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第一話「底辺様」

前日譚です



二つの涙が暗黒に零れ落ち、宇宙を輝かせ新たなる世界が誕生する。

世のため人の為に願う者は世界を運命へと導くことができるでしょう。

鬼が出るか蛇が出るか。善の神か喜の神なのかは誰も分かりません。

幾億もの世界でたった一つ。底辺様の物語が生まれようとしていたのです。


「だ…誰か…食べ物を恵んでください…」

みっともなく街を歩く人々に乞食している私。

そっぽを向く人もいれば、見下した顔で指さす者もいる。

なんて情けないのだろうか。頬を赤らめる気力もないが。

所々服に穴が開いており、決して女のする格好ではないことは確かだ。

頬は痩せこけ、下腹が膨らんではいるが上腹の骨が浮き出ていて気味が悪い。

まともなご飯なんていつ食べたかな。


突如ぴゅーと耳をつんざく音が辺りをこだまする。

鳥が羽ばたき、辺りが異様な空気に包まれていた。空襲警報だ。

人々が虫のように逃げ惑っている。

子を突き飛ばし我こそが先にと走り去ってゆく者。甲高い悲鳴を荒げる者。

私も逃げないと、そう思い立ち上がろうとするが足に力が入らない。

まともに栄養を摂取していなかったから体が弱っていたのだ。


必死に這いつくばって逃げようとするが、もう遅かった。

上を見上げると黒い形をした「何か」が降ってくる。

「何か」を検知した瞬間けたたましい音が鳴り

瞬く間に炎が回りを囲み、激痛の中意識は途切れたのだ。


私ってなんでこの世に生まれたのだろう。何か成し遂げて来たのか?

あぁ神様、もし実在しているのなら

おなかいっぱいにご飯が食べれる楽園へ導いてください。


視界が真っ白になった



「・・・!・・」「・・・・!」

人の声のようなものがする。私ってまだ生きてたんだ。

この世界に未練なんてないのに。「う…うぎゃぁ」

視界が真っ暗なもんだから目を開けると、大柄な男女が私を抱きかかえていた。

周りには多数の女性や男性が涙を流し、歓声のような声を荒げている。

よく見てみると、後ろの人間には羽のようなものが生えてるではないか。

男が泣きながら私の頭を優しく撫でる。不思議と悪い気はしない。

ついでに、口を尖らせ熱いキスをしようとしてくる。

金を稼ぐ為何度も身を売ってきた私だが知らない男とはしたくないものだ。

ぶんぶんと腕を振り抵抗しようとするが、自分の腕が短いことに気が付いた。

もしかして私って転生したの?

ぶちゅっと口の中に生暖かい感触が襲う。



一年程経過した。ここはどうやら異世界らしい。

人々の優しい歌声、風が耳の奥を通過して心地よい。

もしかして天国なのだろうか?やはり私は死んだのだろう。


私の両親は金持ちなのか、とても大きい家を持っている。

といっても、はいはいで行ける範囲内の話だが。

私の思っているよりずっと大きいのかもしれない。


「もう…ペルセポネったら…どこへ行ったのですか…」

目の前にいる、はぁと溜息をついている黒髪の美しい女性は私の母だ。

名をヘーラーというらしい。ちなみに、私はペルセポネだ。

「あぅ…」とてとてと歩き自然に出くわしたように演技をする。

「全く…元気な子ですね…誰に似たのやら…」

ヘーラーは怪訝そうに抱きかかえるが、心なしか安堵した表情をしている。

…あまり心配をかけるのは止そう。


「ペルセポネ~あ~んでちゅよ~」言われるがまま口を開く。

煌びやかな装飾のされた食堂で、液体の入ったスプーンを口に入れられる。

うにゃうにゃと口をにっこりと曲げている白髪の人は私の父だ。

名をゼウスというらしい。「旦那様!それくらい私たちがやりますので!」

羽の生えた天使たちがぞろぞろと出てきてゼウスの肩を掴み止めようとしている。

「何を言う!私たち家族に与えられた唯一の時間をそれすらお前らは奪うのか!」

涙目になりながら天使を振り払い、力いっぱいにスプーンを私の口に入れる。

加減を誤ったのか喉元にスプーンが入りこほこほと咳をすると天使たちは大慌て。

ゼウスは情けなくあわあわと慌てふためいてるし

ヘーラーは腹を抱えて笑っている。普段の彼女からは考えられない表情だ。


今日は一段と疲れた。だが、案外こういう日々は悪くないと私は思う。

大切にされてると思うと、心がぽかぽかする。

前世では考えられなかった幸せを今は手に入れているのだ。

…よし!決めた! ベビーベッドの中から手を伸ばす。

この世界では絶対に幸せな生活を手に入れてやる!

毎日大好きな人に囲まれて、死ぬときには大勢の人々が悲しむ。

そんな正しい死に方をしてやるんだ。

心の中で決めると不思議と瞼が重くなる。


あぁ…そうだ…私はこの世界では本気で生きていくんだ…。



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