第32話 かろうじて耐えられた
死ぬことはなんとか避けられた。あの魔族のふたりが、途中で撤退してったからや。
男の方が部下らの攻撃を受けては弾いていた途中、舌打ちしたことで勝手にいなくなった。女の方も『仕方ないわねぇ』と言いながら霞のように揺らいで消えた。
「……マジで、なんやった??」
血を流すとかその程度の傷でなんとか済んではいるものの、死者手前は何名か。俺もかろうじて生きてはいるが、部下らに治癒魔法かけたら倒れるのは確定次項やな?
しばらく、様子見はしたがあいつらが戻ってくる気配はない。なら、と一番軽い方から順に治癒魔法をかけていき、起きたらそいつが別の奴にかけると繰り返していく。俺が倒れそうになったら、部下のひとりが受け止めてくれた。
命がけいうか、効率重視のやり方やから隊長の俺が先に倒れるわけにはいかんからな? あとの始末を部下に任せ、俺は荒くなった呼吸を整えるのに必死になった。
「……すいません、隊長」
「……ええわ。死人出た方が余計に面倒やし」
「「……感謝します」」
俺への治癒魔法が終わった後は、携帯食料と薬草茶で適当に体力を回復。『箱庭』は動きを止めてはいないが、ここで破壊するかどうかの判断は……やっぱり勝手にしたらあかんと思った。あんなめちゃんこ強い魔族らがつけ狙うくらいの『呪物』。
とくれば、贄姫さんとこの方が危うい。次期当主らが殿下の周りを固めているから……まあ、簡単には殿下らも殺されんはず。けど、姫さんはド素人も素人の人間のはずや。
魔力だけが膨大の操り人形ちゃうのは、破邪の方の姐さんには一応通達はあったがな?
「隊長! 式手紙が!!」
その声にええタイミングやと受け取り、開封すれば……俺は笑い転げそうになったわ。俺がこんな元気に笑うのを部下らはあんま見たことないから、ぽけっとなるのもしゃーない。
「ど……どうしたんですか?」
「ははは。おもろいで? 姫さんの判断で、この『箱庭』壊したいんやと」
「「「おお」」」
「せやったら、自分の目で確認したいやろ? ここで自分らの回復も兼ねて待機や」
「「「は!!」」」
手紙にはそれ以上のことも記されていたが、こいつらにはまだ言う必要がない。
贄姫の成り立ち。
『瘤』の中身。
『胤』の集合を贄姫が代々受けていたこと。
そして、その『胤』は数百年前に討伐された『魔王』の核が融合したもの。
最後には、『魔王』が姫さんと協力し合い……『普通の人間』を望む生き方をしたいとあったんや。これが一番笑ったんやけど、部下らに言ったらぽかんする以上の反応になるからなあ?
さらに、殿下と姫さんが想いを交わし合い……婚約したとかは笑いごとには出来んけど。
工作員らに、『箱庭』の警護を必要以上に警戒しながら指示を出し……魔族連中に痛い目に合わせられた一部は回復に専念。
殿下と贄姫がこの場に来るまでは、死んだとしても『箱庭』を利用させられんように務めなあかん。
人員の替えはつくろうと思えばいくらでもつくれる。
しかし、『贄姫』は次世代となる王族はもう誰もおらへんし、帝国側も許したりしない。
虐げられた王女の末路なんて、ほかの嬢ちゃんみたいな子どもにさせるわけにはいかんのや。
それに、魔力脈の正常化にも繋がるのであれば、『箱庭』破壊も本人らが見届けた上で実行した方がいい。
あの魔族らがまたやってくるかもしれへんけど……そんときは、そんときや。
俺らが死んでも、殿下らを守れるんであればそれでよし。
それに、『魔王』の『胤』を目の前にしてあの魔族らが贄姫を殺せるかどうかも見極めなあかんしな? 無理無理と言い訳しとる場合やない。
回復が完了するまで、三日以上はかかったが……その間に、殿下らがこの山脈にいらっしゃる準備が整ったようや。俺がまあまあ動けるようになった、翌日くらいに。
遠目では見たことがあるけど、実際にはほっそりした可愛らしい少女が殿下に手を引かれてやってきた。
(……随分、殿下がデロ甘やんな?)
顔立ちはいいけど、元敵国の姫にそこまで惚れる要素……癖のある性格の殿下にはドンピシャやったようや。姫さんは姫さんで、恥ずかしそうに笑っていたけど……まだ数か月も経ってないのに、『箱庭』から出られたんで落ち着いたんやろな?
王女なのに、王女の生活をしたことがない庶民でもどん底の生活を虐げられていた少女。
魔力豊富以外で、なにもかも諦めさせられていた。そんな悲しい生活を殿下が色々助けてくださったんやろう。それやったら、まあ……ヒナの刷り込みよろしく、懐くのもしゃーない。でも、見る限り殿下の方が激しくアタックした感じやな? 舵取りどっちなんやろ??
とりあえず、『箱庭』の近くで待機しとった俺が工作部隊の代表として姫さんに挨拶させてもろたわ。
次回は木曜日〜




