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第15話「“地の歌”——通路が増える日の基準」

 朝、土の低い拍がまだ胸骨の裏で鳴っていた。

 見張り台の脚に耳を当てると、昨日の地鳴りログ0.1が、今日は0.3へ上がっている。

 板の見出しを新しく三つ。


《通気と通路 v0.9》——通気路の“歌口”/開通の儀式/封鎖の歌

《骨の点線譜 v0.3》——骨センサー配置図/低周拍の読解

《風向反転手順 v0.1》——旗・灯・湯気の並列切替


 レンが指で地図の空白を差す。「ここ、穴が増える匂いがします」

「匂いの語彙が増えたな。——通気が通路になる日だ」


1. 通気の“歌口”——風を先に通す


 開くのは道ではなく風だ。先に風を通すと、道は傷を少なくして生まれる。

 矢印屋の老夫婦が薄紙の風図を広げる。

 湿り蜘蛛の巣図、落とし戸の枠、風抜き穴、帆布の上縁、Vの既設位置。

 俺は通気口を三箇所仮に作る。名は歌口A/B/C。

 Aは第二層の膨らみ手前、Bは落とし戸の上手の梁、Cは井戸裏の古い石目。

 歌口に紙鳴り旗をつけ、風が通るとサリサリ鳴るようにした。


「まず通気祭だ」

 通気祭は三分。

 〇を一つ(息を合わせる)、二歩で歌口から離れ、三呼吸の間紙鳴りを聞く。

 紙が歌えば、道はまだ塞ぐ。歌わなければ、開く候補に上がる。


 午前、Aが最初に歌った。

 サリ、サリ、サリ。

 湿り蜘蛛が週替わりで張る道の裏に、新しい空隙。

 ミナが骨の点線譜を描き足す。「A:0.3Hz帯が上昇」

 俺は開通の儀式の札を出す。


《開通の儀式 v0.9》

① 視:紙鳴り→骨譜→湯気の順で、三面(目・手・鼻)で確認

② 名:道に仮名(青白路A)を付ける

③ 仮:白糸で細い一方通行(観覧一列)を三枠のみ

④ 歌:〇→二歩→三呼吸を拍見本として置く

⑤ 封:異常が出たら即封(**封札“灰”**で“灰封”)


 影が糸を指で弾く。「細い道から始めるの、好きだ」

「細いは速い。太いは事故の母だ」


2. 骨の点線譜 v0.3——“地の歌”の読み替え


 骨センサーは十箇所。

 おさえスパナの柄、落とし戸の側枠、旗台の根、見張り台の脚、歌口A/B/Cの杭。

 レンが点線譜を三段に分ける。

 低帯(0.2–0.4Hz)=地の呼吸、中帯(0.5–1Hz)=水の脈、高帯(>1Hz)=人の足。

 Aで低帯が増幅、Bは横ばい、Cは逆相。

 古参のハンマー男がうなる。「逆相は?」

「抜け道が二重にある。片方が吸う時、片方が吐く」

「肺だな」

「肺に名前を付けよう。左肺=青白、右肺=黄影」


 翻訳を板に貼る。


骨譜⇄運用 対照

・低帯↑(0.2–0.4Hz)→通気候補(歌口試験へ)

・逆相(Cのように)→二口運用(片側開/片側封で交互)

・高帯↑(>1Hz)→人流圧(糸と見学層を二段へ)


3. 風向反転手順 v0.1——旗・灯・湯気の並列切替


 風が南→北へ回った瞬間、影矢印の従属表示が主役になる。

 風札は青→灰へ。角度変更。

 旗は白→黄へ二本だけ切替、灯は蓄光の向きを変える。

 湯気はVで上口を広げ、灯籠の歌口も半に。

 三面が揃うと、反転でも拍が消えない。

 ミナが笑う。「旗と湯気が会話してます」

「会話ができるのは、文体を揃えてあるからだ」


4. 開通:青白路A(仮)——三枠だけの小さな道


 仮名:青白路A。

 白糸を張り、一方通行。観覧十名×三枠。

 俺は先頭、ミナがしんがり、レンは歌口で紙鳴りを聴く。

 〇、二歩、三呼吸。

 壁が冷たい。新しい道は体温が低い。

 角を曲がると、湿り蜘蛛の古巣。糸の名残が指先に質問してくる。

 俺は手話で切、退避窓を半開きにする。

 別れ道の気配——Cの逆相が指で分かる。

 二口運用の出番だ。

 左肺=青白を開、右肺=黄影を封。灰封の札を置き、紙鳴りを止める。

 二枠目、骨譜が安定。

 三枠目、人の足(高帯)が上がりすぎた。

 見学層が寄りすぎたのだ。

 俺は上段化の合図旗を出し、上=見学/下=進行に分け直す。

 遅延は二呼吸でゼロへ戻る。


 出口で、子どもが白糸の手前に〇を作った。

 返すが新道にも浸透している。


5. 封鎖の歌——閉じ方も拍で


 右肺=黄影は、今日は封だ。

 封鎖には歌が要る。

 一拍で灰封の札を置き、二拍で理由を書く(逆相/抜け道二重)、三拍で再評価の刻を砂時計に落とす。

 封は恥ではない。拍の休符だ。

 古参のハンマー男が頷く。「休符がない曲は、演者が死ぬ」


6. 通気と救護の交差——“息の道具”


 青白路Aの二枠目で、老人が息を上げた。

過換気ではない。深呼吸の入れ方が分からない。

 レンが襟光の緑を指で示し、円を作る。

 俺は**“息の道具”を渡す。細い木笛——音が出ない。

 〇で吹くと、襟光が緑で拍を返す。

 老人は笑って手話で円を作った。

 息にも道具が要る。音が出ない笛は通気の教具**だ。


7. 地の歌の“外部”——薄衣、橋の向こうで


 昼、薄衣が橋の中央で〇を掲げた。

 「地が鳴る日は、影も歌を短くする」

 「休符だ。——そっちは?」

 「十は数えない。〇は増えた」

 同、呼吸が勝つ。

 狭衣主任からは巻紙一通。「通気先行:仮承認——二口運用、記述よし」


8. 夕刻——地の合唱へ備える


 骨の点線譜に低帯の裾が広がる。

 合唱の気配——複数の歌口が同時に鳴る前兆だ。

 俺は**《合唱手順 v0.1》**を急ぎ書く。


合唱手順 v0.1

・単声優先:同時に開くのは一口まで

・対唱:開口/封口を交互に二拍毎

・合いの手:太鼓一打で窓の〇を強調

・記録:骨譜は色分け(A青/B白/C灰)


 合唱は壮大だが、速い。

 速さは事故の匂いを連れてくる。

 歌で遅らせ、拍で分ける。


 夜回。

 青白路Aは二枠だけ再実施。

 光苔はいつもより薄いが、紙鳴りが伴奏してくれる。

 〇の輪が小さく、二歩が短く、三呼吸が深い。

 出口で、ミナが小声で言う。「通気は通路の前日譚ですね」

 「物語は、風から始まる」


 終礼。

 板に**“地の歌”の数字が並ぶ。

 骨譜 0.3→0.35(A↑/B=/C逆相)、歌口A開通:三枠→遅延2呼吸→復帰、封鎖“灰封”1(右肺)。

 平均待ち時間 9分、講習参加率 87%、回転率 147%、レビュー 4.93。

 風向反転適用 3回→遅延ゼロ。

 息の道具(無音木笛):配布12→緑域到達率 +14%。

 手順書は1.28へ。

 開通の儀式/灰封の歌/骨譜v0.3/二口運用/風向反転手順/合唱手順v0.1/息の道具を追記。

 字幕表 v1.4に「灰封=安全の休符」を追加。

 合言葉はレンが決めた。「風から始める」。講習で言えた客には紙鳴り旗ミニ**を一つ。


 古参のハンマー男は星を四つ半で置く。


★★★★☆+ 封が恥じゃないの、助かる。休符って言い方が腹に落ちる。飯はうまい。

「半は?」

「右肺ぶん。明日の歌」


 影は帰り際、灰封の札を指で軽く叩き、〇を作った。

 笛は一本。終わりの音は、風の抜けた道をまっすぐ通った。


本日のKPI(結果)


骨の点線譜 0.35(A↑/B=/C逆相)


歌口A 開通(三枠)→遅延2呼吸→復帰


灰封 1(右肺=黄影)


風向反転 適用3→遅延ゼロ


無音木笛配布 12 → 緑域到達率 +14%


平均待ち時間 9分/講習参加率 87%/回転率 147%/レビュー 4.93


手順書 1.28(開通の儀式/灰封/骨譜v0.3/二口運用/風向反転/合唱手順/息の道具)


次回予告


第16話「“合唱と断章”——同時に鳴る地をどう渡るか」

——二口運用を広げる合唱の日。単声優先/対唱/合いの手は耐えられるか。断章(封の挿入)の勇気、橋上の〇、そして地図と歌の同時更新が人を守るか。

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