第六話 決闘
初めてこの小説の面白い部分が書けました。
そう、バトルが醍醐味なんですよこれ。
◯前回のあらすじ
勝負を吹っかけてきた金髪イケメン、クロード。そこに突如登場した肩書き長めおじさんに、勝負の場を設けてもらうことになった。
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—皇都冒険者協会・裏庭—
アリステア本部長に丸め込まれ、連れて来られた先には、石畳が敷き詰められた天井吹き抜けの広場があった。
「ここは我が皇都冒険者協会が所有する訓練場の一つ、初心の間。その名の通り、初心者向けに作られた最もシンプルな造りの訓練場だ」
協会やっぱり凄いな。規模の大きい組織なのは理解していたが、こんな施設まで複数所有してるとは。ただ、初心者向けというのが引っかかる。それはクロードも同じようで、眉根を寄せている。
「念のため言っておくが、君達を戦闘初心者として見ている訳ではないぞ。シンプル故に地形に左右されない。実力勝負をする上で、ここ程公平な場はないと判断したまでだ」
なるほど、それなら納得だ。クロードも澄ました顔に戻った。
「どうやらここを決闘の場として問題ないようだな。では二人とも、準備をしてくれ。ジャッジは私が下す。異論は認めんぞ」
なんとなく察してはいたがあのおじさん、この状況楽しんでいるな。悪戯っ子みたいな笑みを浮かべているよ。
「ほら君も、早く早く!」
クロードは既に所定の位置につき、細く鋭い剣、レイピアを握っていた。
よく考えたら僕に勝負する理由はさしてない。あちらは何か躍起になっているようだが。しかし、現状の自分の実力を知るいい機会だ。同期と戦う機会が無かったし、丁度いい。
さて、行きますか…行くぞ相棒(100円にも満たない短剣)
3人をぐるりと囲むように、ギャラリーは今か今かと待ち侘びている。話題は学園主席卒のエリートの戦闘と、部様を晒すであろう半端者の末路について持ちきりだ。
向かい合った両名を前に、アリステア本部長は掲げた手を振り下ろし、始まりの合図を告げる。
「はじめっ!!」
ネモは短刀を中段に構え、体を捻り姿勢を低く前方に傾ける。対するクロードは、肩幅に脚を開き、膝を浅く落とし得物を眼前の相手に向ける。得物を握っていない手は背後に回す。
勝負は一瞬だ。そう、速さこそ正義!最速の突きで終わりだ。
弾かれたようにネモは石畳を蹴り、間合いを詰める。先程まで賑やだったギャラリーが嘘のように静まり返る。息を呑むほど強烈な刺突がクロードを襲う。
「っふ」
しかし、その刃が届くことはなかった。レイピアを少し動かした。ただそれだけ
ーーー軌道の逸れた凶刃は空を切る。
今の一合でネモは理解した。理解せざる終えなかった。単純な剣の技量に差がありすぎる。今まで刺突が決まらないことは無かった。それ故に自身の速さに剣捌きに、少なからず自信があった。それを意図も容易く
短剣を横凪に払い距離を取る。2歩3歩後退するも、追ってくるどころかピクリとも動かない。
ネモが内心穏やかではない中、来ないのならとクロードが動き出す。
一歩踏み込んだその瞬間、レイピアが閃く。
音を置き去りにする閃光がネモの眼前に迫る。
間一髪だった。反射的に傾けた体勢を傾けなければ肩を貫かれていた。
背筋が凍った。目の前の相手は本気だ。寸止めする気は更々ない。
審判は何も言わない。容認しているのか…
ネモが狼狽えているのもお構いなく、クロードは次なる攻撃を仕掛ける。目にも止まらぬ速さで、肩・腕・腿を無数の閃光が集結する。
その全てを躱し、短剣で払い、避けに徹する。暴雨のような刺突を抜けた先には、身体の至る所に切傷が出来、黒い血が滴り落ちる。
致命傷は免れた。目で追えなかったのに、耐え抜いた事にネモ自身が一番驚いている。
「ただの半能力者で無いようだな。今のを捌き切るとは思わなかった」
素直な賞賛。しかしそれは余裕の表れでもある。本番はこれからだ。
ネモはクロードから十分に距離を取った。
クロードはレイピアを持っていない手を突き出した。その手には夜”が展開されていた。そうこれこそが、この時代本来の戦い方。
夜には星々が浮かび上がり、雷の形を形成する。
「それでは、星座を解放する。死にたくなければ武器を構えろ。
いくぞーーーエクレール」
刹那、雷鳴轟き、クロードの対角線上の壁に爆音が響き渡る。石畳の上にネモの姿は無かった。一瞬だった。雷を纏った高速の刺突がネモを貫き、勢いそのまま吹き飛ばした。
先程までネモのいた位置にはクロードが立っている。石畳は黒く焦げていた。
ギャラリーが騒然とする中、ゲホッゲホッと咳き込む声がした。
爆音の鳴った壁から砂埃が晴れる。そこには腹部を雷に打たれ焦がしたネモが居た。
辛うじて短剣をレイピアと腹部の間に差し込み、間一髪致命傷を避けた。しかし衝撃は受け止めきれず、呼気が荒く苦しそうだ。短剣も砕け、柄のみとなっていた。
ネモがまだ立っている、この事に誰もが驚いた。今日何度目の驚愕だろうか。半端者の馬鹿にしていた連中も目を見開き唖然としている。
ゲントは相棒の武士に安堵したと同時に、やはり組んで良かったと内心賞賛を贈る。
アリステア本部長は新しい玩具を買って貰った子どものように、無邪気な笑みを浮かべ、興奮冷めやらぬ様子だ。
しかし、クロードは違った。その表情には焦りが見えた。追い詰めている側なのに、なぜ焦燥感を漂わせているのだろうか。
勝負あった、誰もがそう思った。
ネモは一歩前に出た。一歩、また一歩、クロードとの距離を縮める。手には砕けた短刀。ふらつき、今にも倒れそうになりながらも歩みを止めない。
短刀を逆手に持ち替えた。異様な雰囲気にその場にいた誰もが呑み込まれた。
ついに距離約5mまで縮まったその時、クロードがレイピアを天高く掲げた。逆の手には星々が輝く夜が展開されており
「く、来るな!」
刃先に迸る稲妻が天目掛けて飛躍する。天空の雲に直撃した雷撃は、真っ白い雲を浅黒く変色させた。
「まずい!」
ーーー切羽詰まった声が訓練場に響くが遅かった
「フードゥル!」
ネモ目掛けて不可避の稲光は降り注いだ。迫り来る死には見向きもせず、尚もネモは前進した。
「鎖縛封陣」
誰もがネモの死を予見したその時、雷とネモの間に漆黒の何かが割って入った。
耳を塞いでも耐えらぬ程の雷轟と強烈な光が空間を埋め尽くす。完全に収まり眼前に広がる光景は異様そのものだった。
無数の巨大な鎖が天井となり、訓練場を覆っていた。どうやら、アリステア本部長の星力らしい。
クロードは膝を突き項垂れ、レイピアは無造作に転がり落ちていた。息が荒く、酷く錯乱しているようだ。
項垂れるクロードにふと影が被さる。ネモが目の前にいた。
逆手に構えた短刀を振り上げ、クロード目掛けて振り下ろす。
しかし、柄のみの短刀が振り下ろされるよりも早く、ネモが地面に崩れ落ちた。
読んでいただきありがとうございます。
能力が主体のバトルモノなのに前振り長くて困っちゃう。
六話目でやっとですよ!
未熟者です。これから精進いたします。
もし気に入って頂けましたら、是非今後ともよろしくお願い致します!