第33話 『箱庭』と向き合う
ジェイク様と見上げる形になった、『箱庭』との対面。
オレンジ色のねばねばしたなにかが山の途中にくっついている形になっているのは、なんとも変な気持ちだと思ってしまうけれど。
贄姫が長く住んでいた場所。
私があの中で毒獣を口にし、魔素とやらを溜め込んでしまっていた根源。これを壊すのには、私がこの体にまだ溜め込んでいる膨大な魔力と……意識をともにしている『魔王』の協力が必要。
今でこそ、ほかの部隊とやらが待機してくれているけれど……あの死んでしまった魔族以外にもこの『箱庭』を狙う魔族は多くいるらしい。
そして、魔王の魂を宿している私自身も。だからこそ、先に『箱庭』は壊さなくてはいけない。壊しても、吸わせていた私の魔力がどうなるかがわからないが。これまでの贄姫の魔力は、魔力脈に流れていったのだからあまり残っていないはず。
しかし、私は歴代随一のと言われるくらいに、豊富な魔力をこの体に宿している。魔王が表に出れるくらいに相性がいいのはともかく……これからの自分の生き方を決めた今は、元凶を壊してほかをなんとかしたい気持ちが強かった。
(皇帝陛下にも認めていただいた、時期皇妃の英才教育……それを、がんばらなくちゃ)
ジェイク様への想いを自覚し。
ジェイク様と心を通わせたのだから。
ただただ、大人しい姫の生活をするわけにはいかない。贄姫だったことは忘れられないが、ラジールの姫だったおかげで、嫁ぐ意味では問題ないと言ってくださった。陛下もだが、ジェイク様は側妃も得ずに私だけを愛すると宣言してくださったのだから……その気持ちには、応えたい。
『エルディーヌ、変わるか?』
「……そうだね、お願い」
魔王にはまだ名をつけるわけにはいかないと、仮の名前も付けていない。
名をつけることで、魂が完全に私の中に定着して……場合によっては魔力の中に溶け込んで、意識も赤子同然になる可能性が高いそうだ。だから、まだ『魔王』のままでいてくれるようにお願いした。
意識をお腹の奥に沈めるようにイメージし、表の自分を内側に押し込めた。その方法だけで、『魔王』が表に出てくれる感覚が伝わってくる。魔法をろくに使ったことのない娘だが、『魔王』がうまく誘導してくれたから出来たこと。これから、ジェイク様の隣に立つのなら……もっと技術を習うことも必要だが、今は関係ない。
『魔王』に意識が切り替わった途端、彼が両手の指をいくつか鳴らした途端。体を守る結界が展開され、何かがぶつかる音が耳に届いてきた。
「エルディーヌから『俺』を引き抜いて、次の贄姫とかに入れたいのか? 馬鹿だなあ?」
どうやら、ほかの魔族とかはとっくに待機していたらしい。ジェイク様やシスファ様は結界を囲むような配置にと剣を構えられたが、『魔王』がいらないと手を振った。
「『俺』は自分でなんとかする。エルディーヌは任せな。『俺』の母だしな?」
「と言っても、俺にとって大事な婚約者なんだけど?」
「魔族以外に、魔獣も呼んでいるはずだ。全面的に対処しねぇと……『箱庭』は壊せられん」
「……しょうがないね」
「殿下。来ます!」
シスファ様が封印具の眼鏡を外されていたので、次の攻撃が見えてのだろうか。それにすぐ反応できるジェイク様もすごいけど……私は私で、『魔王』に身体を預けながら結界ごと『箱庭』に移動することになった。
移動中、もちろん攻撃はあったけど結界のお陰でけがとかは特にない。
「エルディーヌ。ひとつ昔語りをしながら向かおうか?」
『……余裕そうだね』
「魔族連中が『俺』に固執する理由があるんだ」
『……じゃあ、聞く』
「素直だな。……勇者とやらに、『魔王』は討伐されたとは言ったっだろう?」
『聞いたね?』
ひとつ、また攻撃が来たが結界は固くて簡単に弾いた。
「そのうちのひとつ……『俺』が強く残した魂には、勇者に恋した『魔王』がいたらしい。そいつは女勇者だったんだよ」
『え?』
「しかも、今の状況を知ったら撃沈だろうな? ラジールの建国女王だったんだぜ、そいつ」
『……知らなかった』
「かなり昔の話。『箱庭』とやらを作ったのは、ほんとは違う理由だ。……弔いたかったんだと、『俺』を」
『けど……私の父やその前は』
またひとつ、結界に攻撃が来たが弾かれた。『魔王』が飛ぶのをやめて、『箱庭』の地面に降りる。そこには何人かの魔族が待機していた。この前見た少年とかではない、男女のそれだ。
「そう。今目の前にいるこいつらが……『俺』の復活のためにと、そそのかした」
「! 閣下! 我らはそのつもりは!?」
「貴方様を復活させ、魔族の秩序維持をしていただきたかったのですよ?」
「え~? 『俺』面倒だから、選出お前らじゃなきゃダメなの?」
結界は解かないままだったが、『魔王』は心底面倒だと首を横に振った。魔族の方は何か反論しようにも、『魔王』の態度と同時になにか攻撃されたかで動けないようだ。『魔王』はしばらく彼らを見ていたが、無視することにしたのか地面を蹴って『家』の屋根に飛んでいく。
私が一度も昇ったことのない、高い高い屋根。そこからぼろい中を覗くと黒い何かねばっとしたものが動いているばかり。あの家畜だと思っていたものもいないし、やはりここは『呪われた土地』として扱われていた証拠だ。『魔王』を産み下ろすための、特別な土地とは結局そんなものなんだったなと。
そこに吸わせていた『私の魔力』は極上の代物だったとはいえ……こんな扱いになるのなら、やはりここは残していい場所じゃない。
『……魔王、壊して』
「いいぜ。俺もこんな『抜け殻』に用はない」
手を上にあげ、一気に下におろせば。
地面にいた魔族は知らないが、魔王の攻撃で家から巡にふたつへと別れた『箱庭』。
噴き出す黒い魔素は気持ち悪く見えたが、『魔王』が息をかければ塵のようになって消えていく。
次回は土曜日〜




