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君と僕と傷跡  作者: くろいきつね
10/10

10話

お久しぶりです、10話です。

バスに乗って目的地へ向かう...それ自体はいいし、しょっちゅうやることだ。しかし僕は内心穏やかではない。それは、隣に花山が座っているからだ。

花山と出かけるのはこれが初めてじゃあないし、何なら前も一緒に出掛けて、その時も隣同士に座っていた。

けれど前はなんか気まずかったし、僕はその雰囲気を誤魔化すようにスマホを弄っていたせいで、あんまり意識はしていなかった。だが今回はなんというか、変に前より仲が良くなったりしたので、彼女をちょっと意識してしまう。

前は全く何も感じていなかったのに、今はちょくちょく当たる痩せた(なお、胴体の一部分だけは平均より結構大きい、どこかは言わないけれど)彼女の体が、僕の肩をくすぐる長い髪の毛が、ほのかに香る花山の香りが、やけに鮮明に感じる。

いや、決していやらしい事を考えてるわけではなく、これは健全な男子中学生なら誰であろうと、こういう事は考えたり感じたりしてしまうものだ。多分、おそらく、十中八九。

「おっ」

「わっ」

突然、バスが大きく揺れた、道路に凹んでるところでもあったのかはわからないが、とにかく大きく揺れた。しかしそれは問題じゃない。何より僕の心を動揺させたのは、揺れによって体制を崩した花山が一瞬、僕の肩に頭をぽんと乗せてきたことだ。

ぼさぼさなはずなのになぜだか髪の毛の感触はきめ細やかで、彼女の頭によって扇がれた空気からは香水や花のような甘ったるさはない、ミカンや柚子みたいなさっぱりとしたいい香りがした。

「ごめん」

花山は僕に軽く謝ったが、正直謝ったかどうかなんてどうでもよかった。それよりも、ふいに頭を乗せられたことが、ショッキングだった。

思えば、がっつり触れ合ったのはこれが初めてかもしれない。この間再開したときも、遊びに行った時も、話は沢山すれど、触れ合うことはなかった。

いや、一回だけあったか。彼女の部屋に訪問したあの日、確か服を掴まれた。

それにしても、今日はなんかおかしい。なんか色々と意識してしまう。そんなに僕女子に免疫無いっけ、ある程度普通に喋れるはずなんだけどな。

「石場くん」

あれこれ考えていたら、花山が話しかけてくる。少しびっくりしたが、気づかれてはないはずだ。

「ん?」

「ちょっとさ、忘れ物しちゃったから向こうに着いたらコンビニ寄っていい?」

「OK、けど何忘れたの」

「サンダル」

「ああ」

彼女の靴を見てみると、クロックスなどではなく普通のスニーカーだった。確かにこれでは色々厳しいだろう。ちなみに僕はクロックスを履いてきた。夏は特に便利なので愛用しているのだ。この前近所を散歩した時も実はクロックスを履いていた。描写していなかっただけで履いていたのだ。

そうだ、せっかくコンビニに行くなら飲み物とか、食べ物でも買おうかな。さすがにこの炎天下で、食べ物も飲み物もないってのは、花山だけじゃなく僕も干からびて死んでしまう。というわけで僕はその旨を彼女に伝える。

「あのさ、僕もコンビニついてくよ」

「え?君も何か忘れ物したの?」

「いや、飲み物とか買おうと思って」

「私がついでに買ってこようか?」

「いや、いいよ、パシらすみたいで悪いし」

そう言うと、彼女は「わかった」と言って、そのまま窓の外を見る。窓の外は少しづつ緑色が増えていって、山の方へ向かっているのが感じられた。

そのまま外を眺めていると、次に停まるところを告げるアナウンスが聞こえてきた。

「あ、降りるの次だ」

彼女はそう言って、停車ボタンを押す。バスがガタンと少し揺れた。

次のバス停へは結構すぐに着いた、運賃を払って降りると、ギラギラした夏の日差しが肌に刺さる。

あ、まずい、日焼け止め塗り忘れた。

「あつ...」

そんな僕をよそに、花山は眩しそうに目を細めた。まぁ、日焼けくらい大丈夫だろう。

「んじゃ、コンビニ行く?」

「うん」

スマホを取り出して、近くのコンビニを検索すると、200メートルくらい先に一件あった。

「こっちにあったし、行こっか」

そう言ったら彼女は小さく頷いて、先を行く僕についていくと、僕はゆっくり歩いてたので、すぐに追いつく。

たまにはこうやってのんびり歩くのも悪くないな、と思ってしまった。

それからコンビニへはすぐに着いた。街中よりかは多少涼しかったこともあり、花山が途中で瀕死になることはなく、一回彼女の足がつりかける程度で済んだ。街中だったらそのまま足をつって、コンビニにたどり着くのに10分以上はかかってただろう、だが今回は僕が彼女に肩を貸してる事を踏まえても5~6分で着いた。そんなわけで僕の肩を借りてる花山に話しかける。

「着いたけど、もう歩ける?」

「いける。ごめんね、肩借りちゃって」

「いいよ別に、あのまま歩いてたら本当につってただろうし」

「ありがとね」

彼女はそっと僕の肩から手を離して、ゆっくりと全体重を足にかける。どうやら大丈夫だったらしく、いつもの調子で「行こうか」と言い、コンビニへと入る。

コンビニの中は冷房が効いていて涼しく、バス移動と日差しで疲れた体に冷たい空気が染み渡る。

元気も出てきたところで、僕らはそれぞれ分かれてコンビニ内を物色する。花山はサンダルを見に行って、僕は適当なアイスとか飲み物を見る。

何分か経って、僕は適当に目についたアイスとお菓子と、あとジュースを買った。彼女はもう買い物を終えていたようで、入口近くで待っていた。

「ごめん、遅くなった」

「大丈夫大丈夫、それよりもさ、行こうか」

「うん」

そう言って僕らは今日の目的地、川へと向かう。ちょっと歩いたらすぐそこには、いい感じに誰もいない場所があった。

「はぁ疲れた...あ、なんか涼しいや」

川辺に座り、花山は顔にかかった前髪をかきあげる。

「川だからかな」

僕も彼女の隣に座る。草の下の土は湿っていて、ひんやりと僕の体温を奪う。日差しで体が火照っているからか、やけに冷たく感じる。

「あっ」

「ん?何?」

一つ、忘れ物をしたことを思い出した、大したものじゃないけれど。

「ごめん、タオル忘れた」

「あー、私の貸そうか?」

「いや、いいよ、多分すぐ乾くと思うし」

「そっか」

彼女はにこっとほほ笑んで。

「んじゃ、そろそろ行く?」

と言った。彼女の視線の先には、川があった。きっと、そろそろ川に入る?といった意味だろう。ま、休憩もしたし、行ってみるか。

「うん、いいよ」

すると、彼女は自分の靴を脱いで、靴下を脱ぐと(白で無地の、どこにでもありそうな靴下だった)、血管が透けて見えそうなほど真っ白で、滑らかな足を露わにさせ、そしてそのままサンダルを履いた。思わずまじまじと見てしまう。

「ん?どうしたの?」

彼女はぽかんとした表情で、僕にそう尋ねる。

「あ...なんでもない」

僕はそっけなくそう答えるので精一杯だった。やっぱりなんか、おかしい。

「そう?じゃあ早く行かない?」

見ると彼女はそわそわと体を揺らし、目をほんの少しだけ、輝かせていた。そこには自分の部屋で病み、腐っていた花山ではなく、子供の頃の、元気で純粋な花山がいた。

「うん」

彼女は僕の先を歩くと、そのまま川に足を入れた。僕も続いて川に入る。

川は足首くらいの深さだけど冷たくて、体中から熱が引いていくようだった。

「結構冷たいや」

「そうだね」

僕らはしばらく浅瀬でちゃぷちゃぷと遊び、ちょっと満足したのと、花山の体力の限界が近づいてきたので休憩をとることにした。。ちなみに僕らはただ歩いたりしてただけなので、特に水をかけあったりだとか、転んでびしょ濡れになったりだとかそういう撮れ高は一切なかった。

休憩をとることにした僕らは川から上がると、彼女はその場にぐったりと座り込む。

「ぜぇ...ぜぇ...やっぱり若いころみたいにはいかないもんだね...」

彼女は冗談めかしてそういうと、僕はツッコミをするように。

「今も十分若いでしょ」

と言い放つ。

「昔は1時間とか余裕だったのに...」

「そうだね...ってか今思えば、なんで昔ってあんなに体力あったんだろ」

「さーね、何も知らないからじゃない?」

「確かに...いやどういうこと?」

その質問に彼女は答えず、ただいたずらっぽい笑顔を浮かべているだけだった。なんだかばかばかしくて、こっちも笑ってしまう。

笑っていたら、何か疲れてきたし、買ってきたお菓子でも食べようと思いレジ袋を漁ると、思い出した。そうだ、僕はアイスを買っていたんだ。

焦ってアイスを取り出すと、袋越しでもわかるくらいほとんど溶けていた。せっかく買ったのに。

「溶けてる...」

「どんまい」

「僕の80円が...」

「...お菓子食べる?」

彼女はあきれているような、心配しているような、何とも言えない顔をしながら僕に噛む噛むできるレモン味のお菓子を一粒くれたので、そのまま口に放り込んで噛むと、口の中につんとしたレモンの酸っぱさが広がって、唾液がじわりと出てくる。

「ありがと」

酸味で喋りにくい中お礼を言うと、彼女は微笑みながらつぶやく。

「いいよ別に、一粒くらい」

と、彼女は気にしてない様子だったが、なんだかもらいっぱなしも悪いと思い、僕はレジ袋の中に入っているプリッツを開け、一本取り出して。

「食べる?」

「いいの?ありがと」

花山はプリッツを受け取ると、さくさくとかじって食べていく。そんな姿を見ていると、どこか和んでくる。ハムスターとか小動物みたいだからだろうか。

「ところでさ、石場くん」

喉を動かしてプリッツをごくんと飲み込んだ花山は、僕の方を向いてそう言った。

「ん?」

「ありがとね、今日、来てくれて」

「何、急に」

「いや...ちょっとね、色々あってさ」

花山は、誤魔化すように髪をかき上げて、笑った。

彼女はきっと、大事なことを誤魔化している。でもそれを聞く勇気なんて、僕にはなかった。聞いてはいけないものだと思った。だから

「そっか」

それだけ言うのが、精一杯だった。彼女から視線をそらし、プリッツを一口かじる。塩っ気とわずかな甘みが口の中に広がって、喉が渇いてきたので、これもまたコンビニで買ってきたジュースをごくごくと飲む。もうぬるくなっていた。

「ねぇ」

僕がジュースから口を離した瞬間、それを見計らったみたいに花山が話しかけてきた。

「何?」

「その、たまにはさ、こうやって二人で遊びたいなぁ、って思ってさ...」

それは感想というより、懇願に近かったような気がする。たまにでいいから、二人で遊ぼうという、懇願。

「いいよ」

僕はあんまり深く考えずに了承した。まぁ、昔は仲良かったわけだし、別にたまに遊ぶくらい、大したことではないだろう。

「ありがとう、それじゃあ」

これからもよろしくね、と、妙にかしこまった口調で花山は言った。僕は彼女に合わせて『よろしくね』と返した。

本当に、僕は軽い気持ちだった。

まぁ色々ありました。いつもの事ながら遅れて申し訳ないです。

~裏設定コーナー~

花山の身長は159㎝

石場の身長は166㎝


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