9話
新年明けました。9話です。
花山とLANEを交換してから何日か過ぎたが、今のところ大した連絡はしていない、というかそもそも連絡がこないし、僕からもしてない。昔なら意味のない会話をずっとしていただろうけど、今はまぁこんなものだろう。
そんなわけで僕はあれから数日、特に花山とは関わらずに日々を送ってきた(花山はやっぱりだが、学校には来ていなかった)のだが、ある日僕が学校から帰ってくると、スマホには3通の通知が届いていた。
1通はクーポンのお知らせ、そして残りの通知は、花山からだった。
『花山一華がメッセージの送信を取り消しました』
『ごめん、なんでもない。』
なんだこれ。
どんなメッセージが送られてきてたのか気になったが、今更それを見る手段はないし、あんまり掘り下げるのも嫌がられるな、と思ったので、既読だけつけてこれ以上は触れないことにした。しかし、なんだか気になる。
また二日ほど経った。僕は学校から帰ってくると、花山からの連絡が入っていたことに気が付いた。
『土曜日にどこか行かない?』
返答に困った。正直土曜日は暇なのだが、また変に出かけると、この前のショッピングモールの二の舞になるかもしれない。また気まずくなって、変な雰囲気になることが嫌だ。
どうしよう、断ってしまおうか。でもそれもそれで微妙に気まずくなるかもだし。既読をつけてしまったせいで、このままスルーして考えるっていうのもどこか忍びない。どうしようか。
『いいよ』
僕はそう返信していた。土曜日が暇であったというのもあるが、ただ一個だけ理由を挙げるというのならば、そう。
僕はこの前の花山との会話が、楽しかったんだ。
土曜日になると、僕は約束の時間の5分ほど前に家を出た。適当な私服を着て、スマホと財布といった必要最低限のものだけを持って、待ち合わせ場所へと歩を進める。一応念のため、この前みたいに誰かに目撃されるかもしれないから、周りには少しだけ警戒をしておく。
そんな風にこそこそ歩いていたら、すぐに待ち合わせ場所――花山の家に着いた。しかし、花山はどこにも見当たらない。
僕、時間間違えた?そう思って花山との今までの会話ログを見てみる。
『何時にどこ集合にする?』
『12時半とかに私の家とかどう?』
『(OK!と謎のペンギンのような生き物が言っているスタンプ)』
正直このスタンプで返信したのは普通に後悔している。いやそれより。
現在時刻を確認してみると、12時30分ジャスト、つまり今が集合時間で間違いないはずなのである。
なんだかおかしい、僕の記憶の限りでは、基本的に花山は遅刻はしないタイプの人なはずだ。といっても、本当に昔の話だから、今はどうかわからないけれど。
とりあえず、変に動いてすれ違ったりでもしたらややこしいし、とりあえず待ってみる。きっと10分くらい経ったら来るだろう、と僕は楽観的に考えていた。というかよほどのせっかちでもない限り、ほとんどの人がそう考えるだろう。周りの友達が軒並み時間にルーズな僕だけの考えかもしれないけど。
しかし予想に反して、15分くらい待っても花山は来なかった。ここまで来るとさすがの僕も何かあったかと心配し始める。花山は遅刻をするようなキャラじゃないからなおさらだ。
とりあえず、連絡を取ってみることにした。僕はスマホを取り出す。
『もう着いたよ』
と送って、僕はまたアプリ、某インスタントでテレグラムなSNSを開く。なんか催促してるみたいだな、まぁいいか。それにしても、花山がこんなに遅れてくるなんてのは本当に珍しい、というか初めてではないだろうか、明日は雪でも降るのかな。なんて思いながら僕はスマホを眺める。
しばらくすると、ピロリンと通知音が鳴った。見ると、花山からの連絡だった。
『ごめん、もうすぐ出るから』
僕は『わかった』とだけ返信する、絶対にスタンプは使わない。そうしてまたスマホ片手に花山を待つ。
しかし、彼女に何があったのだろうか。まぁただの寝坊かな。
そんなことを考えてると、家の中から足音が聞こえてきた。たったったと、どこか急いでいるような足音が。
がちゃり。
ドアが開けられ、中から出てきたのは花山だった。いつもぼさぼさの髪は、今日はある程度整えられていて、肩には小さなバッグがかけられている。いつものジャージはアイロンでもかけたのか、しわが無くなっている。
「...ごめん、寝坊しちゃった」
寝坊したというには、ちゃんと身だしなみが整えられているなと思ったが、花山も一応女子だし、その辺には時間をかけるのかもしれない。それじゃあこの前出かけたときはなんなんだって話だけど。
「いや、別に大丈夫」
まぁあんまり気にしないようにしとこう、あんまり女子のそういうとこに踏み込んだら大変なことになるし(実際僕はそれでえらい目に会った友達がいる)。くわばらくわばら。
「じゃ、出発しようか」
「うん」
僕らは目的地に向かって迷いなく歩き始める。心なしか、前出かけた時よりも足取りは軽いように感じた。
「ところでさ」
僕は横を歩く花山に話しかける。まだ顔色はいいし、体力的には大丈夫そうだ。
「ん?何?」
「なんで急にさ、遊ぼうなんて言い出したの?」
「ああ、たまには出かけたいな、って思ったんだよね」
花山は澱みなく、さらっとそう言った。まるで、前々からその答えを準備していたみたいに。
出かけたい、か。1年の間、きっとほとんどの時間を家で、しかも自分の部屋で過ごしていたであろう花山からは、そんな言葉が聞けるとは思っていなかったが、これも色々心境の変化だろうか。僕にはわかるはずもないことだけど。
「そうなんだ。でもさ、なんで今日、あそこに行こうと思ったの?」
「ああ、それはね」
「なんかちょうどいいな、って思ったからさ」
「どういうことだよ」
僕のそのツッコミに対して、彼女はふふっと笑った。随分と自然な笑顔だった。
ちょうどいいってどういう事だよ、まぁ別にいいんだけどさ。てかなんか昔もこういう事あった気がするっていうか、花山は昔結構変なことを言う子だった気がする。
「てかさ石場くん」
花山は思い出したかのようにそう言って、
「何?」
「君ってさ、部活とかしてないの?」
「あー...部活は...」
「あっ...言いたくなかった...?ごめん」
彼女は本当に申し訳なさそうに、僕へ頭を下げる。さっきまでの楽しそうな顔が嘘みたいに真剣で、硬くこわばった表情だった。
僕は別に大丈夫だし、そんなに謝ることはないだろう。それに失言の一つや二つでそんなに怒るほど、僕は器が小さくないと思ってる。
「いいよ別に。あと部活はさ、今は停止してるんだ、部員の一人がちょっとやらかしちゃって」
「あっ、そうなんだ...ごめんね、なんか」
「いや、全然いいけど...」
そう呟くと、花山は申し訳なさそうにははっと苦笑いし、僕から目をそらすかのように前を向いた。
いやそんなに謝る?僕すごく怒りっぽい人間だと思われてない?あんまり気にしてはないけれど。
「てかさ、花山」
気まぐれでこっちから話しかけてみると、彼女はくるっと僕の方を向いて、わざとらしくにこっと笑った。
「何?」
「向こうに着いたらさ、何する?」
「あー、昼ご飯って食べた?」
「一応僕は食べた、もしかして食べてない?」
「食べた」
「じゃあなんで聞いたの」
「君が食べてなかったら、向こうでなんか食べようと思ってさ、お腹空かせたまま遊ぶのもあれだし」
花山はほほ笑んでそう言った...のだが。いや、ほほ笑んでいる事には間違いないんだが、なんか顔色が悪いような、あと呼吸が荒くなっている気もするし。もしかして。
「...なるほど」
「ところでさ...」
「ん?」
「はぁ...バス停まで...あとどれくらいだっけ...?」
「息切れるの早!」
そこからは、ほぼ介護と言っても過言ではなかった。何せ前乗ったバス停よりも少し遠いところに行かなくてはいけなかったので、時々『そろそろ休憩挟む?』とか『水いる?』とかいろいろと注意を払いながら歩いていた。でもそれもなんか、楽しい。
そんなことをしていると、僕らはバス停に到着した。昼の微妙な時間だからかバスを待っている人はいなかったので、とりあえず瀕死の花山を椅子に座らせた。彼女を座らせてしばらく経つと段々息が整ってきて、顔色も良くなっていった。やがて彼女は一つ深呼吸をすると、僕に向かって。
「座ったら?」
と言った。まぁ、誰も座ってないのにずっと立ってるのもどうかな、と思ったので、言葉通り座ることにした。花山と一席ぶん離れたところに。
まぁ、座りなよと言われて女子の隣の席に座るような人間ではないということだけは伝えておく。だって隣同士とか恥ずかしいし、体とか触れそうになるし。
そんなこんなで目的のバスが来た、見た感じ結構空いている。僕は立ち上がってバスに入ると、どこか空いている席はないかと辺りを見回すと、優先座席、二人掛けの座席、後部座席(空きは一人分)と、一人掛けの座席があった。
うーん、さすがにこんな元気いっぱいの中学生が優先座席に座るのは気が引ける。しかし二人掛けに座るとさっき言ったように恥ずかしい思いをすることになる。よし決めた。僕が後部座席に座って、花山には一人掛けに座ってもらおう。
「ーーねぇ」
と、僕があれこれ作戦を立てていると、花山が僕に声をかけてきた。
「座ったら?」
花山は二人掛けの座席に座って、空いてるスペースをぽんぽんと手で叩き、僕に隣に座ることを勧めてきた。
「あ、うん」
さっきまでの自分語りはどこへ行ったのやら、僕は言われるがまま、花山の隣に座ると、バスが発車した。
色々遅くなって申し訳ないです。ちなみにこの作品、4月で連載一周年なんですよね、びっくりするくらい遅いです。
なるはやで終わらせるんで待っててください。
~裏設定コーナー~
・花山の嫌いな食べ物はフライドチキン
・石場の嫌いな食べ物はほうれん草のお浸し
ではまた。




