8話
お疲れ様です、8話です。
僕らが出会ったのは小学校に入ってすぐだった。詳しいことはもうあんまり覚えていないけれど、確か帰り道か何かで喋って、そのまま意気投合した、って感じだったと思う。
そのまま僕らは仲良くなっていって、そのまま毎日のように遊んでた。平日は学校が終わるなりすぐに二人で家に帰って家や公園で遊んでたし、休日も基本一緒にいた、虫取りに連れていかれて僕が叫び散らかしたり、海に行って二人して真っ黒に日焼けしたり。
今考えると毎日毎日、よく飽きなかったなと思うけど、まぁ今となってはいい思い出だ。
そんな僕らの間にはいろいろあったけど、基本的にはずっと仲が良かった、はずだった。
ある日を境にとか、何か大きな出来事があったわけでもなく、いつの間にか僕らはだんだんと喋らなくなっていって、そのまま疎遠になっていった。
その理由が、どうしても浮かんでこない。ぐるぐると同じ考えが巡って、全く思考が前に進まない。
いや、違う、本当は分かってた。分かってたけど、分からないふりをしてた。我ながら、ひどい理由だから。
僕はただ、恥ずかしかったんだ。それだけで、彼女と話さなくなった。
僕らはひとしきり喋った後、お互いに黙って一息ついていた。彼女は最初とは全く違って優しく、どこか安心したような笑みを浮かべている。その表情のおかげで、僕もなんだか気が楽だ。
「あのさ石場くん、何かしない?」
「え?いいけど何する?」
「あー、確かトランプならあるよ」
「いや、二人で何するの」
「スピードとか、神経衰弱とか?」
「じゃあ神経衰弱とかでいいんじゃない」
彼女は僕のその言葉を聞くと、『ん』とだけ言って束をシャッフルし、テーブルの上にばらばらにカードを置いた。
てか、スピードって何?
「じゃんけんぽん」
唐突にジャンケンを仕掛けられた。不意を突かれた僕は反射的にグーを出してしまい、彼女はそれを見透かしていたかのようにパーを出していた。不意打ちとはいえ、何か悔しい。悔しくて、ちょっと笑ってしまう。
「じゃ、私が先行ね」
と言って、彼女は自分のすぐ近くのカードをめくった。
試合はだらだらとおしゃべりをしながら続き、泥仕合の末なんだかんだ僅差で僕が勝利した。それにしても2人で神経衰弱をするとカードの減りが遅く、覚えることが多いのでやたら頭が疲れた。
「はぁ...ちょっと休憩させて」
花山はカードをまとめてケースに入れると、力尽きたようにぐったりと机に突っ伏した。
「いや疲れすぎじゃない?」
「だってこんなに頭働かせたの久しぶりだし...」
薄々思ってたけど、やっぱり今の花山は何と言うか、体力がないというか、言っちゃ悪いけど雑魚い。
「あ、そうだ石場くん」
机に伏していた花山が、ふいに顔を上げた。
「そうだ、LANE交換しない?」
と言い、彼女はジャージのポケットからスマホを取り出した。
LANEとは、世界的にもよく使われている緑のアイコンが特徴のメッセージアプリだ。
「花山もやってたんだ」
「一応ね、入れてるだけだけど」
「じゃあ交換しよっか、はい」
僕はQRコードが移されたスマホを差し出したが、花山はなぜか読み込もうとしない。ただなんか指をせわしなく動かしている。
「えっとさ...QRコードってどこで読み込むんだっけ」
「あー、ちょっと貸して」
いや知らなかったのかい。と心の中で軽くツッコミをすると彼女の手からスマホを取り、友達登録を済ませた。
花山一華
名前欄にはそれだけ書かれていて、アイコンも壁紙も初期のまま。本当にただ入れてるだけ、と言った印象だった。
「ほい」
「ありがと」
スマホを返すと、彼女は少しだけ画面を見つめてポケットにしまい、僕の方を見た。
「あのさ、これから暇なときとか連絡していい?」
「ん?いいよ」
花山は「ありがとう」と言って、少しだけ笑った。
その笑顔を見て、仲が悪くなったわけじゃないんだな、と思って僕は、少しだけ安心した。ただお互いに、変な遠慮をしてただけだ。
それから僕たちは、また思い出話に花を咲かせた。どこで何をしたか、どんな話をしてたか、だけど僕らが話さなくなったことについては、どっちも語ろうとしなかった。
「私がジャングルジムから落っこちた時なんかさ、君すっごい慌てふためいてたよね、大丈夫って言ってるのに泣きそうになっててさ」
「ははっ、あったね」
ちらっと時計を見た。時間は午後4時半。そろそろ帰ろうか。
「あー、あのさ」
「何?」
「僕、そろそろ帰るよ」
「...うん」
僕は立ち上がって、ドアを開く。後ろを見ると彼女と目が合ったので、手を振り、ドアを閉めた。
階段をたんたんと降りると、花山のお母さんが僕に気づいたようで、リビングから出てきた。
「あの子、どうだった?」
そう聞かれると返答に困った。どう答えても、余計な事になりそうで。僕は頭の中で必死に言葉を探す。できるだけ波風立てないような言葉を。
「大丈夫でした」
少しだけ口角を上げて、そう答える。これならきっと、彼女もお母さんに変な詮索はされないだろう。
「それじゃあ、お邪魔しました」
僕はそのままそそくさと家を出る。後ろから「気を付けてね」とお母さんの声がしたが、僕が振り向くことはなかった。
「ただいま」
家に帰ると、僕のお母さんはリビングのソファで昼寝をしていた。いつものことなので、特に気にすることはない、起こさないようにとか、そういう気遣いも特にしない。
部屋に戻ると、スマホが鳴った。花山からだった。
『よろしく』
あまりにも不慣れで、不器用で、ぎこちないそれを見て、僕は。
「ふふっ」
笑ってしまった。そして『よろしく』と一言返すと、僕は自室へと帰っていった。
お久しぶりです、半月板です。入院してました。入院ってずっとベッドに寝てるから何気に腰痛いですね。
~裏設定コーナー~
花山母は私立大学卒の文系(文学部)
花山父は国立大学卒の文系(社会学部)




