5話 冒険者
アンデッド襲撃まであと20日
稽古初日から、ノルナからは基本の魔法以外に、攻撃魔法や支援魔法等。四大元素以外の基本の魔法を叩き込まれた。
今日は僕だけ、ノルナ以外の人が魔法以外の技術を教えられるらしい。ビフトからそう言われたが、誰かは聞いていない。今からその人と会うために冒険者ギルドに向かっていた。早朝から。
「……で?誰なの?」
「お前なぁ?前から思っていたが、なんかタメ口が多くないか?」
「え?ん?あぁぁ…」
今思った。そういえば、ビフトと敬語で話し合ったのって、本当にあって最初の時ぐらいで、今じゃただの友達位の距離感。
「…まぁまぁ。もうすぐギルドに着くし…」
「はぁ。まぁ良いけど。」
いやぁ〜、ビフトには悪い事をした。
…でも本当に、誰なんだ?僕の稽古って。
―
冒険者ギルドに近づいた時、話し声が聞こえてきた。
それは近づくにつれ、大きくなり会話内容も分かるようになってきた。
「――だから!今日俺は、剣の使い方を教えるの!」
「だから?誰にだよ…?」
「俺も分かんねぇけど…でも!本当に…」
「嘘だろ?」
「いや嘘じゃ…」
「あっ分かったぜ?お前、嘘ついてるだろ。」
「あ?…いやさっきと変わってねぇじゃねぇか。…あっ」
「「…?」」
楽しそうに話している男3人が、こちらを向いた。まさかとは思うが…
「よう!」
村長が手を大きく開き、男3人に向ける。
「おぉ。ほら本当だぞ!お前ら!村長も居るし!」
「あぁあぁ…」
「まじか。」
あぁ。予想があっていた。この男が、俺の稽古を…まぁ良いか。悪いやつよりかはマシだ。
「ほんじゃ、宜しくな!」
「…?それで、稽古の相手は…」
「え?」
「あ…」
コイツー。何も言って無かったな。説明をしてからにしろよ!
「あっえっと〜。この子です…」
「えっあっはい。」
「ん?え?あ?あ〜……え?」
当然の反応だろう。こんな小さい、しかも女の子。まともに戦えないだろうと。
「…おい?もしかして?稽古の相手って…」
「あぁ。コイツだ。」
「え〜。」
唖然とした顔で村長を見る男。よく見たら、剣を持っている。剣1本と木剣の様なもの2本。しかも、他の2人も剣を持っている。
「おい!おいおいおいおい。あいつ本気で言ってんのか?」
「まぁ、村長も居るし、本気だろうな…」
他2人が奥で話している。お前ら、聞こえてんぞ。
「しかしなぁ〜?どうして言ってくんなかったんだ?村長。」
ホントにな!?ビフト!
「あぁ〜悪いな。」
「まぁ〜良いですけど。今日からでしたっけ?」
「あぁ。今日から3日間、稽古を付けてもらう。報酬は弾むぞ〜?」
ビフトが男に寄った。
お前、顔がやべぇぞ。
「あのなぁ。俺は報酬に興味はねぇんだ。自分に足らない所を知るために、この依頼を受けたんだ!」
「おぉそうだったな。」
後ろに居た男2人がこちらに寄って来た。
「…まぁ。頑張れよ。」
「お前の報酬で飯食おうぜ!」
「……ハハッ。」
2人の男に少し驚いた顔をした男は、直ぐに笑う顔になった。
「バカにしねぇんだな?」
「おいおい。その言い方じぁ、そこの嬢ちゃんに失礼だぜ?」
「あぁ。それに、お前は目的があって依頼を受けたんだろ?」
「あぁ。」
「なら、がんばれよ。」
「おう!」
意気込んだような、気合いの入った声を、この場に轟かせた男。…悪い。僕はそこまで戦闘に慣れてない。僕から学ぶ事などないだろうけど。
「あぁ。自己紹介がまだだったな。俺はフランメ。フェヒター・フランメ。君は?」
フランメからそう聞かれた時、ビフトは僕の背中を押した。そして僕を満面の笑みで見つめた。
「…私は、ノルスです。」
「宜しくな。ノルス。」
「はい!」
フランメの声より、大きく、威勢のいい声が、その場に響いた。
――
森の奥で、1人の魔法使いと1人の大剣使いが、ゴブリン退治へと向かっていた。
「……やっぱり多い。」
「あぁ。ここに来るまで、もう10体だ。日に日に量が増えていく。これじゃぁ、クエスト達成も何も無いぞ。」
2人は魔物が増えていくのに、疑問と疲労を感じていた。
「……っ!来た。」
「…!」
ガンッ
大剣の何かを切る大きな音が、森中に響いた。魔物だ。魔物が現れていた。
「…コイツはやばい!」
そう言いながら、大剣使いが剣を振り、魔物を遠ざけた。そこに、先程まで詠唱を唱えていた魔法使いが、その魔物に対し、魔法を放った。
「『水切り《ウォーターカッター》』」
ザザッ
水で出来た刃が2発魔物に当たり、魔物はそのまま倒れてしまった。
「…よし。じゃぁ解体だ。」
大剣使いが、腰にしまっていたナイフを取り出し、しゃがんだ。
「…これ。タイガーウルフだ。」
「え?」
タイガーウルフはウルフの上位種族で、大きく硬く鋭い歯と刃を持ち、近接攻撃にたけている魔物。毛皮は高く売れ、肉は食う事も出来る。刃は防具や武器の素材にもなる。残すところがないと言われるほど貴重な魔物。
普段、タイガーウルフは木の生えていない、石で出来た山で川の魚を食いながら暮らしている。こんな森に出るはずがないと、2人は疑問に思った。
「……あっ。そういえば、一昨日、フランメがタイガーウルフを見たって…」
「あぁ。言ってたな。」
「でもあの日行った所は、まだあの山に近かった。」
「……。」
「…とりあえず、今日は帰りましょう。」
「あぁ。」
冒険者ギルドに話す他ないと2人は思い、解体作業ご後、直ぐにギルドへ向かった。
――
明るくなって来た頃。向かっていたのはギルドの酒場のすぐ下。地下室。かなりの広さがある。
そこには、カカシみたいな的が、何本も立っていた。
「…よし。ここでするか。」
「はい。」
フランメは、持っていた木剣2本の内、1本を僕に渡した。
「1度、手合わせをしよう。」
「手合わせ?」
「君の強さを知らない状態で、稽古する訳にも行かないだろ?」
「…はい!」
フランメって、思っていたより冒険者だな。ゲームとかでよく居る冒険者って感じ。
「じゃぁ。始めるぞ。」
「はい。」
バンッ
フランメが足を地面に勢いよく踏みつけ、前へ体を倒しながら、木剣を振りながら向かってきた。
「フンっ」
「うおっ」
木刀がの先が腹に当たりそうになる時、反射的に体が動き少し後ろへ下がった。
僕から見て右から振られた木剣は、すぐさま方向を変え、左上から右下まで振り落とされた。
「うわぁあぁあぁあ」
僕はそのまま尻もちを着いて地面に倒れた。
「いてててて。」
「……。」
フランメは、真剣な顔でこちらを見る。
「あっあの…」
「…おい。」
「はい!」
「君、今まで何かしていたか?」
「えっ。いえいえ。」
「そうか…」
なんだ?全然戦えてない僕に何を感じたんだ?
「君、凄いね。」
「ん?」
「僕の攻撃が全て避けられるとは…」
「あぁ。」
木剣を1度も振れなかったのに対して、叱りも怒りもせず、ただ褒める。凄いな、この人。
でも、今木剣が避けられたのは偶然なのか?本当に体が動かなかった。と言うより動かなかった。それなのに、何故か反射的に動いた。
「所で…」
「はい!」
「ん?どうした…」
「あっいえ。」
やばい、考え事をし過ぎた。
「それで?」
「あぁ。そうだった。君さ、20日後のアンデッド襲撃に対抗する冒険者だろ?」
「え?」
「あのアンデッドを倒すためには、魔法が有効。なのに何故、君はここにいる。」
「あっ。…そうですね…」
確かに、アンデッドには魔法が有効。魔法を学んでいる今、剣術を学ぶ意味は、何処にあるのか。ビフトの考えが分からない。
「分かりません。ビフトにそう言われたので。」
「そうか。」
「……。」
2人はそのまま立ち止まっていた。
そんな所に誰かが来たのか、足音が聞こえた。階段を降りる音が近ずいてきた。
「おーい!」
その声は聞き覚えのある声だった。
「…ビフト?」
「おぉ!村長!」
ビフトはなんで来たのか…
「…はぁはぁ。お前たち、大丈夫か?!」
「え?」
「…何か…あったんですか?」
疲れきったビフトにフランメが問いかけた。
「…村に…魔物が…」
「え?!」
「な?!」
魔物?!なんでだ。アンデッド襲撃は20日後だぞ?!
「とりあえず、上に向かいましょう。」
フランメは、僕とビフトを急かすように階段へ向かった。
「だが…」
ビフトは何か言いたそうに、そう言った。
「ノルスはここにいろ。」
「えっ」
まぁ、当然の事だろう。まだ魔法がまともに使えない。その上、それなりに動ける訳でもない。
「……分かりました。」
「……。」
ビフトは僕を見ながらゆっくり頷いた。
「ノルスはここで、住民を誘導してくれ。」
「はい。」
「…よし。行くぞ!」
「あぁ。」
フランメとビフトはそう言って、階段を登って行った。
「そう言えば、ビフトはこの村の村長だったな。」
僕はそう小声で呟いた。
「これで良かったんだ。だって、僕は、魔物は殺したくない。」
僕は下を向いて立っているしかなかった。




