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君と僕と傷跡  作者: くろいきつね
6/10

6話

非常に遅くなりました、6話です。

今日は昨日の朝とは打って変わって快晴でありながら、雨の影響でじめじめとしていて蒸し暑い。僕はこういう温度が一番嫌いだった。

だけどいくら嫌いとはいえ学校をさぼるわけにもいかないので、さっさと学校の準備を始めようとしたが、やっぱり蒸し暑い外に出るのが億劫で、ついだらだらとスマホを見てしまった。

これじゃ遅れてしまうと思って部屋を出て顔を洗い、朝食を食べ、歯を磨いた。全部終わって学校へ行くかとなった時、部屋の隅っこに立てかけてあった松葉杖が目に入り、保健室に返さなくてはならないことを思い出し、それを手に持って、行ってきますの声もかけずに家を出る。

ガラガラと教室のドアを開けると、クーラーのよく効いた室内の空気によって汗ばんだ体が冷やされ、僕を湿気と蒸し暑さから解放してくれる。

席に座って一息つき、時計をちらっと見るともう朝のホームルームが始まるところだった。先生が前に出てきて、喋り始める。話が終わると、そろそろ授業が始まる。今日は五時間で終わるからか、いつもより少し気は楽だった。

そうだ、そろそろ松葉杖を返しに行こう。そう思い立ったのは昼休みだった。決して忘れていたわけではない、今日は移動教室が多くてなかなか返す気にならなかっただけだ、だから忘れてたわけではない。

というわけで僕は松葉杖を返しに階段を下りて一階まで行き、保健室の前まで来たが、どうにも様子が変だ。

保健室のドアの前に立てかけてある、おそらく先生の手作りであろう段ボール製のプレートには丸文字で『中にいます』と書いてあるし、電気もついているのに、ドアが開かないのだ。

僕はとりあえずドアをノックしてみるが、中から反応は何もない。

いつ戻ってくるかわからないし、このまま立ち往生するのもなんだかなぁ、と思ったので、とりあえず松葉杖はドアの前に立てかけておいて、僕はさっさと退散することにした。これでいいはず、多分。

それにしても、なんで保健室には誰もいなかったんだろう。花山もいなかったし、何かあったんだろうか、それともただのうっかりなのか。まぁいいや。

僕はそのまま教室に帰った。そのあとは、特に何事もなく学校は終わり、友達に別れをつげて、僕は帰路につく。

しばらく歩いて、僕は家の近所の公園までたどり着いた。毎日見ているものなので特に気に留めず通り過ぎようとしたが、僕の視界の隅に映ったものがそれを許さなかった。

視界の隅に映ったもの、それは制服を、それも長袖を着たままベンチにぽつんと座っている花山だった。

なんで、ここに花山が?しかも一人で。一体、何が?

我が目を疑い、まじまじと花山を見ていたら目が合った。僕らは一瞬だけ見つめ合い、そして目を離した。

僕はどんな反応をしていいかわからなくて、少したじろいだ。このまま見なかったことにしようか、とも考えた。でもその時なぜか、昨日見た夢が頭をよぎり、僕に花山を無視させなかった。

言いたいこともろくにまとまっていないまま、僕は公園の中へ入る。一歩、一歩、花山へ近づくたびに靴が砂を噛み、ざりっと音がする。風が吹き、少し頭が冷えると、疑問とかも心なしかまとまったような気がする。

「あのさ...」

花山と目を合わせる。よく見るとなぜか、その紺色のブレザーの袖は何かで濡れたような跡が残っていた。

なんだか久しぶりに話すような気がして、少しだけ緊張しながら、僕は口からなんとか言葉を紡ぐ。

「...ここで何してるの?」

とりあえず、当たり障りのない質問をぶつけてみた。いや、もしかしたらこれも嫌に思うかもしれない。

「...座って」

そんな僕の質問を聞いていたのかいないのか、彼女はベンチの端に移動して座ることを促してきた。

僕は無言でリュックを降ろして地面に置き、ベンチに腰掛けた。花山とは40センチくらいの微妙な距離が離れていたけれど、特につめようとは思わない。

気まずさを感じながら、ぼーっと誰もいない公園を見つめていた、なんだか蝉の声が良く聞こえる。僕はぽつぽつと寂しげに置かれている遊具たちを見ながら、(こんなに公園って小さかったかなぁ)なんて思っていた。思っていたかった。

「...あのさ」

急に、花山が口を開いた。あまりに突然のことに僕は困惑し、ただ「うん」としか言えなかった。

「今日さ、寄り道しない?」

その声はあまりに暗く、澱んだ声だった。まるでこの前、花山と再会した時のような。

はたから見たら、それはただの遊びの誘いとしか思えないだろう。だけれどその声もあいまって僕はなぜか花山には別の思いがあるように感じて仕方がなかった。

「...いいよ」

断ることなんて、できなかった。

「じゃあさ、行こうか」

花山はすっとベンチから立ち上がり、カバンを持って、『早く来て』と言わんばかりにこっちを見る。

僕はそれに応じて立ち上がり、リュックを背負って花山へついていく。彼女の足取りはここからすぐにでも離れたい、とでも言うかのように速かった。





「そういえばさ、どこに行くの?」

家と家の間にある、小さな路地。隣で歩いている花山に向かって話しかけると、花山はちらっとこっちを見て口を開く。

「昔、よく行ったあそこの駄菓子屋」

花山の声は心なしか、さっきよりも少し明るいように感じた。

「え、でも僕金持ってない」

「少しくらいなら奢るよ、私今お金あるし」

「...わかった」

僕らは示し合わせたように路地を進み、曲がり、また進んだ。そして大通りが少し近づいてきたところで、足を止めた。

そこは住宅が立ち並んでいるこの路地の中でもかなり古く見える、一見すると寂れた木造の家にしか見えない家だが、ここが目的地である駄菓子屋だ。来るのは何年ぶりだろうか。

「なんか、だいぶ久しぶりだね」

僕が幾年ぶりの感動の再会を懐かしんでいると、花山がこっちを向いて話しかけてくる。

「入ろっか」

「うん」

花山はそのまま建付けの悪い古びた横開きのドアに手をかけると、そのままゆっくりと横にスライドさせる。ドアはガガっと小さく震えながら開いた。

ドアのその先には、何年にも前に幾度も見た光景が広がっていた。

畳6帖程度しかないスペースの壁際にいくつも並べられた様々な駄菓子によくわからないおもちゃ、プラスチックのビンに詰められたイカの干したやつ、買うお菓子を入れる用のプラスチックのかご、古びた電気ケトルと冷蔵庫と冷凍庫、そして隅っこで座っているおばちゃん。

「あらいらっしゃい」

おばちゃんは入ってきた僕らに気づくと、笑顔を浮かべながら会釈をする。昔よりだいぶ老けたように見えるが、元気そうではあった。

僕らは適当なお菓子を4つくらい見繕って、花山がおばちゃんにお金を払い、駄菓子屋を出る。駄菓子は3つ買って80円くらいだった、やっぱり安い。

花山はガサガサとレジ袋を鳴らしながら店を出る。ちなみに袋は無料でもらえたのでレジ袋有料化という概念はないらしい。

「今度返すよ」

奢ってもらった分は数十円とはいえ、奢られるのはなんかな、と思ったので、一応お金を返すことを提案してみる。

「いや、いいよ、寄り道に付き合ってもらったんだし」

花山は本当に気にしていない様子で答える。

「...ありがと」

お言葉に甘えて、返さずそのまま奢ってもらうことにした。

「じゃ、いこっか」

花山は来たところとは別の方向に進み始めた。どこに向かってるの、と一瞬言おうとしたが、やっぱりやめた。

しばらく歩いて着いたのは、さっきまでいたところとはまた別の公園だった。といってもここには遊具なんてなく、あるものと言えばベンチくらい、それに日当たりも悪く家からもそんなに近くないので、あまり来たことはない。

僕らはとりあえずベンチに座り、袋からさっき買ったお菓子を取り出して食べ始める。

「...あのさ」

凍ったあんず棒をぺろぺろと舐めていた花山が喋りかけてくる。僕はお菓子を口に入れたままで、「ん」としか返せなかった。

「ありがとね、寄り道に付き合ってくれて」

ごくんとお菓子を飲み込み、「いや、いいよ」と僕は答えた。舌の奥ではまだ味を感じる。

花山は食べ終わったあんず棒のごみを袋に入れ、下を向いて、足を動かし地面の砂を弄っている。その姿はなんだか、何かに迷っているようにも見えた。

「...今日さ」

花山はぽつりと小さく、つぶやいた。すぐにかき消されてしまいそうな小さな声だったけど、僕にはしっかりと聞こえた。

「保健室でさ、お昼ご飯食べてたんだ。そしたらお味噌汁こぼしちゃって、それでさ」

「汚れちゃったから脱ぎなさいって、先生が上着を脱がしてきたんだ」

僕は数秒考えた後、脳裏にある光景がフラッシュバックした。上着を脱がされた、ということはもしかして。

「見られちゃったんだ、手首の、あれ」

何も言えなかった。なんて言ったらいいかわからなかった。花山はしばらく黙っていたけど、そのうちまた喋り始めた。

「それでさ...先生に相談室みたいなところに連れていかれて...そこで」

「...いや、ごめん。なんでもないや」

花山はそう言って話を打ち切り、僕に向かって「帰ろうか」と言って、袋を持ってベンチから立ち上がる。僕はなすがまま、彼女に従った。

「...ごめんね」

公園から出ようとしたとき、花山が突然つぶやいた。

「...何が?」

「いや、変な話聞かせちゃってさ」

「...大丈夫」

それだけ言い終えると、僕らは家に帰るために歩を進める。

しばらく歩くと、花山の家が見えてきた。心なしか、着くまで少し遅かったような気がする。

「...ねぇ」

突然、花山が僕に話しかけてくる。振り向けば、彼女は立ち止まりレジ袋に手を入れて何かを取り出そうとしていた。

「はい、これ、昔好きだったよね」

彼女が僕に渡してきたのは、ラムネ菓子だった。小瓶に入っている、小さなラムネ。

「寄り道に付き合ってくれたお礼、あげるよ」

話を聞いてくれたお礼、とは言わなかった。

「あ...ありがと」

彼女の手からラムネを受け取ると、僕を追い越して彼女はそのまま家へと向かう。一瞬見えた横顔は、太陽のせいか黒く影を落としていた。

「...花山」

僕がその言葉を紡いだ瞬間、すぐ横をバイクが通過した。花山はこっちを振り向いてはいなかった。

きっと、聞こえていなかったんだろう。

僕は花山の後ろ姿に手を振り、そのまま家へと帰っていく。

えーっと、もう言い訳する事すらおこがましいと感じてきましたが言い訳はします。夏休みの宿題(自称進学校特有のやべー量)と合宿(5泊6日)の板挟みにあっていた+カクヨム甲子園に応募していたというわけです。ちなみにカクヨム甲子園、ショートストーリー部門に応募していますがもともとはロングストーリーに応募しようとしてたんですよね、まぁ間に合わないと感じて急遽別の作品にしましたが。(没にしたのはいつか出すかもです)

~裏設定コーナー~

本編にて、石場が食べてたお菓子は某蒲焼のお菓子

凍らせたあんず棒は花山の好物の一つ

石場の通ってる学校は木曜日5時間授業

ではまたお会いしましょう。

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