6話 魔物襲撃
外からは、人の走る音と、階段を走る音が聞こえる。
人の叫び声と走る音は、僕にとって騒音でしか無かった。
あぁ。そういえば、住民を誘導するようビフトから言われてたな。
体が動かねぇ。
――
村の周りの柵からは、1部の冒険者が魔法や剣で対抗していた。
村長の家では、村長と冒険者を含む約7人で、魔物の位置や攻め込む計画等を立てていた。
「…流石に、この村の冒険者だけでは足りないな。」
「えぇ。それに、どの魔物も中級の上位。タイガーウルフやオーガ。リッチも何体か。」
「…なぁ。お前の魔法じゃ出来ないか?」
ビフトがある魔法使いに話しかけた。
「はぁ。私の魔法も、流石にリッチやオーガは無理。オーガは魔法有効でも、リッチが使う魔法無効化で攻撃は不可能。中級は物理攻撃が使えるやつが攻めて、タイガーウルフとかを魔法使いが倒すのがいいと思うけど。」
「確かになぁ。」
若干作戦が決まりつつある中、ある男が話し始めた。
「なぁ…」
その男は、剣を背中に背負っている、冒険者だった。
「あっ、フランメ。」
魔法使いがその男に反応した。同じパーティーを組んでいるようだ。
「あの子を使うのはどうでしょうか。」
「……いや、あいつはダメだ。」
フランメの提案に、ビフトが拒んだ。
「あいつはまだ実戦経験が薄い。」
「あいつって?」
魔法使いがビフトに聞いた。
「あぁ。お前らに言ってなかったな。10日くらい前か。家に来た、ある女の子だ。」
「女の子?」
「あぁ。俺が魔力検知で魔力量を測った時には驚いた。なんせ、お前よりあったんだからな。」
「あぁ。あの子ね。」
公表していなかったその子のことを知っている魔法使いに驚きが隠せないビフトは、魔法使いに聞いた。
「なんで…知っている…」
「そりゃ分かるわよ。あんな量の魔力を持った者がこの村に入った瞬間、柵に張ってた結界魔法が反応したの。」
「…フッ。何でもありかよ。お前は。」
「こんくらい出来なきゃ。」
魔法使いとビフト以外のみんなは、魔法使いの行動に驚愕していた。
「…ん?なら、お前の結界魔法で、この村を守れるんじゃないか?」
ほかの魔法使いが、その魔法使いにそういった。
「結界魔法は制限があるのよ。ほかの魔法のような範囲ではなく、ただ単純に、結界魔法自体に制限があるの。確かに、結界条件を魔力数値が一定以上の者を入れないとかは出来るけど、それをしようとするには、今の結界を破壊してから、作り直さないと行けない。時間に労力。魔力消費が半端じゃない。」
魔法使いの答えに、弓矢使いが聞いた。
「じゃぁどうする。このままじゃ、村に入ってきた魔物が、ギルドの地下の住民を殺すかもしれないぞ。」
魔法使いは答える。
「とりあえず今は、柵の周りから魔物を抑えている。その間に結界の用意と逃げ切れていない人たちを探す。結界が張れたら、結界の抜け道から入ってくる魔物を倒す。今はこれしか出来ない…」
ビフトが魔法使いの作戦を聞いたあと、こう言った。
「今回の魔物襲撃は、予測不可の状況であったこと。圧倒的準備不足の2つが原因だ。だが、起こってしまったことは、我々がどうにかするしかない…。ラルの作戦に従い、この村を守れ!期待しているぞ、冒険者達よ。」
――
「ねぇ。ここからどうするの?」
「とりあえず、ここで待つしかないよ。」
「なんでこんなことに…」
「かえりたいよ〜」
魔物襲撃から1時間ほど。夜間という事もあり、住民の混乱や行方不明が絶えない。幸い、この地下室には避難所という役割も果たしており、灯りや食料もある。住民全員が入り、ある程度のゆとりが生まれる程の大きさもある。なんとも都合が良い。
「あの。」
「…はい。」
ノルナより少し小さい女の子が話しかけてきた。
「どうしたの?」
「あの。お母さんが居ないの!」
「……。」
この地下室での住民誘導は、僕が任されたもの。この子のお母さんを探すのも、任されたようなものか。
「ちょっとまっててね。お母さんはきっと見つかるから。」
「……うん!ありがとう!」
「…。うん。任せて。」
早く探さないと、この子がガッカリする。と言うより絶望する。
「…あっそうだ。一応、名前を聞いてもいいかな?」
「…私は、レイズ。」
「レイズね。分かった。」
僕はそのまま地下室を出た。
―
地上は燃えていた。燃えている木と炭の付いた石がそこにはあった。
「なんだこれ…ゴホッゴホッ。」
煙りが立って、咳が出る。
「クソっ…ゴホッゴホッ。」
とりあえず、袖布で口を隠しながら、柵の方向へ向かった。
――
「結界はまだか!?」
「今やってる!…やってるけど…」
結界魔法を破壊するのにも時間がかかる。破壊から作成まで40分程。結界が完成するのに、あと10分。柵の周りには、若干結界が出来ている。
冒険者60人居たのに対し、生存者は40人程。圧倒的にこちらが不利。生き残った冒険者の殆どが上級冒険者。流石に今回は、相手が悪かった。そう言うべきだろう。
「クッ。こいつ、刃が通らない。」
双剣使いの男は、双剣の片方と片方を交互にオークの腹に振り当てていた。
硬くは無い。柔らかい。切るより刺す方が、この腹には有効。つまり、刃は通る。
バンッバンッ
柔らかい腹が破裂する音。腹から出てきた内蔵が、尻もちをついた双剣使いの頭に乗った。
「あ……」
「気をつけろ!そいつの腹が剣で切れない。剣で刺すか、矢で刺すかしないと、そいつは倒せない!」
「……あぁ。ありがとな!」
魔法は振るも飛ばすも、近距離から遠距離。殆ど対応出来る万能の術。だがそれ程強大な術を相手が扱えるとなると、戦いでの脅威になる。
魔物の中で、知力を必要とする魔法を扱えるのはごく1部。リッチもその1体。
生きる屍は、腐敗体や白骨体など。死体にして、魂が宿った者。魔物のような魔石は無く、魂が魔石の役割を果たしている。魂は触れることが出来ないため、魔力に似ている。魔力以外、魂に触れる方法がなく、魔法攻撃は魂に攻撃できる唯一の方法になる。
カンッ
「やっぱり効かない…」
ブワアアン
魔法の炎が、リッチに剣で攻撃仕掛けた男に襲いかかった。
「うわぁっ!」
フランメの服の一部が燃えた。
「大丈夫か!?」
治癒の魔法使いがフランメへ走り近ずいた。
「『神の使いにして、癒しを与える精霊よ。彼の者を癒し、力を与えよ!治癒』」
燃えて火傷を追っていた腹の横側の跡が、緑色にひかり、傷跡が剥がれるように杖先の魔石に取り込まれた。
「あぁ。すまんなぁ。」
「いえ。それより、リッチ相手に物理は分が悪い。ひとまず、彼に任せましょう。」
治癒魔法使いがそう言うと、後ろから声が聞こえた。
「『火玉』」
後ろの魔法使いがそういった瞬間。後ろから、火の玉が飛んできた。その玉は、勢いよくリッチやオークへぶつかり、爆発を起こした。
「せめてオークかタイガーウルフを攻撃しろ。もう既に10人以上が死んでいる。流石にこれ以上戦力を落とす訳には行かない。」
「分かった。」
「…お前はあっちの方で、お前はオークを。」
「「はい!」」
炎の魔法使いが出した指示に、治癒の魔法使いとフランメが応えた。
剣が弾かれる音と、火や風の音が、燃える音と混じって、響いていた。
――
剣が弾かれる音と、火や風の音が、燃える音と混じって、僕の耳に響いていた。
柵の外には、杖、剣、弓矢を使って戦っている人達が大勢いた。
足が1歩前に出た時、ビフトの言葉を思い出した。
「ノルスはここで、住民を誘導してくれ。」
そうだ。あの子の母親を、あの地下室に誘導しないと。取り敢えず、消火をしながら建物の下を知られべよう。
そう考えながら、魔法でつくった水を、そこら中にばらばらまいた。火は消え、蒸気が木の上に広がった。
物音が聞こえ、その蒸気の中に人影が見えた。女性の人影。レイズのお母さんだろうか。
今行方不明になっているのは、冒険者を除き2人だけ。
とりあえず行ってみよう。
僕は人影に近ずいた。
「あの〜大丈夫ですか?」
「…………」
返事がない。蒸気が薄れていく。
「生きてない。」
ただの屍のようだ。行方不明の内、1人は死亡。初めて見た死体。頭が真っ白になった。僕はそれを見つめながら、立ち止まっていた。
音が聞こえた。
遠くから、何かが聞こえた。木の落ちる音。コロコロと鳴っていた。またもや人影だ。
僕はそこに走ろうとしたが、死体をどうするか、また止まってしまった。走れば、助けられるかもしれない命が、そこにあるのに。
止まりながら考えていた。この死体をどうするか。持ち帰れば、また死体が出来る。かと言って、この死体を野放しにしておけば、魔物になる。腐った死体に魔力が溜まり、魔石が出来、魔物になるからだ。
必死に考え抜いた結果、この世界に魔法があることを思い出した。
氷魔法で、この死体を1度凍結するのがいいと考えた。
死体を凍らした後、すぐさま僕は、走り出した。人影の方へ。




