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それが出会いだった。


 人と人が出会うタイミングってのはどうしてこうも急なんだろう。

 運命の出会いってのが本当にあるのかどうかなんてことはてんでわからないけれど、迷惑な出会いなんてものがあるのは確かだって言える。


「ねえねえせんぱ〜い」


 ツンツンと俺の頬を突いてくる。


「あ〜もうっ! 集中できねえ!」

「やぁ〜っと反応してくれた」


 頑として無視を貫いてきた俺としても、直接攻撃を受ければキレもする。

 近くにあったその小さい頭を鷲掴みにしふわふわとしたそのミディアムの長さの髪をわしゃわしゃとする。


「も〜いくら私のことが好きだからって暴力は禁止ですよ! そういうプレイが世の中に存在することに関しては私も理解はありますが度を超えるとそれは快感ではなく不快感が勝ってしまうんですからね!」

「俺は現在進行形でお前に不快感を抱かされているわけだが、それに関しては俺の意見を聞いてもらえないのだろうか?」

「も〜! こんな可愛い後輩に絡まれて嫌な先輩なんているんですかね?」


 あ〜だめだ、何言っても通じねえ。

 物には相性というものがある。なんでも切れるというあの有名な刀でさえこんにゃくが切れないように、俺とこいつは相性最悪だ。

 

 いや、ここで明確にするなら俺にとっては相性最悪だ。

 そもそも、そんな後輩がなんで俺と仲良くしている風なのか、それを語るには少しだけ時間を遡らないといけない。





 

 俺、目時幸人はタイミングが悪い。

 そう素直に思うくらいに自分という人間はタイミングに恵まれない。


 もちろん「不幸だー!」が有名なあの主人公ほど不幸が俺の身に纏わりついているわけでも、出歩いた先でいつも事件に巻き込まれるわけでもない。


 ただ、今このタイミングで?! みたいなことが起こってしまう。もちろんそれに関しては自分の不注意というものが多分に含まれているわけであってそんな主人公たちの天災レベルの何かを持ち合わせているわけじゃない。


 たまたま支払いとかの理由で所持金を多く持っているタイミングとかで財布をどこかに置き忘れたり。この日だけは遅刻したらまずいという時に限って前日に目覚ましをかけずに寝てしまったり、スマホの充電をせず寝てしまい、電池が切れて寝過ごすとか。本当に自分の不注意のレベルなのだ。


 ただ時々、そんな自分が不注意関係なくタイミング悪くそう言った間の悪い出来事に出くわしてしまうこともある。そればっかりは本当にタイミングの悪さで、俺にはなんともできない。


 その日も、俺が大学へ向かうべく余裕を持って家を出た時だった。


「う〜わ……」


 普段少しでも家でゆっくりしたい俺がときたまある少しだけ家を早く出ようと思う日、少しよりも時間に余裕を持ったが 為にこういうことが起こる。


 目の前には白を基調としながらもどこか大人っぽさが溢れ出ている財布が落ちていた。


 よほど焦っていたのか、それとも単純にイヤホンとかしていて気づかなかったのか、とにかくなんとも嫌なタイミングでそれを見つけてしまった。


 間違ってもお金を取るとかそういうつもりではなく、まずは単純に持ち主のわかるものがないか調べるべく、財布のチャックを開けた。


 分かりやすい位置というべきか財布を開けてすぐ目につくカード入れに顔写真付きの学生証が入っている。


 不知火深雪しらぬいみゆき。なんだか熱そうで冷たそうだなんて安直で率直な感想をその名前から抱いてしまう。

 唯一ありがたかった点みたいなところはその学生証は俺にとっても身近な、というかこれから向かうべき大学の学生証だった。そのおかげもあってか遠回りするわけでもなくなんとか目的地である大学にたどり着けそうだ。


 少しだけ肩の荷が下りたような、緊張感のようなものが解け、いつも通りの通学路をいつもよりも少しだけ早く通り過ぎて行った。



 大学内に入ると俺は一目散に学生部の方へ向かう。

 というのもだ、時間的に余裕があることもあって自分のポケットの中にある爆弾を一刻も早く取り除きたかった。


「ありがとうございました」


 普段は寄り付かない学生部へ向かうと俺と入れ替わるように一人の女生徒が出て行く。どこか見覚えのある風貌だったが、俺にその生徒の顔を見る余裕はなく、カウンターにまだ立っていた学生部の事務員に話しかける。


「すみません、大学の近くでこれを拾ったのですが、預けてもいいですか?」

「あ、はい!」


 そういって爆弾を手渡す。

 すると、まずは中身を確認する……のだが、それを見た瞬間事務員のお姉さんがハッと顔を上げた。


「これ、今出てった不知火さんの……ごめん君、まだすぐそこにいるかもしれないから読んできてくれないかな?!」


 答えるよりも早く足が動き出してしまっていた。

 先ほど出て行った生徒……もとい不知火さんはすぐ近くを歩いていた。


「あのっ……!」


 変に思われなかっただろうかなんて心配してしまう。ただでさえうちの大学は周辺の大学に比べチャラチャラした印象を抱かれている。だからこそこの声かけも大学内でのただのナンパに思われないかと不安を抱いてしまう。


「はい……?」


 案の定というべきか、不知火さんと思われる生徒は嫌悪感のようなものを隠そうとはせずこちらを少しだけ睨みつけるような視線でこちらを覗き込む。


「ごめん、急に呼び止めて。学生部の事務員さんが急ぎで君を呼び止めてっていうから」

「ああ、すみません。急な声かけだったのでナンパかと……」


 やっぱりうちの学校ってそういうイメージなんだなっていう率直な感想と、それなりに声をかけられているのかという彼女に対する感想を覚える。


「ありがとうございます。戻って見ますね」

「いえいえ、それじゃあ俺はこれで」

「あっ———! ちょっ————!」


 棟と棟の間にある自動ドアがそんな俺らの淡白で一瞬な関係を引き裂いた。

 多分もう会話することもないんだろうな。なんてあっさりとした気持ちで俺は教室の方へと向かうことにした。




 ………そして、後から気づいた。あれ……俺、財布落とした……?!



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