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子猫伯爵の気のままに  作者: yura.
1部-1章.シャルル・ミオンの学院生活①
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◆.Hollow Night

Happy Halloween!

10月31日という事でハロウィンにまつわる〝オレ〟のお話です。

引き続き子猫伯爵をお楽しみください!(2021/10/31)

今日は10月31日、世の中はハロウィン一色だ。

10月に入る前からハロウィン商戦が始まったかと思えば、ちらほらとクリスマス商戦のグッズを出しながらも、盛大にハロウィンという一日を迎えている。

オレが深夜帯にアルバイトとして働く居酒屋『燕屋本舗(つばめやほんぽ)』でもそれは変わらず、ハロウィンにあやかったメニューやお菓子がラインナップに並んでいた。

即座にカボチャの焼き物や煮物などという普段はやらないメニューが出せるのも、個人経営の店ならではといったところか。

アルコールを頼んだ人にはもれなくお菓子がつくプチイベントもやっており、いつにも増して狭い店舗の中は人で(あふ)れていた。

「急に悪いね!でも助かったよ」

「これくらい平気です。まあ、(とめ)さんにはもっと早く言って欲しかったですけど」

パーティーやら仮装やらイベントに参加したい人も多く、今日のシフトはかなりキツキツだったらしい。

かくいうオレもピンチヒッターとして店にやって来たところだ。

本来シフトに入っていた(とめ)さんこと、墨留(すみとめ)さんが突然来られなくなってしまったからである。

普段からやる気が感じられないというべきか、何を考えているか分からない女性ではあるのだが、報連相(ほうれんそう)に関してはしっかりとした人だったはずだ。

それが前日になって急遽(きゅうきょ)休みたいというのだから、よほどの事があったのだろう。

オレとしては金が稼げればそれに越した事はないし、(とめ)さんの事情に首を突っ込む気も毛頭ない。

穴埋めをしてくれるとも連絡があったので、学校終わりのバイトを終えてすぐ『燕屋本舗(つばめやほんぽ)』へと足を運んだのだった。

ちなみに夕方のバイト先はここから徒歩30分の場所にある『KONEKONE(コネコネ)BURGER(バーガー)』だ。

名前のままハンバーガーを扱うチェーン店で、マスコットキャラクターの『コネコン』が好きで応募したお店である。

単に猫が好きなだけとも言えるが、オレのバッグに付いているストラップも『コネコン』だ。

野菜やパテを模したストライプ柄のシャツを着た、頭にゴマを乗せたバンズ色の猫が、中学から使い続けていているスクールバッグにちょっとした華を添えてくれている。

ハロウィンに興味はないが、スマホの壁紙だけはハロウィン仕様の『コネコン』に変えてあった。

「準備出来たならこれ2番テーブルにお願いね!」

和風の制服に着替え、急いで帽子に髪の毛を詰め入れる。

最後に手を洗い、店主の長塚龍臣(ながつかたつおみ)――通称・(たつ)さんが作った料理をテーブルへと運んでいった。

そうして数時間、人の出入りも少なくなってきた頃にオレの勤務時間は終わりを告げる。

「お疲れ!妹さんたちの分もお菓子持ってって良いからね!」

「あざーっす。じゃ、お先失礼します」

てきぱきと帰り支度を整えたオレに(たつ)さんが声をかけてくれる。

(たつ)さんの視線の先にあるのは、プチイベントにも使われていた酒のつまみにもぴったりな小袋だ。

その袋を3つ掴み、オレは店を後にした。

昭和感が(にじ)む昔馴染みの店構えを背に、酔っぱらいが行き交う道を歩いていく。

普段なら千鳥足の連中だけだが、今日はハロウィンというだけあって奇抜な恰好の人や、ゲームやアニメのキャラクターのコスプレをした人たちがあちらこちらに見られた。

缶ビールやチューハイを片手に、店の前や路地の隅で盛り上がっているようだ。

バイト前に制服(ブレザー)から着替えた、無地のパーカーにジーンズという至って普通の恰好がそうさせるのか、オレはどこか冷めた気持ちでイベントに興じる人たちを一瞥(いちべつ)する。

時刻は23時を回り、補導されないためにも足は自然と早くなっていった。

「あ、そうだ――」

バイト中だからと電源を切っていたスマホを付けると、ポン!とメッセージが届いた音が鳴る。

『楽しんでる?』

すいすいっとスマホをなぞると、カボチャを被ったおじさんのスタンプが飛び込んできた。

例の如く親友からのメッセージだ。

『バイトしてた』

『ハロウィンにまで?少しは休みなよ』

『じゃあ誘えよ』

帰り道に佇むコンビニエンスストアに入り、一息を着いたオレは親友にメッセージを送る。

その間にも季節限定のお菓子を物色し、スマホを持つ手にチョコの箱を二つ程抱えた。

一つは寒い時期にのみ販売されるホワイトチョコの詰め合わせで、もう一つはまさにこの季節なサツマイモ味だ。

『来年は誘うよ。誘ってくれても良いんだけどね』

『って事は、そっちも塾?』

『当たり。親が煩くてさ。塾なんて通わなくても勉強くらいするのにね』

お互い大変だな――そう送りレジに進む。

既に3割引きになっているハロウィン用のクッキーとパックのカフェオレを追加し、会計を済ませた。

(さみ)ぃ……」

厚手のパーカーとはいえ、10月末にもなれば風が痛い。

そろそろマフラーや手袋を出すかと思いながら、買ったばかりのカフェオレを開けた。

「温かいのにすりゃ良かったな」

ストローでちびちびとカフェオレを飲んで再び帰路につく。

ついでにお菓子の詰め合わせをもう一つ貰っておけば良かったなと少しだけ後悔する。

オレと妹と母の分で3つ持ち帰ってきたが、折角なのだし親友の分もとって来ておくべきだった。

勉強に忙しい親友への手土産は、先程買った値引きクッキーにしておこう。

レジ袋をかさつかせ、徒歩40分程の道をひた歩く。

自転車があれば楽なのだが、いかんせん徒歩通学のため自転車は持っていない。

同じく高校に通う妹の自転車を借りるわけにも行かず、この40分が長いなといつも思ってしまう。

かといってバスや電車を利用するのも微妙な位置と距離感なのだ。

補助されるとは言っても、そのためだけに2、30分迂回(うかい)するなら、最初から40分歩くというものである。

(割は良いし、事情聞かずに雇ってくれてるから文句言う気もねーけどさ)

(たつ)さんはオレが高校生である事に気が付いているだろう。

それでも遅くまで働かせてくれているのだから、40分のウォーキングなど取るに足らない運動だ。

夜が更けてなお、人と街頭で明るい道を早歩きに歩いていく。

(受験どうすっかなぁ……)

このまま正社員になるのも悪くないなと思うが、それでは妹が納得しないだろう。

妹を大学に行かせるためには、オレ自身が大学に通うのが必須事項だ。

目標はまだまだ遠いが、卒業までに何とか妹の学費くらいはオレが受け持てるようにならなければ。

(へへ、母さんもあいつも驚くだろうな)

二人にはゲームに注ぎ込んでるなどと適当を言っているが、オレだってそこまで身勝手ではない。

オレが高校を卒業する時には、妹に金の事は気にせず好きな大学を選べと言ってやるつもりだ。

「お、兄ちゃん可愛い顔してんなぁ!」

「あっはっは!一緒に呑もうやぁ!」

酒に飲まれた連中が声をかけてくるが無視をして先を急ぐ。

思考を邪魔されたのもあるが、父親ほどの年齢の男たちが家に帰りもせずふらついているのを見るのは気分が悪かった。

(……父親がいたら違ったのかな)

オレは父の顔を知らない。

物心ついた時には母と妹との三人暮らしで、たまに母の祖父母に会う程度だった。

肝心の父はというと、他の女と駆け落ちをした最低なクソ野郎だったらしい。

母もそんな男の話はしたがらず、ただ懸命にオレと妹を育ててくれた。

小さい頃には意味を理解出来ていなかったが、祖父母は口癖のように〝父親に似なくて良かった〟と母に似たオレを可愛がった。

今思えばそれはゾッとする言葉だ。

(別に恨んでなんかないけどさ、責任くらいはとれよな)

顔も名前も知らない男を恨むつもりはない。

ただ一度でも母を愛したのなら、金でも家でも何でも少しくらい手を回せとは思う。

けして貧しい暮らしではなかったが、だからといって裕福だったわけでもない。

自由に使える貯蓄があるのもバイトを掛け持ちする今でこその話だ。

平日は学校が終わり次第バーガーショップで働き、その後は居酒屋でのバイトだ。

休日の多くは稼ぎの良いホテルでの仕事をこなしている。

履歴書にバイトが趣味と書けてしまえそうなオレの生活も全ては学費のためである。

オレと妹のために苦労をした母と、オレのしわ寄せばかり食らってしまった妹への詫びのようなものだった。

(……やっぱ近いとこだよな)

近くて、今のバイトが継続出来て、出来れば2年制で、修学旅行やイベントが少ない追加経費を考えずに済む場所を探そうと、幻影にもなれない父の事を頭から追い出した。

(となると、あいつともあと1年でお別れか)

入れ替わりに思い出した親友は、この辺でも有数の名門校に進学する事だろう。

趣味も学力もてんで合わないのに、何故か気だけは合って一緒にいた相手だ。

高校からの付き合いにも関わらず親友と呼べる仲になっていたが、その付き合いも残り1年とちょっとだけになってしまうのだろう。

もちろん大学進学後も友達のままだとは思う。

互いに忙しくなって、新しい友達が出来て、疎遠(そえん)になってしまうんじゃないかとは思うが、ふとした瞬間に思い出す相手になるような気がした。

(結婚式には呼ばれたい――って早すぎるか)

年上を通り越し熟女が好きな親友は、職場で10歳くらい年上の女性を掴まえそうだ。

その趣味は理解できないが、本人が幸せなら良いだろうと赤くなった鼻をすする。

カフェオレを持つ手はかじかみ、鼻水が垂れて来そうだった。

(げ、ティッシュ切れてんじゃん)

中身のないポケットティッシュの袋にげんなりしつつ、最後には小走りに家を目指す。

そのおかげもあって日付が変わる前に家に辿り着いた。

「ただいまー」

「おかえり。チェーン閉めといてね」

テレビを見ていた母が声だけで反応する。

わざわざ待っていなくて良いと言うのに、律儀(りちぎ)に待ってくれるのがオレの母だ。

「これ、ハロウィンのお菓子。母さんにもあげる」

トリックオアトリートなんて子供じみた事は言わない。

背の低いテーブルに貰ってきたお菓子の一つを置き、オレは部屋へ向かった。

母もキリが良いところだったのか、テレビを消し寝る支度を始める。

「おやすみ母さん」

「おやすみ。あんたも寒くないように寝なさいよ」

オレの家のハロウィンなどこんなものだ。

特筆して語るような事もなく、ただ10月最後の日を過ごすだけだった。

(あー…明日体育あんじゃん。この時期に外はキツイっての)

降ろしたばかりのバッグに体操着を詰め込み、スマホを枕元へ放り投げる。

着替えた服もそのまま脱ぎ散らかし、部屋着用のジャージに着替えたオレはベッドに飛び込んだ。

(忘れる前に壁紙変えとこ)

寝る前にスマホの壁紙を冬仕様の『コネコン』へと変えておく。

防寒具を身に着けまん丸になった姿が可愛らしく、オレはふふっと笑みを溢した。

流石によく見る壁紙を『ラブデス』のイラストにするのは(はばか)られ、無難に『コネコン』にしてしまうのが常だ。

『ラブデス』が少女向け恋愛小説でなければもう少し考えたものだが、オレにも男子高生という体裁(ていさい)があるのでしかたがない。

(もうちょっとで発売だっけか。シフト調整しとかないとな)

『ラブデス』こと『ラブ・デスティニー』はオレが今一番ハマっている小説の事だ。

そして、あと二月(ふたつき)ちょっともすれば待望の第3巻の発売日なのである。

公開された書影のアイリスは美しく、それだけで心躍るものがあった。

オレは来たる『ラブデス』3巻―というと語弊(ごへい)はあるが―だけを楽しみに目を閉じる。

バイトの疲れからか、すんなりと夢の世界へと旅立つ事が出来た。

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