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子猫伯爵の気のままに  作者: yura.
1部-1章.シャルル・ミオンの学院生活①
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▽.もう一つの結末

カレン夫人――正確にはカレン・ボナンがミオン次期当主を襲った話は瞬く間に『大地の国アズロ』の社交界の間に広まった。

噂が広まらぬようミオン、マクスウェル両家で情報操作を行うものの、その成果は(かんば)しくない。

子爵以下の下位貴族への足止めこそ出来ても、伯爵家以上の上位貴族の口を封じる事は出来なかった。

「――聞いたか?」

「ミオン伯爵家の事だろう?」

「伯爵が異様に可愛がっていると思ったら、末息子は平民との間に出来た子供らしい」

その日、侯爵令息サマル・バロッドはガーネット侯爵家主催の社交パーティーへと足を運んでいた。

懇意(こんい)の貴族たちが花を咲かすのは何と言う事か、あのミオンの話だ。

「聞いた話だと式を挙げていないらしいな」

婚外子(こんがいし)という事ですか?」

「恐らくな。そうまでして出自を隠したかっという事だろう」

「公正そうなのは顔だけという事ですか。ミオン伯も隅に置けませんね」

クスクスと笑い声を上げて彼らは噂話に興じている。

どこから舞い込んできた話かは分からないが、上位貴族の間で囁かれる噂ならそう誤りはないはずだ。

サマルは神妙な面持ちを保ちながらも、心の中で口の端を吊り上げた。

(クク、ハハハ!ミオンが婚外子だって!?どうりであの平民たちと気が合うわけだ!)

己のプライドをズタズタにした元凶の一人シャルル・ミオン。

そのシャルルが平民との間に生まれた庶子(しょし)ともなれば、あの一件すら引っくり返す事が出来るだろう。

久方ぶりの朗報に、サマルは浮足立つ気持ちで会場の中心へと入って行った。

その中心には遠目にも目立つ巨漢(きょかん)が立っている。

主催者でもあるオズウェル・ガーネットは大振りのグラスを片手に挨拶周りに忙しそうだ。

入学時にも増して肉の付いた腹を揺らしながら慌ただしく客人を(さば)いていた。

(……相変わらず見るに()えない醜い体だ)

肉だけを()やしたオズウェルを見下し、サマルは使用人の差し出したグラスを受け取った。

成人を迎えた大人たちにはアルコールが配られているが、まだ15歳に満たないサマルたちに渡されるのは葡萄(ぶどう)ジュースだ。

「おお、サマルじゃないか。来てくれないかと思ったぜ」

「お招きありがとうオズウェル。謹慎(きんしん)の話をしているのだとしたら君にはセンスがないのだね」

「好きに言ってろ。それより――」

サマルの姿を見つけたオズウェルがのしのしと近づいて来る。

甘酸っぱい液体を一気に(あお)り、サマルへと耳打ちをした。

「お前も聞いただろ、ミオンの事」

「もちろんだとも。もしやそのために招待してくれたという事かな?」

「そんな偶然あるわけないだろ。だが……どうなると思う?」

次のグラスへと手を出し、服の中に無理くり巨体を収めたオズウェルが肩をすくめる。

オズウェルが気にしているのはカイト・デルホークの出方(でかた)だ。

しかし肝心のカイトの姿は見当たらない。

「カイト様は来ていないのか?」

「用事が出来て来られなくなったんだ。カイト様は俺たちと違って、三公(さんこう)としての責務があるだろうからな。こればかりは文句を言ってもしかたないさ」

「そうか。あのお方も大変だな」

そつのない答えを返しサマルもグラスを煽った。

(カイトの驚く顔が見れなくて残念だ)

シャルルに入れ込むカイトが噂を耳にしたならば、少しはあの余裕ぶった顔を歪めてくれた事だろう。

実に残念だと(うそぶ)き、サマルは挨拶周りに戻るオズウェルを見送った。

会場には双子のロシェルやミルドレッド、ジェラルドなど、学院でもよく顔を合わせる面々の姿が確認できる。

その誰にも挨拶を()わす事なく、サマルはミオンの噂で盛り上がる貴族たちの中へと混ざっていった。

「――混ぜてもらっても?」

「サマル様。ははっ、やはり興味がおありで?」

「さあ、どうぞこちらへ。ええと、どこまで話したか――」

サマルを迎え入れ、噂話は更なる熱を(はら)んでいく。

(まさかミオンの奴にこんな弱点があったとはな)

憎き相手の弱味を掴んだサマルはその後、学院で、社交パーティーで、招待されたお茶会で、勝ち誇った気持ちで日々を過ごした。

噂が事実と認められるのもすぐそこだ。

平民の血を引く婚外子だという真実が広まった時、聖人などと担ぎ上げられれるシャルルの評判は地に落ちる事だろう。

今までずっと騙してきたとなれば猶更(なおさら)の事。

貴族たちからも平民たちからも裏切り者と罵られ居場所を失うに違いない。

ラドフォード伯爵がいかに(かば)ったところで、シャルルの兄姉や使用人までがそうとは限らない。

孤立したシャルルを踏み(にじ)るのはさぞ気分が良いだろう。

表情に(かげ)を差すシャルルを見る度に気分は高揚し、勝利への確信が強まっていく。

遂に雪辱(せつじょく)を果たす時が来たのだと、サマルはその日を今か今かと待ちわびた。

しかし――サマルにとって思わぬ事態が発生する。

「ありえない……。父上がミオンに手を貸したというのか……?」

カレンの罪が明らかにされる中、その(もっとも)もたる功績を(にな)ったのは音声を記録する魔具(まぐ)だった。

魔具に記されたカレンの供述が決定打となり、ミオン伯爵家が罪に問われる事はなくなったのである。

罪人はカレンただ一人で、責任を負う事になったのもミオンではなくマルキーノ子爵家だった。

その結果をもたらした魔具は、疑いようもなくバロッド家が保有する小型のものだ。

記録の魔具の総数は少なく、その色形を見ればどの家が所有しているかは誰にでも即座に分かる。

ミオンの没落を見届けるために購入した新聞を手に、サマルは愕然(がくぜん)とベッドの上へと座り込んだ。

「嘘だ…、あの人がミオンに手を貸すなんてそんなはず……」

息子の自分にすら手を差し伸べない男が、爵位も低く、まして貴族派でもないミオンに協力したなど(にわ)かには信じられない。

何かの間違いだと、サマルは穴が()くほど新聞を読み込んでいく。

だが何度目を通しても、その事実が否定される事もなければ、ミオンが落ちぶれる可能性を示唆(しさ)する文字を見つける事も出来なかった。

「バロッド侯爵のお力添えもあって、早急に事件が解決したそうよ」

「さすがはナレル侯爵。ミオンと良好な関係が築けているようですな」

それに留まらず、話が広まるや否や、人々は我先にとバロッド侯爵家当主ナレル・バロッドを称賛した。

ナレルにとっても満更ではなかったのだろう。

ぶっきら棒にあしらいながらも、日に日に気落ちするサマルとは違い、ナレルの様子は上機嫌なものだった。

「クソ!!クソ!!クソッ!!!!」

判決について書かれた新聞を投げ捨て、サマルは手あたり次第に物を投げ散らかす。

「どうしてだ!?何故上手くいかない!?何だってあいつはへらへら笑っているんだ!!??」

淡い期待すら打ち砕かれ、サマルは咆哮(ほうこう)する。

シャルルの評判くらいは落ちるはずだと踏んだのに、それも結局は根も葉もない噂話の域を出なかった。

それどころか聖人として祭り上げる動きが再熱しただけだ。

家族の仲が引き裂かれる事もなければ、ミオン伯爵家の中で居場所を失ったわけでもない。

学院での立場にも、交友関係にも悪い(きざ)しは見られない。

何一つ上手く進まない現実に、サマルはただひたすらに憎悪を(つの)らせていく。

「せめてウィルフレッドさえいなければ……」

サマルはフーッ、フーッと獣じみた息を吐き出し虚空(こくう)を睨む。

シャルルの騎士を気取る平民ハンス・ウィルフレッドさえいなければ、シャルル自体を片付ける事は容易い。

あるいはシャルルさえいなければ、ただの平民を潰す事など造作もない事だった。

煮えたぎる頭を動かし、サマルは部屋に散らばった金貨の1枚を握りしめる。

「フ、クク…、ハハハ。そうだ…、あいつらの茶番に付き合ってやる必要はないじゃないか」

あの二人を消しさえすればこの心は晴れる事だろう。

サマルは妄信的にそう信じ、にたりと口の端を吊り上げて笑った。

そのすぐ近くを顔なき男が歩いていく。

その男がこの結果をもたらした事をサマルが知る由はなかった。



「――ここまで考えていたのか?」

「はて?何の事でしょう?偶然にも侯爵様にお貸し頂いた魔具が役立つ場面があったというだけで、私はただ個人的に魔具(まぐ)に興味があるだけでございます」

「ふん、食えん奴め」

荒れ狂うサマの事など露知(つゆし)らず、ナレルは邸宅を訪れた客人を迎え入れた。

借りていた魔具をテーブルに並べ、一人バロッド侯爵家へと来訪したナサニエルはゆるりと微笑む。

結局ナサニエルが使ったのは記録の魔具だけだ。

カレン・ボナンとの判決や(あるじ)たる少年のアフターケアに励むうちに使わずじまいに終わってしまったのだ。

ナレルは魔具を一つ一つ確認し、問題がない事を認めると静かに首肯(しゅこう)する。

「役に立ったなら何より――と言ってやれば良いものか。まあ良い、醜聞(しゅうぶん)が広がるのであれば手を打たねばならんが、想定外とは言え我が一門が評価されたのだ。多少は多めに見てやろう」

「重ね重ね侯爵様の寛大な御心に感謝するばかりでございます」

ナレルにとってはまったくの予想外だったが、バロッド侯爵家所有の魔具が解決への糸口となった事で株が上がったのは事実だ。

貴族派からはミオンを引き込むきっかけを作ったと賞賛され、ミオンと同じ中立派からも少なからず信頼を得る形となったのだから文句のつけようはなかった。

(――この男の手の上で踊らされているのは(しゃく)だがな)

鋭く睨みつけても目の前の使用人は一切動じない。

頭も口もよく回る奴だと、ナレルは感心とも呆れともつかない吐息を漏らした。

「時に侯爵様、どうぞこちらを」

言葉の続かないナレルの前に、ナサニエルが真四角の木箱を差し出す。

魔具とは別に準備していただろう箱を黙って受け取り、その蓋を開けた。

「ほう、アンダラネダか」

「流石は侯爵様。一目見ただけでアンダラネダとお分かりになるとは恐れ入ります」

にこにこと笑いナサニエルは続ける。

「ご覧頂いている通り、アンダラネダの魔石(ませき)()()となっております。アンダラネダは魔石が露出しており、弱点でもあるそこを狙われる事がほとんど。このように傷一つない完全な状態の魔石となれば、侯爵様とて滅多にお目に掛かる事はないでしょう」

アンダラネダは人を模したような上半身に蛇のような長い下半身を持つ小型のヨナの識別名だ。

その大きな特徴は体の丁度半分の位置にある露出した魔石――つまりは心臓である。

心臓でもある魔石を砕かれればヨナとてひとたまりもない。

露出した魔石を持つアンダラネダは比較的討伐しやすく、市場でもアンダラネダの魔石はよく見られる代物(しろもの)だった。

しかしコレクターでもなければ完品を欲しがる事もないため、冒険者たちが持ち帰る魔石のほとんどは状態の悪いものだ。

こうして傷一つない状態のものに出会う事はまずないだろう。

「その貴重品を持ってきたという事は、また魔具が必要になったのか?」

「いいえ、こちらは返却が遅くなってしまった事のお詫びでございます。どうぞお納めください」

「そうやって取り入るつもりか」

「ただの気持ちでございます。シャルル様にはサマル坊ちゃんと良いご関係を築いて頂きたいと思っております(ゆえ)、そのためにもまずバロッド侯爵家の皆様と信頼を結びたいと考えております」

ナレルはアンダラネダをじっと見つめ一笑(いっしょう)()した。

「心にもない事を言うな。息子同士が嫌い合っている事くらい私にだって分かっているつもりだ。それに仲良くなりたいと言うなら相手を間違っている」

「相手をでございますか?」

「この家を継ぐのは兄のミハエルだ。機会があれば紹介しよう。何分(なにぶん)、あれは体が弱くてな」

それ以上を口にしたくないのか、ナレルはアンダラネダへと興味を移した。

手袋をはめると、取り出したルーペで大の男の手のひらに収まるか収まらないかといった大きさの魔石をじっくりと眺めていく。

「ふむ、随分と腕の良い知り合いがいるようだな」

「申し訳ありませんが、ご紹介する事は出来かねます」

その話になるだろうと踏んでいたナサニエルは先手を打ってやんわりと首を振る。

「非常に残念な話ではございますが、その者はもう亡くなってしまったのです。所有していた魔石も全て売り払ってしまわれたそうで……私が譲り受けたものもそう多くはございません。侯爵様にお渡ししたものを除きますと、どれも市場に出回るようなありふれたものです」

「……そうか。それは惜しい人材を失ったものだ」

ヨナと戦う冒険者には常に死の危険がつき(まと)う。

侯爵は何の疑いも持たず、まるで哀悼(あいとう)でもするかのように目を伏せた。

(まあ、まるっきり嘘ってわけじゃないしな。呪いのせいもあるだろうけど、あの頃の俺を覚えてる奴なんか居やしないさ)

ちなみにその冒険者はナサニエル自身の事だ。

ナサニエルにとっては最大級に恥ずかしい過去だが、神学院(アーク・マナリア)を卒業してすぐの最大級に調子に乗っていた時の話である。

エインワーズ家のしきたりに(のっと)ってミオンに仕えるなど言語道断と、学院を卒業した直後、最低限の手荷物をトランクに詰め、鳥すら眠る夜更けに一人屋敷を抜け出したのである。

物心ついた時には相手の望む振る舞いを身に着けていたナサニエルだ。

誰かの求める誰かを演じながら、日常的にヨナの脅威(きょうい)(さら)される最南端へと下っていった。

時に凄腕の騎士を名乗り、時に誰かの恋人として家に上がり込み、時に誰かの息子として食事を恵んでもらい、何の苦もない自由気ままな旅に興じたのである。

最南端へ着いてからは、冒険者として毎日のようにヨナを退治して回っていた。

自分の力に絶対の自信があったナサニエルは、他の冒険者たちから有用な加護(アーク)を集めつつ、ヨナを倒す事で自分の才能をひけらかしていったのだ。

遠くなく『女神の呪い』に(むしば)まれるとも知らず、ナサニエルは模倣によって得た加護(アーク)を振るい続けた。

アンダラネダの魔石も、エイスフィートの魔石もその時に手に入れたものだ。

(今思い出してもエイスフィートは厄介だったな)

ナサニエルはかつて戦ったヨナの事を思い出す。

王国騎士団が苦戦したようにエイスフィートはまさしく化物だった。

巨大な体も、縦横無尽に動く触手も、全てが難攻不落の城塞(じょうさい)のようだった。

だがエイスフィートの恐ろしさはその巨大さでも強大さでもない。

(あいつには知恵がある。その上で恐ろしいほどに慎重だ)

ヨナは知恵を持たないなどと伝えられているが、翻弄(ほんろう)するような触手(さば)きも、相手の力量を認め即座に撤退する動きも知恵あってこそのものだ。

事実、触手1本を奪った時点でエイスフィートは逃亡を(はか)り、2本目の触手を目くらましに姿を消した。

それはどう考えても知恵なくして出来る芸当ではない。

その後もエイスフィートを探したが、記憶と体に異変を感じたナサニエルが王都に戻るまでの間、姿を現す事はなかった。

(狩り損ねたのが悔やまれる……)

そんなこんなで、不完全燃焼ながらもナサニエルはエイスフィートの魔石を入手した。

切り落とした触手からは綺麗な状態のものが取り出せたが、(おとり)に使われた触手からはほんの小さな欠片しか取れず、その屑石(くずいし)を先日ナレルに渡したのである。

正確な相場は不明だが、あの屑石一つで豪邸(ごうてい)が買えるのは間違いないだろう。

(げん)に騎士団が持ち帰った魔石を勝ち取ったクロウリア公爵家も、騎士団への褒賞として宿舎と修練場の改築および増築を申し出た程だった。

そんなものを市場に流せるわけもなく、長らく棚の中で腐らせていたというわけだ。

残る一つはいざという時のために大切に保管しておく予定だった。

「――悪いが、そろそろ時間だ」

「お忙しい中、私めのようなものに貴重なお時間を下さりありがとうございます」

並列思考で思い出に(ひた)りながらも、ナサニエルはにこやかにナレルと魔石について会話を続けていたのだがそれも終わりだ。

この(あと)、直属の上司であるデルホークからの呼び出しがあるらしい。

『大地の国アズロ』の軍事を担うのが三公(さんこう)にして地の(つるぎ)であるデルホーク公爵家だ。

さしずめバロッドは軍事補佐といったところだろうか。

王族の護衛の他、諸外国への牽制(けんせい)やヨナへの対策を担当するだけに、魔具や魔石への興味が強いという事だろう。

(ついでに言えば、ナレル侯爵は多少胡散臭いくらいの自分に利をもたらす仕事の出来る人間が好きだ)

()(へつら)うような相手はかえって信頼出来ないというのがナレルの持論だ。

相手の望む姿を演じきったナサニエルは、満足気に頭を下げる。

「それでは、またご縁がありましたら。今後もどうぞミオン一門をよろしくお願い致します」

「縁があればな。そうだ、最後に一つ耳に入れておけ」

立ち上がったナサニエルをナレルが引き留める。

「最近、隣国の連中が魔石や魔具の収集に手を回しているそうだ。このところ国境沿いで多発している窃盗事件に関与しているという噂もある。王都にまで手を伸ばすとは考え(にく)いが念のため気を回しておけ」

「ご忠告痛み入ります。侯爵様もどうぞお気を付けください」

相変わらず浮かない顔のメイドに案内されナサニエルは客間を後にする。

帰り際、癇癪(かんしゃく)持ちの誰かが騒いでいる声が聞こえたが、使用人たちにとってはいつもの事なのだろう。

誰一人として気にした様子はなく、ナサニエルはどこか憐れんだ気持ちでバロッド邸を後にした。

(俺が仕向けた事だけど、なかなかの荒れようみたいだなぁ)

マルキーノ子爵とボナン男爵の発言も含め、記録の魔具がなくてもカレン夫人の罪は公正に裁かれただろう。

魔具を借りたのは確実な証拠を押さえるのもそうだが、ナレルに恩を売る意味合いの方が強かった。

間接的にナレルを持ち上げる事で、サマルの事件を完全に清算し、今後の関係を良好にする意図(いと)があったのである。

そしてこれはサマル・バロッドへの警告だ。

(シャルル様を傷つけた奴に甘い蜜なんか吸わせるかっての)

学院に入れないのならば、入れないなりの事をすれば良い。

サマルの周りを固め、ゆっくりと自滅に追い込んでやろうとナサニエルは手を回していくのだった。

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