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子猫伯爵の気のままに  作者: yura.
1部-1章.シャルル・ミオンの学院生活①
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▼.シャルル・ミオン

人は皆シャルル・ミオンを可愛がった。

昼夜問わず鮮やかに輝く真っ赤な髪は一目でも見れば忘れる事はない。

クセの強い髪はふわふわと揺れ、見るからに柔らかそうだ。

触れたら消えてしまう砂糖菓子のようでもあり、少しだけ触れるのが躊躇(ためら)われてしまう儚さをも併せ持っている。

金色に輝く瞳は光を放つ宝石だった。

満月をそのまま閉じ込めたような煌めきは見る者を瞬く間に魅了した。

月を取って来いと命じられたならば、皆が皆、シャルルを連れて行った事だろう。

吊り上がった目はいささかキツさが残るが、それもまた猫のようと思えば愛らしい事この上ない。

パッチリと大きな瞳に見つめられて、目を逸らせる者はいなかった。

シャルルはまさしく猫のような容姿をしていた。

自由気ままで誰にも縛られない猫そのものだった。

その癖、笑うと亡き母譲りの優しい表情になる。

ミオン家の現当主でありシャルルの父ラドフォードはそんな息子を大層可愛がった。

愛する妻によく似た、可愛い可愛い末息子。

その父の姿を見て育った兄スコールと姉シルビアも、歳の離れた弟を可愛がる事に何の疑いも持たなかった。

ミオンの家は小さくて可愛いシャルルを中心に回っていた。

シャルルこそが世界の中心だった。

そうして異常なほどの愛を注がれたシャルルは自分が可愛いという事を覚えた。

何を言っても持てはやされると知った。

欲しいものを欲しいだけねだっても怒られないと理解した。


自分が特別である事を享受(きょうじゅ)した。


やがて他人を傷つけても許されると学んだ。

学んでしまったシャルルは平気で相手を傷つけた。

シャルルにとってそれは何て事のない日常だった。



「なあ、カイト」

カイトの膝の上に収まったシャルルが口を開く。

自分よりも一回り以上大きいカイトの膝に座るのもいつもの事だ。

そこはシャルルにだけ許された特等席で、シャルルはカイトの胸に体を預けた。

「あいつ、どうすんの?」

「……ウィルフレッドか。お前が気にする必要はない」

「ん。カイトが言うならそうする」

気にしなくて良いと言われ、シャルルは外に向けていた視線をはずす。

窓の向こうに広がる光景はお世辞にも気持ちの良いものではなかった。

「手を挙げたらどうなるか分かってるんだろうな?」

「キャハハ!イモムシみたーい!」

「ほら、悔しかったらここまで這っておいでよ」

甲高い笑い声が学院の2階にあるサロンの中にまで届く。

もはやいつもの事ではあったが、カイトに連れ添う貴族派が徒党を組んで一人の相手を笑い者にしていた。

嘲笑(ちょうしょう)の的となる少年は何も言い返さず、ただじっと彼らの暇つぶしが終わるのを待っている。

最初の頃は反論の声も聞こえたが、度重なる暴行にそれが無駄である事に気が付いたのだろう。

体格の良い少年は、意地でも反応を示さないと言わんばかりに、その顔から表情を消している。

そんな醜悪(しゅうあく)な光景を隠すように、カイトの手が柔らかな赤毛を撫でた。

家族に可愛がられて育ったシャルルだ。

当然のようにそれを受け入れるわけだが、そのせいで猫みたいだと笑われる事もしばしばだった。

(そういやウィルフレッドも猫がどうとか言ってたな)

シャルルがハンスに出会ったのは神学院(アーク・マナリア)に入ってすぐの事だ。

以前から仲の良いカイトの隣に座るシャルルに、緊張とも興奮ともつかぬ熱意をもって声をかけてきたのが今まさに(しいた)げられているハンス・ウィルフレッドだった。

庶民だという彼は礼節というものを知らなかったらしい。

あるいはそれだけシャルルに近づきたかったのか、シャルルの返事も待たずに口を開いたかと思えば一方的な熱量をぶつけたのだった。

ハンスの思いとは裏腹に、その熱意はシャルルを(おび)えさせるには十分過ぎるものがあった。

これでもかと丁重に扱われてきたシャルルにとって、ハンスの情熱はあまりに激しく、恐ろしいものにしか見えなかったのだ。

結果、ハンスはカイトの不興を買う事となる。

サマルやオズウェルの玩具(おもちゃ)にされようと、カイトは見て見ぬフリを続けるのだった。

そしてまたシャルルもハンスが何をされようと気にも留めなかった。

(まあ、どうでも良いか。あいつ怖いしな)

シャルルにとって怖い人間は嫌な人間だ。

何よりもカイトが良いと言うのだから問題はない。

むやみやたらに人を傷つけないカイトが許すのならば、そこに間違いはないはずだ。

シャルルは深く考えずにカイトの膝の上に沈んでいく。

答えの決まっている学問なんかよりも、人間関係の方がよほど難儀なものだ。

その面倒は自分が負うべき事ではないのだと、シャルルはすっぽりと収まったカイトの上で欠伸を(こぼ)すのだった。

「ミオン、そこを降りるんだ」

そのまま寝てしまおうかと思った矢先、嫌な声が響く。

シャルルは顔を(しか)め、サロンに顔を出したサマルに向け唇を尖らせた。

「さてはバロッド、羨ましいんだろ?」

「はあ?君と一緒にしないで欲しいのだけどね。そもそもカイト様が許したからと――」

御託(ごたく)は良い。何の用だ?」

バチバチと火花を飛ばし始めたシャルルとサマルの間にカイトが割って入る。

サマルはギリ…と奥歯を噛み締め、(うやうや)しく頭を下げた。

「レディ・ゴールドが教室にてお待ちです」

「分かった。すぐに行くと伝えろ」

「……かしこまりました」

来て早々追い返される事になったサマルは不機嫌そうに部屋を出る。

物言いたげにシャルルを睨み、最後には何も言わず鼻を鳴らしていった。

「へっ、むかつく顔しやがって!」

「あまり言ってやるな」

「分かってるけどさ、バロッドの奴に好き放題させておいて良いのかよ?」

「あれでも利用価値はあるからな。まあ、所詮は代用品(スペア)だが」

サマルがいなくなった場所を見つめ、カイトは笑みを(こぼ)した。

その言葉の通りサマルはバロッド侯爵家の次男で、生まれついて病弱だった長子ミハエルに万一があっても良いようにと(もう)けられたのがサマルなのだそうだ。

サマルが本当に優秀だったなら問題なく家を継げただろうが、()()くはミハエルが家督(かとく)を継ぐ事が決まっている。

いつまでも自分の力を過信し当たり散らす様は、シャルルから見ても無様なものだった。

代用品(スペア)揶揄(やゆ)されるのも当然の事だろう。

「シャルル、悪いが俺は行く。お前はどうする?」

「んー…カイトがいなきゃつまんないし帰る」

「そうか。見送ってやれないが、気を付けて帰るようにな」

「……カイトまで過保護になんなくて良いんだけど?」

カイトに促され、シャルルは飛び降りる。

いまだハンスを馬鹿にする声が聞こえていたが、それを無視して二人はサロンを後にした。

(よくもまあ飽きないよな)

ハンスを虐げるサマルたちも、梃子でも自分の意思を曲げないハンスもどっちもどっちだ。

興味のないシャルルは、カイトと別れるや否や、寄り道せずに馬車へと乗り込んだ。


――そんな日々が続き、どれくらい経っただろうか。


肌寒くなって来たというのに、サマルが庭園へと皆を呼び出した。

カイトとシャルルが先んじて庭園に向かうと、見せたいものがあると言って、サマルが四角いものを運び込む。

真っ黒な布が被せられたそれは両手で抱える程の大きさで、なかなかに重そうだ。

「まずはこれをご覧ください」

にたりと気味悪く笑ってサマルが布をはぎ取った。

巻き起こった風によって嫌な匂いが散乱し、鼻が曲がりそうになる。

ツンと鼻をつく刺激臭に顔を(しか)めるシャルルの目に入ったのは――檻の中で横たわる猫だった。

「おえっ……」

微動だにしない薄紫色の猫に、匂いの正体を察してしまう。

胃の中のものが逆流しかけ、シャルルは口を(おお)った。

カイトも眉を(ひそ)め、すぐさま檻を隠すようにシャルルの前に立つ。

「……これが見せたいものだと言うのか?」

「いえ、本当に見せたいものはこの後です」

言いながらサマルが布で檻を包む。

広がっていた死臭も少しは薄れたが、胸に生じた不快感は簡単に消えてくれない。

シャルルはぎゅっとカイトの服を掴んだ。

(あの猫…庭園にいた……)

あの薄紫の体には覚えがあった。

学院の庭園に住み着いてしまったらしく、何かとシャルルの足元にすり寄って来ていた猫だ。

変わり果てたその姿に、シャルルは再び嗚咽(おえつ)を漏らしそうになる。

必死に(こら)えるシャルルをよそに、サマルは嬉々として語り出した。

「ウィルフレッドが可愛がっていた猫です。これを見せつければウィルフレッドの奴も少しは自分の立場を覚える事でしょう」

恍惚(こうこつ)と笑うサマルに覚えるのは寒気だけだ。

カイトも思うところがあるのか、その顔に笑みはない。

「……オレ、帰って良い?」

「面白いのはここからだと言っただろう?勝手に帰ろうなんて許さないからな、ミオン」

帰ろうとするシャルルだったがサマルがそれを阻む。

その間にもルーカスを始めとする貴族派たちが集まり、最後にオズウェルがハンスを引きずってやって来た。

抵抗する気もないのか、ハンスはされるがままサマルの前へと転がされる。

地面に倒れ、泥にまみれようとハンスは声を上げなかった。

「その余裕がどこまで続くか見せて貰おうじゃないか」

ハンスを見下ろし、サマルが口角を持ち上げる。

逃げるタイミングを失ったシャルルは、気が気じゃないままカイトへとへばりついた。

「いやー、無様だねぇ。それでバロッド様、見せたいものというのは?」

事態を知らないメイナードが目を細めてサマルに胡麻をする。

サマルは待ってましたと言わんばかりに、ハンスの前に例の檻を突き出した。

「ウィルフレッド。今日はお前のために良いものを用意したんだ」

「…………」

「フン、無視か。だがこれを見ればお前も黙ってはいられないだろうね」

気味が悪いくらい口を吊り上げ、サマルは布をはぎ取った。

目の前に飛び込んできた物体にハンスもその目を大きく開く。

「な……んで………」

鼻をつまみたくなるような死臭が風に乗って広がっていく。

鉄の檻に閉じ込められた猫は頭をもたげ、血の気のない青白い体を横たえていた。

硬直すら解けたのか、重力に従った肉がべったりと檻の底にくっついている。

その凄惨(せいさん)な姿を直視できず、シャルルはバッと目を逸らした。

オズウェルたちでさえ困惑を隠し切れず、何も言わずにサマルの様子を伺っている。

「どうした、ウィルフレッド。そんなに大事なら抱きしめてやったらどうだ?」

自分に向けられている視線の意味にも気づかず、サマルは声高らかに笑う。

そして亡骸(なきがら)が入ったままの檻を蹴飛ばした。

ガシャンと耳障りな金属音が響き、鍵の開いていた檻から薄紫の塊が転がり出た。

「…………あ…ああ」

押さえつけるオズウェルを振りほどき、ハンスがそっと躯を抱きしめる。

顔を合わす度に爪を立てていた小生意気な姿はもうどこにもない。

ただ肉の塊と化したものが腕の中に収まっていた。

「く…ははは!本当に抱きしめるとはな!そんな生ゴミ、よく触れるものだな!ああ、そうだ。庶民らしくその生ゴミを食べたらどうだ?お前たちは普段からゴミを食べてるんだろう?」

猫の死を(いた)むハンスをサマルがなおも嘲笑(ちょうしょう)する。

絶えぬ嘲りにハンスは体を震わせ――

「さっさと口を開けろ。お前の大好物なん――ぐべっ!!??」

サマルの顔面に拳を叩き込んだ。

血管が浮かぶほど握りしめられた拳がサマルの鼻っ面(はなっつら)を殴り、さして高くもない鼻を()じ曲げる。

「カイト、やばいって……!」

「チッ、バロッドめ。余計な事をしてくれたな」

突如鳴り響いた鈍い音に、シャルルが一歩後ずさる。

地面へと叩きつけられたサマルが視界に映り、咄嗟(とっさ)(すが)っていたカイトの腕を引いた。

怯えるシャルルの手を掴み、カイトもその場から走り出す。

学院へ向かう二人の後方では、力に自慢のある顔ぶれがハンスへと挑んでいった。

「返り討ちにしてやる!!」

「これ以上貴様の好きにさせてたまるものか…!!」

オズウェルと顔を押さえるサマルがハンスの前に立ちはだかる。

脂肪だけでなく筋肉の詰まった自慢の肉体がハンスを迎え撃ち、その突進をせき止めた。

「このまま押しつぶしてやる!!」

地面を(くぼ)ませながらも、オズウェルはじりじりとハンスを押し返していく。

その横でサマルの体が音を立てて変貌(へんぼう)していった。

長く伸びた腕がハンスに振り下ろされ――しかしその腕の餌食(えじき)になったのはオズウェルだった。

「何しやがるっ!!?」

「違う!!私じゃない!!」

オズウェルの巨体を盾にしたハンスがサマルへと距離を詰める。

よろめいたオズウェルを玉のように転がし、腕だけを不気味に変容させたサマルへと手を伸ばした。

「っ!!?」

サマルを掴む寸前、ハンスの体がグンッと後ろに引っ張られる。

真っ黒な二つの影がハンスの服を思いっきり後ろへと引き、その動きを止めていた。

「邪魔を…!!するな…!!!」

しかし二つの影はあっさりと振り落とされ、地面へと叩きつけられた。

地面を転がった影は霧散し、影の主であるラケルとロシェルの鼻からも血が垂れる。

「…っ…!!ロシェル!?」

「ラケルも!!」

それが加護(アーク)のもたらす負荷とも気づかず、二人はそっくりの顔を見合わせた。

訳も分からず鼻血を流す双子に、ふっと暗い影が差す。

「え、待――」

頭上には投げ飛ばされたサマルの姿。

逃げる事はおろか再び加護(アーク)を使う事も出来ず、二人は巨体と化したサマルに押し潰された。

「きゃう!!!」

「ひゃん!!!」

小柄な二人はその場で目を回す。

仲良く倒れ伏した二人の上では、サマルがよろよろと体を起こした。

「クソ…!!こんなはずでは……!!」

立ち上がるサマルに再びハンスの足が迫り――

「なっ…ウィルフ、ぐぁ!!?ひぎっ、あああぁぁあっ!!!」

サマルは何度となくその拳を叩きこまれた。

醜い絶叫が響き、見るも無残な顔になったサマルが地面に投げ捨てられる。

「あ…ああ……、そんな馬鹿な……」

あまりにも一方的な暴力を前に、オズウェルは立ち上がる事も出来なかった。

脂汗を全身から(あふ)れさせ、ガクガクとその場に座り込む。

しかしハンスは容赦なくその腹を殴った。

「おごぉっ!!??」

腹がへこむほど強烈な一撃を見舞われ、オズウェルは白目を()く。

戦意を喪失してようがいまいが、ハンスにはもうそんな事はどうだって良い事だった。

「………逃がすものか」

勇敢にも――あるいは無謀にもハンスに立ち向かった者は皆倒れ伏した。

逃げようとした者も全員同じ末路を辿り、残るはカイトだけだ。

シャルルを連れて走るカイトを双眸に映し、ハンスは返り血に濡れた足を踏みしめる。

「カイト様!!」

カイトと共にその場を離れたルーカスがハンスの前に踊り出る。

瞬く間に距離を詰めたハンスの拳を真正面から受け止め、最後の壁として立ち塞がった。

「早くお逃げくだ――ぐっ!!?」

右頬を殴られ鈍い声を漏らす。

それでも倒れる事はせず、ルーカスは一人ハンスの拳を受け続ける。

「チッ、化物め」

「カ、カイト…オレ……」

ボロボロと涙を(こぼ)すシャルルを抱え上げ、カイトは後ろ髪を引かれる思いで走り続ける。

あの様子ではルーカスが倒れるのも時間の問題だろう。

(せめてシャルルだけでも――)

学院の中にさえ入れば状況は一変するはずなのに、その数mがいやに遠い。

庭園を疾走しながら、カイトはシャルルが息を呑む声を聞いた。

直後、ハンスの手がカイトを捉える

「カイト様…!!危ない…っ…!!」

蹴り飛ばされたルーカスが叫ぶが時すでに遅く、カイトは地面に叩きつけられた。

「ぐぅ!!」

「んみっ!!?」

その拍子にシャルルも地面を転げ、その顔を泥で汚していく。

「カイ――」

名前を呼ぼうとしてシャルルは言葉を失った。

鬼の形相としか言えないハンスの顔が見えたかと思えば、カイトが殴られる光景が繰り広げられる。

「ひ、あ……あぁ………」

血飛沫が上がり、ハンスの顔を染めていく。

血管が浮かぶ顔も、爛々(らんらん)と輝く瞳も、血に染まった姿も全部が(おぞ)ましかった。

「カイト様…!!」

地面にへたりこんだシャルルの前で、ルーカスがハンスへと食らいつく。

それを容易(たやす)く弾き飛ばし、ハンスはこれまでの鬱憤(うっぷん)とでも言うように何度もカイトに拳を振るった。

「ミオン様だけでも…逃げ……」

地面を転がったルーカスが掠れた声で言う。

その言葉を最後に動かなくなり、ただ一人残されたシャルルは大粒の涙を(こぼ)し続けた。

「ひっ…何で、こんな……」

ヨナなんて知らないシャルルにとって、それは地獄のような光景だった。

頭が真っ白になり指一本動かす事も出来ない。

ただ怖くて恐ろしくて気持ち悪くてしかたがなかった。

顔を真っ青にして震えるシャルルが愕然(がくぜん)と見つめる先、ゲホ…とカイトが血を吐き出す。

「あ、や…!!やめろ……!!」

それを見たシャルルは考えるよりも先に飛び出した。

転びながらも、全身傷だらけのカイトに覆いかぶさり、精一杯の虚勢(きょせい)でハンスを睨む。

ガチガチと歯が鳴って、体も震えていたが友を見捨てる事だけは出来なかった。

「お前も邪魔をするのか……」

怒りに満ちた青がシャルルを見下ろした。

そして、感情に任せたままの拳がシャルルを襲う。

(なんで、お前が泣きそうな顔してんだよ)

殴られる瞬間、泣きそうに(ゆが)むハンスの顔が見えた。

その意味を知る事もなく、シャルルもまた死屍累々(ししるいるい)の中へと沈んでいく。


結局、怖いという第一印象に始まり――それが払拭(ふっしょく)される事はなかった。

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