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【完結】『箱庭の贄姫』は呪い以上の愛を知ることに  作者: 櫛田こころ


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第35話 さよなら、居場所だったもの

 私はどうして、こんなにも単純な生き物になってしまったのだろうか。


『魔王』が任せろと言って、『箱庭』はこちらで破壊すると決めたのに……駆けつけてくださった、ジェイク様の姿が見れたから、その……こんなときでも、すごく嬉しかった。感情は『魔王』に筒抜けだろうけど、今はのんきに話している場合じゃない。


『魔王』は魔族らしいふたりの女性を相手に、指を鳴らしながらじゃれるようにして戦っているのだ。『魔王』は強いようだけど、抗っている魔族ふたりはまだまだ打ち込んでくるようだ。かなり魔力を消費しているだろうに、肩を上下しながらの呼吸をしつつもまだなにかを企んでいるような。



「……魔王、さま!」

「そんな……そんな、脆い人間の子どもが母なのはまだしも!? 復活を望まれないなんて!!」

「だーから。『俺』は嫌なの。面倒。魔族統一はお前らでやってくれ」

「「いやです!!」」

「なんでさ~?」



『魔王』は本当にその位にまったく興味がないのは、意識を繋げている私にもわかる。大人のようでいて、子ども。私よりは大人の知識を持ってはいても、その中身は『子ども』のままだ。


 色んな『魔王』の『胤』とやらが混ざっても、彼はこんなときでも『子ども』を隠さない。


 だから、面倒ごとは避けたいのは仕方ないのかもしれない。それだけの理由じゃないけれど、私がジェイク様と……この先、夫婦になって子どもが出来た時に『自分』もいっしょに育ちたい。ただそれだけを望む『子ども』なのだ。


 契りがどうとかは、私も詳しく養育を受けていないけど……ジェイク様となら嫌じゃない。まだ数回程度のキスしかしてないけど、あの甘やかで痺れる時間は好きだ。その証となる子が、今表に出ている『魔王』なのは受け入れようと思う。彼がいなければ、こんなにも早くジェイク様と想いを交わすためのきっかけが出来なかったのだから。


 それでも、魔族たちにはどうでもいいことらしいのか。攻撃の手をやめずに尚も言い続けていた。



「我らの悲願を!」

「その娘で、至高なる贄姫にようやく仕立てることが出来ただけですのに!!?」

「『胤』の器としてでなく、母など……目を覚ましてください!!」

「至って普通。『俺』を利用しようとする魂胆みえみえ」

「「ぐが!?」」



 また指を鳴らし、今度はふたりの手を首に巻き付けるなどと……器用なことをし出した。殺しはしないが、ここで殺しても得るものはないと……『魔王』の気持ちは伝わってくる。


 魔族の成り立ちは、魔力脈の穢れから派生した生き物……らしい。彼の知識が流れてくるだけだけど、ここで終わらせても次に来る魔族があってもおかしくないからだとか。


 なら、ここで『箱庭』を崩壊させて痛い目を見せるので十分。ジェイク様が担当している魔族は我を失いかけているので、少し加勢しているのもさすがとしか言い様がない。



「……終わればいいんだよ。こんなこと。ミランダの望んでいた『魔王』の弔いは『俺』が代わりにするんだ」



 多分だけど、ここに来る途中に教えてくれたラジールの初代女王。


『魔王』と恋仲だったかもしれない、彼女なりの弔い方法が北区域に位置していた『箱庭』。


 今は私たちの下で、崩壊がどんどん進んでいき……黒いねばっこいのとオレンジの魔力だったものと合わさって溶けていくようだった。『魔王』としては、これをさらにどうにかしないと瘤に影響を及ぼすだけだからと、宙を蹴る仕草をして……衝撃を『箱庭』だったものへと投げつけた。



「「あぁ!?」」



 魔族らが嘆いても今更遅い。


『魔王』もだけど、私にもためらいはない。ジェイク様と引き合わせてくれた場所でもあったけど……あの穢れた『箱庭』は二度と作らせてはいけないのだ。贄姫も置いてはいけない。


『魔王復活』とか、『国家繁栄』などとバカげた理想のために置いていけはいけないのだ。養育の足りない私にだってわかるもの。あれがあって、誰も幸せだなんて……絶対なれないことくらい理解は出来る。


 贄姫()でなくても、『魔王』でなくても。


 これから、先々の人間や魔族だって関係なく。


 終わりのない生命のやり取りを繰り返そうとしても、『かつての存在』なんて戻ってくるわけがない。私の表に出ている『魔王』すら、そうだと自分で言いきっているのだから。



「……まだ歯向かうつもりがあるなら、遠慮なく相手してやる。けど、お前らくらいの上級魔族らが……逆に統治すべきだろ? 魔族領とやらは」



 もう自分には関係ない。


 そこに居る理由もないから……という感じに伝えたのか。魔族の方も、なにか我に返ったようで……泣く寸前だった方が気づき、もう一人の背を叩いて声を上げた。



「東の! 撤退だ。ここにはもう用はないよ!!」

「……しかし!!」

「無理なんだよ。……我らの魔王様は、もうどこにもおられない」

「……そう、か」



 ジェイク様の剣に自分の剣を弾かれたが、ジェイク様は殺しはしなかった。ちょうど、そのタイミングで割り込みが入ったので私たちの背を守ってくれたのか温かいのを感じたから。



「帰んな、お前たち。誰を『魔王』にしても……のちの世とやらが勇者を決めるかもしれねぇ。それ対策とやらでもしとけ」

「「「…………」」」



 尤もらしいこと『魔王』が言ったあとに、彼らの身体が揺らいで姿が消えていく。『魔王』が完全に消えたのがわかったのか、『ん』と言いがらジェイク様の剣を下すようにと腕を叩いた。



「もういいぜ。『俺』も、ちょっと無茶な魔力使ったから……お前ら下ろすのに、集中したい」

「それなら、抱えるけど?」

「お、あんがと」



 さすがに、壊れていく『箱庭』には降りるつもりはないようだけど……もう、無くなっていく姿を見ると、これまでに何頭も潰してきた『家畜』らの姿が軽くよぎった程度。


 それくらいしか、心に残らないのだなと……私は『魔王』の意識と切り替わるまで祈りのようなのを捧げることにした。


 もう二度と戻らない、私のかつての居場所。安らかに、終わってください。

次回は木曜日〜

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