共有しているせいもあるのだろう。
だから、俺もこの『箱庭』に別れを告げた。
ミランダへの想いも、共に昇華できるように願って。
次回は土曜日〜




