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陽の下、揺ぐ  作者: カナメ
三章 逝導
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逝導


 沈黙を破ったのは、ミナトだった。

自分でも、なぜその言葉を口にしたのかはわからなかった。けれど、何かを言わなければならない気がした。


「…あんたが、逝導様ってやつか?」

声が出た瞬間、祠の空気がわずかに揺れたような気がした。

けれど彼女は特に驚いた様子もなく、ただ静かに瞬きをした。


「…そう呼ばれてる」

その声は、風が擦れるように淡く、けれど芯のある音色だった。

冷たくも、暖かくもない。

ただ、そこに在ることを許された声だった。


「俺はミナト。ヒノモトって島から来た」

そう言うと、彼女はほんの少しだけ、首を傾げた。

それが興味なのか疑念なのかは読み取れなかったが、彼女の表情はまるで波のない湖面のように静かだった。


「…ヒノモト」

彼女はその言葉を、喉の奥で一度だけ転がすように呟いた。

そして再び、ミナトの目をまっすぐ見た。


「そこからどうやってここへ?」

ミナトは答えようとして、言葉を探した。

けれど、すぐには見つからなかった。


「…海で釣りしてたら、でかい黒いやつに襲われて…気づいたら、森ん中にいた」

彼女の目が、わずかに細められた。

それはまるで、ミナトの中にある言葉にできないものを、直接探ろうとするような眼差しだった。


「それ、多分、煌」

「やっぱ、あれ…あんたも知ってるんだな」

ミナトは目を伏せ、拳を握った。

あの黒くて巨大な龍のような異形。

名前すら知らなかったその存在に、自分たちの暮らしが一瞬で壊された。


「煌に出会って、生きてる人間なんて…ほとんどいない。普通なら、魂ごと焼かれる」

「でも、俺は生きてる」

「…そう。だから今、こうして私と話してる」

その言葉には、驚きでも賞賛でもなく、ただ受け入れるという重みがあった。

彼女はミナトの目をじっと見ていた。


「あんたは…逝導ってのは…いったいなんなんだよ」

彼女は少しだけ視線を外し、祠の奥を見やった。


「私はシズク。逝導は…そうだね…煌を浄化する者…かな」

その一言が落ちると、森の中に風が吹いた。

どこか遠くで鳥が鳴き、葉が擦れ合った。


「なんだよそれ…」

 

「逝導の役目は煌を完全に浄化すること」

「煌の浄化なんて…出来んのかよ」

「きっと出来る」

シズクは真っ直ぐミナトに視線を向けて言った。

 

その言葉の重さにミナトは黙っていた。

まだ自分が理解していないことに、どこか悔しさのような感情を覚えながら。


※本作はすでに完結済みの長編ファンタジーです。現在、連載形式で投稿中です。物語は最後まで投稿される予定ですので、安心してお楽しみください。


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