第八話「ホープ魔法学園編入試験」
毎日は繰り返しの日々だ。埃の被ったベットをぱっぱと払い顔を洗う。
寮の内部は中々に良いものだった。事前に知らせてくれていたこともあり
歓迎ムードで出迎えられた。食事も屋敷にいた頃と比べると質素だが
脂っこいものが並んでおり、これはこれで乙なものだ。
きっと頑張って用意してくれたのだろう。頭が上がらない。「おはよー」
寮生活なので大部屋に複数の人との共同生活。「おはようございます!」
彼女の名はライラ。宴を提案したのもこの天使らしい。
「今日は四騎士様と戦いをするんでしょ?!頑張ってね!」
「え…えぇ」宴のこともあり良い気分だったのに一気に気分が沈む。
「はぁ」溜息をつき食事を頂く。強張り上手く喉に通過しない。
寮の隣にある食堂へと到着。「なに落ち込んでんだよペルセポネ!」
顔を見上げると男がいた。「あれ…なんでここに男が」
「おいおい!ホープ魔法学園の食堂は共同なんだぜ?」「あぁ…そうでしたね」
「で…あなたは誰なんですか…」気分が優れなくぶっきらぼう。
「俺の名前はプリアプス!イケメンな俺に惚れんなよ?」「そうですか」
食事を手短に済ませ後を去る。「おーい!頬が赤くなってるのがバレバレだぜー?」
違うわ馬鹿。処女なんてもう無くしたも同然。いちいち恋愛程度気にしてられない。
あーあ、嫌だなぁ。実技は昼に始まるらしい。
それまでは勉強でも魔法の練習でも何でもしとけとパリスが言っていた。
だが、そんな気分ではない。きっと、練習なんてしたって敵いっこないに決まっている。
ベンチにでも座りながらだらだらと空を眺めていた方が有意義だ。「あら」
あっと驚く声が聞こえた為後ろを振り向くとヘーラーがいた。
「お母さまもサボりですか?「ち…違います!私は授業の合間の小休憩を!」
そんなことを言いながら目をそらす。サボりだろうか。親子の血は争えないな。
「ペルセポネは大丈夫なのですか?昼頃始まるのなら少しくらい練習していた方が…」
「練習した程度で私じゃ勝てっこないですよ…お母さまの言う通り全力は尽くします
ですが…それとこれとは別なんです」「……」ヘーラーはただ黙っていた。
きっと怒るのだろう。ぷるぷると手を震わしている。「分かりました!」
どんと響く声。「な…なんでしょうか…」
「亜空間を存在させる魔法」「・・」
ぱちんと指を鳴らすと同時に空間が変化する。花畑が美しいところだ。
「お…おかあさま…?」「破滅の光線魔法」「・」
びゅんと光の光線が発射される。だが、大きさが私と比べてけた違い。
これは、食らいでもしたら体が消し炭になるぞ?!
「上空に飛ぶ魔法」「・・・ーーー||」目にまとまらぬ速度で上に舞う。
だが、その程度で避けれるほど甘くはなかった。
光線がびゅんとうねうねと曲がり頬を掠る。「くっそ…!」
「剣を突き刺す魔法」「。。。・・|||ー」
数本の剣がヘーラーに向かい突撃するも魔法を使われることもなく
身体能力のみで避けられる。
鳴る風切り音。「姑息なことは得意なものですから!」
どさくさに紛れ剣を一つ上空に残しておいたのだ。「平たい鉄を出す魔法」「・」
鍋蓋のような鉄が頭上から出現。いともたやすく防がれる。
「ま!まだまだぁ!」
「はぁ…はぁ…くっそ…」「ふふっあなたもまだまですね」
大の字で寝っ転がる私を見てにやにやと笑う。「ま…まだ…!」「おやめなさい」
「今の状態なら多少は戦えるでしょう
少しは力を温存なさい」温存するためならこの戦いの意味はないじゃないか。
不満げに顔をする。
「あら…不安そうな顔をしていたのでつい…」心を見透かされたようだ。
「ですが多少戦闘慣れしといたほうが良いのは事実です」
再度指を鳴らすと時空は元に戻る。
「頑張ってくださいね
あなたが勝つと信じています」頬の傷を治しスタスタとどこかへ消え去るのだった。
「これは運命ですからね」そう、ぽつりと聞こえた気がした。
「お立合いの皆様!今宵もやってまいりましたホープ魔法学園編入試験!」
あれから数十分経っただろうか。あの後一人で作戦を考える為
ベンチに腰掛けていると闘技場のような所へとワープされていた。
「挑戦者のペルセポネ様!この方はなんと!
ゼウス様の実の子です!どれくらいまで耐えれるのか見物ですねぇ!」
周囲の人が賑わう。きんきんと響き居心地が悪い。
「さてさてお次のお相手は~?」「うるせぇなぁ」
その一言で先程とは打って変わってしんと静まり返る。「えぇとぉ…」
司会者も戸惑っているではないか。「手短に」
「は!はい!この方は四騎士様の一人で
きたる厄災の為と結成された英雄の内の一人です!」
「ははっおれぁそんな風に言われてたんだなぁ」頭をぽりぽりと掻く。
絶対零度のような視線。
それが、私の方へぎろりと向く。「少しは楽しませろよ?」「が…頑張ります」
「謙遜すんなって!二人で殺し合いを楽しもうぜ?」舌なめずりが鳥肌もの。
「で…ではスタート!」生徒は闘技場の空気に飲まれている。
物珍しさで来た部外者も息を呑みじっくりと観察しているよう。
私は、こんなところで死ぬわけにはいかないのだ。
「えぇ…お互い楽しみましょうね?」