第34話 今は信じる
(……まったく。魔族どころか、魔王に加担するような形になるとはね?)
レティの意識が『魔王』に切り替わり、自分たちで『箱庭』を壊すからあとは頼んだとは言われたが……魔族もだが、魔獣の襲撃も狙ったかのように来たので、それは任せるしかなかった。本当なら俺も付いていきたかったが、ここは騎士団の団長として……次期皇太子としても軍勢への指揮をとらなきゃいけない。
魔獣を何体か薙ぎ払い、攻撃魔法でも突進を食い止めたりしたが数は減るどころか増える一方だ。
『放て! 修羅の焔!!』
現役『炎帝』の中でも随一の能力保持者である、ナディくらいの豪炎とかがあれば……もう少し魔獣でも魔族でも一掃できると思うんだけど。俺には『混合』した能力者の弱い魔力しかないのか、威力はどうしたって生粋の彼女らには劣る。浄化だって、結局はシスファには敵わない。
愛する姫君のために、ほかにも何か出来るか考えても考えても仕方がない。
考えながら、魔獣を屠る手を休めないがいつもの討伐任務より手ぬるい捌き方だったと思う。それを指摘してなのか、ナディに肩を強く叩かれた。
「みみっちぃ、塵仕事してないで!! さっさと行ってくださいよ!」
「へ?」
「こちらの討伐任務の指揮は引き継ぎますので」
シスファまでなにを、と言いかけたが。後方の道を空けてくれたことで理解出来そうだった。なんだかんだで、レティの直接的な護衛は彼女の体内にいる『魔王』しかいない。それを外側から死んでも守れるのは、レティの婚約者である俺だけだ。
「……総員。可能な限り、命優先で!」
「「はっ」」
「つか、それは殿下もですよ~」
「お気をつけて」
「ありがと!」
脚に強化魔法をつけて、出来るだけ加速し。『箱庭』は地面からかなり遠いけど、そこはさらに強化魔法を足にかけて駆け上がるように跳びはねた。途中、戦闘中の工作員とすれ違ったりはしたが、俺がレティの補佐に回るのかと思ったのか、その戦闘力が増した気がした。
皇太子ってだけで、まあやる気を出せるのはいいことだけど……俺の本来の目的はレティの無事とお迎えだ。
触手のようなオレンジの『瘤のなりかけ』には気持ち悪いしか思わないけど……この中に、代々の贄姫やレティの魔力がたっぷりと含まれている。下手に壊したら、ここいら一帯大爆発だけで済まない予感がする。
『魔王』はどうやって、この『箱庭』を壊すのだろうか? 割と力業が多いようなあしらいをするから……順当にいって、真っ二つとか??
「よ……っと」
『箱庭』でも地面に近い場所に立てば、すぐに鼻に来た腐臭で口を手で覆った。正直言って見たくないが、俺がレティと最初に会ったあのときの『ぼろ家』の中身はどろどろで獣たちなんてどこにもいなかった。
毒獣だと見解があったし……魔力脈の魔力に逆らえずに溶けた? ものすっごく嫌な臭いだけど、レティはどこだ!!?
「うぉーい!!? 親父殿!! あんたどこにいんだよ!!?」
聞こえてきたのは『魔王』の声だ。レティの身体を借りるときに少年の声を重ねたような濁声。
上を向けば、屋根の方で『魔王』が手刀を下ろしているところ。周辺には攻撃魔法を繰り出している魔族らが男女数名。
もしかしなくとも、俺って結構やばいタイミングで来ちゃったみたい?
『魔王』が腕を下した瞬間に、家ごと『箱庭』が左右に分かれ……俺は慌てて広そうな敷地の方に移動した。
だけど、それもやっぱりまずくて。最悪なことに『落ちる』側の土地に移動していた。
「あーもう。来るなら来るって言えよ!」
近くで『魔王』の声がしたと思ったら、身体が浮く感覚がして足元に何もなくなった。どうやら、彼がこちらに飛んできて俺に魔術かなにかをかけたらしい。基本身体強化以外得意でないので、これからはもう少し訓練しますと謝罪した。
「いや……面目ない」
「こっちのことはいいって言ったのに……本気で、エルディーヌが心配なのはよーくわかった。このまま、ほかの連中ボコさね?」
「……いいね」
浮いたまま戦えるかと言えば微妙だけど、足場をきちんと整える補助もしてくれたようだから大丈夫だと思う。
『魔王』は女の方を。俺は男の方を。それぞれ向き合った途端、向こうからの攻撃が始まった。
「閣下を誑かしたのか!? 人間無勢が!?」
「誑かしただなんて酷いね? 友好関係を築いたまでさ」
彼の復活を目論む幹部格なのはわかったが、『魔王』が復活どころか俺とレティの『子ども』になるのを深く望んでいるのが気に食わないようだ。俺だって、レティの承認がなかったら少し遠慮したかったが……レティが『いいよ』と言ってしまったし、俺たちは『恋仲』になったんだからそれは受け入れなくては。
『箱庭』が下でどんどん崩れていくのは耳に届くが、魔族と剣技で渡りあえるかといえば……自信がないけど、後ろで頑張っている『魔王』に身体を貸したレティを信じなくちゃ。
ふたりでこの場を終わらせて、ふたりで『箱庭』の本格的な崩壊を見届けなくちゃいけない。ラジールの本当の意味での『終わり』を最後の姫君として目に焼き付けたいと、彼女は馬車から降りる前に言っていた。
俺は恋仲としてだけじゃなく、帝国の皇太子としてそれを共に見届ける義務がある。
そのためには、今向こうで爆音が響くのは聞こえるが……レティたちを信じてあげなくちゃ!
俺は足にかけられた魔術を駆使し、踏み込んで魔族の男の頬に傷をつけることがやっと出来た。当然怯むから、卑怯関係なしに魔法は繰り出すさ!!
次回は火曜日〜




