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『好きな人、いるんですか?(不発)』 __じれったさ全開、片想いは今日も空振り。

無自覚にカイルをぶっ刺すリネアと、静かに瀕死の副団長をご堪能ください。

とある任務帰りの休息日。

夕陽が落ち切った後の食堂では、訓練を終えた若手騎士たちが集まり、賑やかに遅めの夕食を囲んでいた。

焼き立ての肉の匂い、湯気を立てるスープの香り……そして、なぜか一番盛り上がっているのは「恋バナ」。


「副団長って、好きな人とかいないんですか?」


スプーンを口に運ぼうとしたリュシアンの手が、そこでぴたりと止まった。


「……、まぁ、いるけど、」


曖昧な笑みを浮かべて、言葉も曖昧に。

この手の話題は、下手に否定しても詮索されるし、かといって本気で話せば、もっと面倒になる。

だから、適当に笑って流すのが一番だった。


「えー!!誰ですか?! 副団長に好かれるなんて、羨ましすぎますよ!!」


無邪気な反応。

けれど、リュシアンはそれに対して、ますます曖昧な笑みで応じる。

何の意図もないその無邪気さが、ほんの少しだけ、胸に刺さる。


そして、話題は変わる。


「じゃあ団長は!!恋したことあるんですか?」


静かに、空気が止まった。

あからさまに緊張が走る。

その場にいた全員が一斉に、団長席を見やる。

その中心でリネアはというと、パンをかじりながら平然と眉を上げた。


「恋? 別にないわ。そんな暇もないし?」


……あっさり。

まるで「明日は晴れるらしいわね」とでも言うかのような、実にさらりとした否定。


「えっ、本当にですか? 団長すっごい綺麗だし、強いし、誰かしらに告白されそうなのに……」


「されたことはあるけど、惹かれないのよ。……私、守られるのは嫌なの」


その一言に、リュシアンは内心で嘆息した。

まただ。

彼女は時折、悪気なく、するりと刃を突き立ててくる。


「私、自分より弱い人と付き合いたい。守られるのは嫌、だから、まず騎士は論外ね」


無邪気な笑みで言い切るリネア。

その言葉を、真正面から食らっている男が、ここにいる。


──副団長、死亡確認。


さすがに空気がざわつき、気まずそうに年長の騎士たちが視線を逸らす。

リュシアンは何も言わず、ゆっくりとお茶を口に含んだ。


……苦い。


まるで、自分の想いを味わうような苦さだった。


いつも通り、何気ない顔をして隣に座っている彼女が、まさか自分の一言で誰かの胸が千切れそうになるなんて思ってもいないのだろう。

けれど、だからこそ、嫌いにはなれなかった。


自分より強くて、無邪気で、誰よりも真っ直ぐな彼女。

それが、リネア・エルステッドという人間だった。


「ところで、リュシアンの好きな人は騎士なの?」


不意にリネアが口を開いた。


「えっ…、まぁ、…はい……」


──完全に、分かっていない。

それが、彼女らしいといえば、それまでだった。


「へぇ、そうなのね? 誰かしら?」


満面の興味。

本気で聞いているのが分かる。

無邪気で、無意識で、まるで子どものように。


リュシアンは心の中で、誰にも聞こえない声でそっと呟いた。


(団長、お願いですから……ほんの少しでいいので、察してください)


誰もがそう祈っているような空気の中、リュシアンは笑顔を崩さずに、静かにスープを飲み干した。

それは、温かいのに、ひどく冷たかった。


それでも。

彼女が隣で笑っている限り――

この席を、離れようとは思わなかった。


そんなある日だった…彼女に思いがけぬ一通の手紙がと届いたのは────

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