神秘の泉
とある泉のお話し。
とあるブログに載っていた、
人が立ち入らない泉。
1枚の写真と
「◯◯地方のとある山にある泉」
「めっちゃ綺麗」
「でも余り知られていない」
という文章が載っているだけ。
場所は書いていない。
俺、八崎健志は調べて見つけ出し、
動画配信仲間と共に向かった。
因みに俺達の動画はチャンネル登録者200万人超えの人気チャンネル。
色々な場所に行き、体験をしたり家で実験をしたりするチャンネルである。
獣道を歩いて歩いて数時間。
やっとたどり着いた。
「みんなー!
これが噂の『神秘の泉』です!
うっわ綺麗!」
「おースッゲェキレーじゃん!
足痛いの吹き飛ぶわ」
「よく見つけたな、ここ。
場所は書いてなかったんだろ?」
そう言うのは配信仲間の優生と颯斗。
「ビューとか使って探しだしたのさ!
まあまあ大変だった」
「あーブログ、すぐに消えてたんだっけ?」
と優生。
「そうそう。
投稿者に連絡しても返信こないしさ」
「スマホで録ってるの忘れてないか?
ま、ここの部分はカットするかもしれないが」
「おー悪い悪い!
ホントは配信したかったけど、辿り着くまでに時間かかったからなぁ・・・。
獣道大変だった!
それじゃ、泉に近づいてみます!」
「楽しみだな!」
そう言って泉に近づく健志と優生。
きた おとこ さんにん
「うわぁ綺麗だ!底が見える見える!」
「おお凄え!・・・ん?」
「どうした?」
「いや、なんか底に何かある。何だあれ?」
「あ、ホントだ!何だ?」
目を細めて何か確かめようとする2人。
キーンと耳鳴りがして目が回る。
思わず頭を押さえる健志。
「どうした?」
「ちょっと耳鳴りと眩暈が・・・っつ!?」
くらりと回る視界。
視線の先の水面ににたりと笑う女の顔。
次の瞬間白い手が伸びてきて水に引き摺り込まれる。
「健志!?」
「え、うわあ!?」
突然落ちて驚き慌てる2人。
すぐに顔を出すが、バシャバシャと水を掻くだけの健志。
「おい大丈夫か!?てか
お前泳げなかったっけ?」
「誰かが俺を引き摺り込んで、足掴んでんだよ!
助けて!」
そう言った次の瞬間、姿が見えなくなる。
「待ってろ!」
そう言って服を脱ぎ、飛び込もうとする優生。
だが
「ひぃ!?」
「おい、どうした!」
「泉から手が伸びて!俺に手を伸ばしてんだよ!
うわぁぁ来んな!」
腰が抜けてへたり込む優生。
そこに無数の腕が伸びてきて、
ずるずると引き摺られる。
「ひぃぃぃ!やめろぉぉぉ!」
ばたばたと暴れるが抵抗虚しく引きずられる。
ひひひひひ かかった やった おとこ わかい
ふふふ あはは
「優生!どうすれば・・・。
あ」
カバンをごそごそと漁る。
取り出したのは祖母からもらったお守り。
「これ、効くかな?」
じっと見つめた後、意を決してお守りを投げる。
優生の肩に落ちたお守りに怯んだのか手が離れる。
ギロリ、と殺意を込めた瞳が向けられる。
じゃま するな
ビビりつつ
「よし!上がれ!優生!」
と叫ぶ。
腰まで浸かっていた優生は自力で這い上がる。
にげた ちくしょう まて
「あとは・・・!」
水面を見、走ってお守りを取り泉に入る。
手は近寄ってこない。
底で女達に絡め取られている健志に近づく。
女達は顔を顰め、コチラを睨み付けてくる。
お守りを前に出して威嚇すると離れる。
健志の手を取り上がる。
すぐさま口に手を翳し呼吸を確認するが、
息をしていない。
(やばい)
泉を見ると、女達は底から睨み付けている。
とるな えもの
お守りを見るとボロボロになっている。
「もう使えないか。
早く逃げて助けを呼ばないと。
心配蘇生か?
優生、立てるか?
ここから逃げるぞ、早く!」
そう言うと健志の手を自分の肩に回して歩き出す颯斗。
「ちょ、待てよ」
よろよろと立ち上がり歩き出す優生。
「肩回せ。早くしろ!
あいつら追ってくるかもしれない!」
優生が後ろを振り返ると睨み付けつつ底から迫ってくる。
かえせ かえせ かえせ!!
「ひっ!」
びびって固まる優生。
「振り向くな!
前を見たままこいつを早く運ぶぞ!」
そう言って泉から出ていった。
・ ・ ・ ・ ・ あとすこしで
ひきずにこめたのに・ ・ ・ ・ ・
⭐︎⭐︎⭐︎
目を開けると何処かの川。
目の前には橋が架かっている。
橋に向かってトコトコと歩いていく。すると
「健志!返事しろ健志!」
「おい逝くな!戻ってこい!」
後ろから叫ぶ声。
振り返って声の方へと歩いていく。
「ん・・・」
パチリと目を開く。
「健志!良かったぁ目を覚ました!」
「はぁ・・・良かった・・・」
横を向くと優生と颯斗が手を握っていた。
白衣の男性もいた。
「八崎健志さん、聞こえますか?」
口を開く。
「はい・・・」
「脈拍呼吸、心拍数も正常に戻りましたね。
もう大丈夫です」
男性が言う。
「えっと、ここは・・・?」
「病院だよ!お前、泉に落ちて助け出した後、
ずっと意識不明だったんだ。
さっきあの世に逝きかけてたんだぜ?
声かけて、手を握って。
いやぁ、心臓によろしくないってこれ。
目を覚まして良かったぜ」
優生がそう言う。
「1ヶ月は意識無くて、毎日見舞いに来てたんだ。
けどさっき容態が急変してさ」
颯斗が付け足す。
「ああ、そう言えば・・・。
泉の中にいた女に引き摺られて、殺されかけたんだっけ」
「・・・ああ、そうだ。
必死で助けて、スマホは圏外だったから衛星電話使ってさ、救助呼んで。
あの場所には行ってないから荷物、泉に置いていったまんまだ。
もう行きたくないけどな」
「これに懲りたらもう近づかないでくださいね。
それでは私はこれで」
医師が出ていく。
颯斗が口を開く。
「あの後、泉の事調べたんだ。
そうしたらあの泉、神様がいるって信じられていて、
昔水不足の時とか、雨が降って大変な時とかに
人柱をたてて泉に沈めて祈りを捧げてたんだってさ。
神様が男神だから女の人が人柱にされてたんだって。
明治時代まで続いてたって。
そのせいか女の幽霊が出て、泉に引き摺られるって噂があって、立ち入り禁止になってるんだって。
写真も撮ったら祟られるからダメなんだと。
お前が見つけたブログの投稿者、調べたら
洗面所で亡くなってたって。
死因は溺死。
水の溜まった洗面台に顔突っ込んだまま死亡してたって。
肺とか水溜まってたって。
たぶん・・・」
口を噤む。
「そっか・・・って、まさか底に沈んでた物って」
「多分人柱になった人達の骨だと思う。
動画は消した。
今回はばーちゃんから貰ったお守りが役だった。
あれがなかったらお前も俺達もあそこで・・・」
「俺はあの世に逝きかけたけどな。
あれ、あの世に行く橋だったのか?」
ポツリと言うと顔色を変える2人。
「どう言う事だ?」
「なんか、目の前に橋があって、そこに歩いてた。
お前らの声が聞こえたから引き返したけどな。
で、目が覚めた」
そう言うと固まる2人。
そして顔を見合わせ
「ヤバかったなホント。
声かけて手を握って良かった〜」
「ああ、本当にな」
うんうんと頷きあった。
その後、家族が来てこっぴどく怒られ。
無事に退院。
動画配信予定だった『神秘の泉』は本人達が生配信で説明し、死にかけた話をしてバズり。
ネットのニュースにもなり某呟きサイトでもトレンド入りし、少しの間世間を騒がせたとさ。
橋に行きかけて声がして引き返した話は、
母方の親族が体験した実話。
母から聞きました。
お読みいただきありがとうございます。