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限界集落

作者: 三下

少子高齢化の進んだこの島国では、苦肉の策としての法案が可決された。

平たくいえば、30歳までに結婚していない男女を職業や居住地を指定した上で強制的に結婚させ、80歳を超えた老人には医療を提供しないという法律である。

当初こそ反対派の抗議があったがすぐさま鎮圧され、表面上はなめらかに法律が実行されるようになった。

A男は25歳の時にこの法案が可決された。A男には芸術家になりたいという夢があったし、生涯地元で暮らすという願望もあった。だから、30歳になって結婚していないというだけで、したくもない仕事に就き、住みたくもない場所に住み、好きでもない人間と結婚するのはご免だと、好意を寄せている女子に手当たり次第想いを伝えまくった。上手くいったこともあれば、上手くいかないこともあった。また、上手くいっても長続きしないことも多かった。余裕のない様子や打算的な様子が相手方に伝わったからかもしれない。第一、A男の地元が田舎だったこともあり、出会える異性の数は限られていた。そこから理想の相手を探すのが至難の業だったのかもしれない。ともかく、A男は30歳までには結婚できなかった。30歳になって初めての年末、政府から通知が届いた。結婚相手の氏名とA男が来年度から就かされる仕事、A男夫婦の居住地、だけが書かれている簡素なものだった。

年明け、A男夫婦は、居住地として指定された一軒家で初対面した。A男の地元からは遠く離れた土地であり、慣れない土地での対面というのも相まってなかなか緊張した。緊張はしたが、どうやら相手方も気の合わない人間なわけではなく、会話ははずみ、だんだんと緊張はほぐれていった。

それから、A男夫婦の生活が始まった。A男はそれなりに満足していた。妻の名前はB子といったが、A男の嫌いな容貌でもなく、長くいて疲れるような性格でもない。居住地も悪くなかった。何もかもが揃っているわけではないが、贅沢を言わなければ何の文句もない。仕事も、大金が稼げるわけではないが、芸術家を目指してその日暮らししているのと比べたら十分な額は稼げる。もちろん危険を伴うことはない。

A男は、国が、自分に合う妻・住居・職をあてがってくれているのではないか、とさえ思うようになった。いや、そうに違いない。B子もそれなりに満足そうな顔をしているのだ。彼女もそう感じているに違いない。

やがてB子との間に3人の子をもうけた。子供を産むことは強制されている事項ではない。しかし、今のこのそれなりに満足した生活に、子供がいたらもっと楽しくなるのではないかと思ったのだ。この子供たちがこれからどんな人生を歩むかはわからないが、それなりに満足した生活を送ることはできるはずだ。


C造は余命わずかの老人だった。80歳の誕生日の日、例の法案が可決された。身体自体は元気だが、徐々に内側から蝕まれていく病だった。医療によってわずかばかりの余命を伸ばしてきたのだが、もうそれもできそうにない。もってあと一ヶ月といったところだろう。そうと分かればやることは決まった。自分の遺産はなるべく薬や病院には使わず、すべて家族に分け与えるようにした。久しく会うことのなかった友人をたくさん訪れた。今までの人生の見聞はあますことなく手帳に書き残した。やり残したことは全てやりきった。自分がまだ動けるうちに自分の死期を知っていれば、思い残すことなく死んでいけるものだ。


・・・ここは国の主脳たちが集う地下室。

「自由主義とは聞こえがいいし、多くの国が理想にしているものだ。事実、経済など自由に任せた方が発展を遂げやすいものだろう。」

「ああ、だが、強制されないとできない人間がすこぶる多いのもまた事実…。限界集落と謳われたわが国も、例の法案のおかげで随分と持ち返すことができた。強制されて結婚した者たちの多くが子供をもうけ、皆それなりの生活を送っているではないか。老人も、機を逸することなく死んでいける。」

「やはり、これからの時代は自由と強制のバランスが大事なのだな。」

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