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子猫伯爵の気のままに  作者: yura.
1部-1章.シャルル・ミオンの学院生活①
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30.子猫伯爵と答えあわせ

へろへろと広間へ戻ると、次の生徒が拝殿へと呼ばれていく。

現地解散のため残っている生徒は最初の半分ほどだろうか。

オレの危惧(きぐ)するカイトやサマルもとっくの昔に帰宅済みのため、何の警戒も恐怖もなく席へと戻った。

「シャルル、どうだった?」

戻ってきたオレに気づき、ハンスが立ち上がって迎えてくれる。

ユージーンたちもこちらを見て興味深そうに瞳を輝かせた。

「やっぱり地の加護?何か変なことやったりした?」

「それが海だってさ」

「え、意外!?家の人みんな地なんだよね!?」

「エルデルバルト様も一つの指標だって言ってたし、そんな事もあるんじゃね?」

ユージーンの質問を適当にいなし、ドカッと椅子に腰かける。

同じように腰を落ち着けたハンスも珍しく驚いた顔をしていた。

「……海、か。いや、先にお祝いだな。おめでとう、シャルル」

「サンキュ。どうせなら空のが良かったけどな」

へへっと笑うと、ハンスもつられて笑ってくれた。

(やっぱ似てんな)

優しい色を宿した青い瞳に、拝殿で見た光を重ね見る。

北極にも南極にも行った事はないが、氷の海を目の当りにしたらきっとこんな色なのだろう。

「海ってことは傷を治せるんだっけ?これからは怪我したらシャルルに見てもらえばいーのか」

滅多(めった)な事を言うものじゃないわよ」

「そうそう。それに怪我する前提なのは良くないと思うな」

オレが海の加護になったという話を聞いてレフとアンナもそわそわとしている。

ハンスでさえ少し浮足立ったように見えるのは、自分の(ばん)が近づいてきたと感じての事だろう。

一足先に加護(アーク)を授かったオレは、四人の様子を微笑ましく見守る事にした。


「――アーチボルト男爵家御令息、ユージン・アーチボルト様」


オレからしばらく経った頃、ユージーンの名が礼拝堂に響き渡る。

「行ってくるね」

「ん、気付けてな」

気を付ける事など特にない気もするが、ハンスたちと一緒にユージーンを見送って腕を振る。

ついでに見渡した広間は、随分と閑散(かんさん)とした様子に変わっていた。

子爵家の生徒までが終わり、ほとんどの生徒は帰ってしまったようである。

オレのように人を待っている方が極々(ごくごく)僅かだった。

(男爵家の生徒は10人ちょっとだっけか?)

ユージーンの名も男爵家の中ではかなり後半に呼ばれたのではないだろうか。

庶民の総数は少ない事からいっても、この後はとんとん拍子に進むはず。

ハンスたちが『知啓の祝福』を終えるまであと少しと言ったところだろう。

ほどなくしてユージーンがオレたちの元へと戻ってくる。

「ジン!どうだった!?」

「予想通り空だったよ。(きり)を発生させられるみたい」

「霧ですか。森の妖精さんみたいですね」

にこにこと笑ってレフたちと話に花を咲かすユージーン。

オレの水を操る力という予想とは違い、ユージーンが得たのは霧を発生させる力だったようだ。

「シャルル、難しい顔になってるよ?」

「予想と違ったからつい。水だと思ったんだけど霧かぁ」

「広義で言えば霧も水だ。落ち込む事はない」

ハンスがフォローしてくれるが、かえって虚しくなるからやめて欲しい。

そういう屁理屈(へりくつ)は自分で言うから良いのであって、人に言われると途端に恥ずかしくなるものだ。

そこから十数分が経ち、ようやく庶民の番が回ってきた。


「――ロゼット商会御令息、ハンス・ウィルフレッド様」


(つい)にハンスの名が呼ばれ、ハンスは一人拝殿へと向かっていった。

ハンスの名義はロゼット商会になるらしい。

たしかに先に呼ばれた二人も、本人に爵位がないとはいえ準男爵として呼ばれていた記憶がある。

ハンスが戻ってきた後も二人の生徒の名前が呼ばれ、その次にレフが拝殿へと呼ばれていった。

「――ベレジュナーヤ様」

そして最後の最後になってようやくアンナの名前が礼拝堂の中に響いた。

「行ってくるわ」

「おー、そう緊張しなくて大丈夫だったぞ」

入れ替わりに戻ってきたレフがアンナに声をかける。

そして、数分も経たずにアンナはオレたちの元へと帰ってきた。

ほんのり上気した(ほほ)を見るに、アンナ自身が望んだ空の加護だったのではないだろうか。

可愛いらしい姿に思わずにっこりしてしまう。

「――もう遅いし話は馬車でにしようぜ」

神殿に残っている生徒はオレたちだけだ。

ハンスの加護(アーク)も含め積もる話は山ほどだが、まずは帰るのが先決だろう。

引率で来ていた教師に挨拶を終え、オレたちは数刻ぶりに外の空気を肺いっぱいに取り込んだ。

「本日はご足労ありがとうございました。皆様のこれからの営みに女神様の尊き慈悲がある事を願っております」

終わりに入口まで案内してくれた司祭が頭を下げる。

胸の前に作られた三角がオレたちを見送っていた。

「女神様の御慈悲に感謝致します」

オレたちも司祭に(なら)い三角形を形作る。

これをもってオレたちの『知啓(ちけい)の祝福』は全行程(ぜんこうてい)を終える事となった。


――だが帰るまでが遠足である。

執事クリスティアンの待つ馬車に乗り込んだオレたちが目指すのは学院だ。

学院寮(がくいんりょう)で暮らすユージーンたちを送り届け、ハンスを見送るのが次なるオレのミッションである。

「それでは出発致します」

迅速(じんそく)かつ丁寧にオレたちを馬車に乗せたクリスティアンが(ほが)らかに笑う。

バタン――と馬車の扉が閉じられると、すぐ後に四頭の馬が足並みを揃えて走り出した。

時刻は16時を回っていたが、この見渡す限りの白銀の世界のせいなのだろう。

窓から見上げた空はまだ明るく、行きと同じようにずっと先までを見通す事が出来た。

とはいえ今の本命はこれではない。

景色を楽しむのを早々に切り上げ、オレは正面に座ったアンナへと顔を向ける。

「――アンナはやっぱり空の加護?」

「はい、そうです。大地の力を操れると言われました」

開口一番に尋ねると、アンナはどこか照れ臭そうにはにかんだ。

「良かったじゃん!」

「ありがとうございます。ふふっ、後で見せてあげますね」

よほど空の加護になったのが嬉しいのだろう。

冷たい感じがまったくないどころか、小さな口を綻ばして約束してくれた。

そんなアンナにレフも気分が良いようだ。

長時間の移動や待機を経てもまるで疲れを見せないレフは、元気よく拳を振り上げている。

「ベレジュナーヤにぴったりの加護(アーク)だな!」

「そういうテウルゲネフはどうなのよ」

「オレも空の加護だぞ。風を巻き起こせるんだ、カッコイイだろ!」

自慢げに胸をはるレフ。

対するアンナは〝私の加護(アーク)の方がかっこいいわ〟と鼻を鳴らした。

なんとも幼馴染らしいやり取りにほっこりしつつ、オレは予想が外れた事にほんの少し肩を落とす。

オレの予想とは大きく外れ、レフは風を操る空の加護を得たようだ。

地の加護だとばかり思っていたせいもあってかなり意外だ。

(広義で言えば……うん)

ユージーンに対する水のイメージも、レフに対するすばしっこそうというイメージもけして間違っていたわけではない――と思う。

しかし自分で屁理屈をこねたところで虚しい事に変わりはない。

アンナに関しては空の加護であって欲しいとしか思っていなかったわけだし、オレの予想は大敗に終わったとみて良いだろう。

(自分の加護(アーク)すら当てられないのに、人の加護(アーク)を当てられるわけないか)

前向き――否、投げやりになったオレをよそに、いまだ興奮した様子のアンナがハンスに目を向けた。

加護や魔法といった不思議な力に興味があるのだろう。

キラキラと輝く瞳が眼鏡の奥から覗いている。

「ウィルフレッドさんはどうでしたか?」

熱の(こも)った問いに、ハンスはチラリとアンナを一瞥(いちべつ)し、すぐに視線を外す。

「……空の加護だ。氷を作り出す事が出来るそうだ」

ハンスはやはり氷の力を得たようだ。

『ラブデス』通りの展開にオレは心の底からほっとする。

アイリスに会うにあたって原作と違う要素が増え過ぎるのは、あまり良い事ではないだろう。

安堵から微笑んだオレとは逆にユージーンたちは目を丸くする。

「え!?ハンスも空の加護なんだね!?」

「悪いか?」

「意外だなって思っただけだよ。地の加護だと思ったのになぁ」

ユージーンがぼやくと、その右隣に座っていたレフとアンナも頷いた。

うんうんと頷き合う三人にハンスはどこか不服そうだ。

もっとも脳筋扱いされてるとなればそういう顔にもなるか。


――しかしだ。

「つーか何?みんな空の加護なの?」

圧倒的なまでの空の加護(りつ)にオレは眉を(ひそ)めた。


一応とはいえ地が6割、空が3割、海が1割というのが一般的な比率のはずだ。

五人もいて空8割、海2割という結果はどういう事なのだろうか。

ハンスが空の加護になる事は最初から分かっていたが、それでも全員が空の加護になるなんてそんなの聞いていない。

(オレだけハブじゃん)

正直に言って羨ましい。

どうせ低い確率を引くならオレだって空の加護が良かった。

「その、すまない。交換できるなら交換してやりたいが……」

唇を尖らせたオレに気が付いたのか、ハンスが申し訳なさそうに眉を下げる。

「べ、別に羨ましいとか思ってねーし!?」

こんな事でまで気を遣われると、自分が子供みたいで恥ずかしくなる。

思わずハンスの(ひざ)をペチペチと叩くが、ハンスはされるがままだ。

本気でやってないとはいえ、オレの非力な攻撃など1ダメージにもならないという事だろう。

なおもペチペチ叩き続ける――それこそ子供なオレの行動をユージーンたちは笑って見つめていた。


そうして食べたり飲んだり喋ったりして数時間――。

学院に着いたのは、日が落ち切り空一面が暗くなってからだった。

「今日は本当にありがとうございました」

「ありがとなー!」

先に馬車を降りたアンナとレフがこちらを振り返る。

あっけらかんと笑うレフの頭を押さえつけながら、アンナは深々と頭を下げていた。

毎度あの調子だと、ただでさえ小柄なレフが縮んでしまわないか心配だ。

「ありがとう、シャルル。このお礼はそのうちさせてもらうよ」

ユージーンも馬車を降りオレへと手を振ってくれる。

「ハンスもここで良いのか?もう遅いし途中まで送ってくけど」

「ああ、ここで構わない」

「お前が言うなら無理強いはしないけどさ、無茶だけはすんなよ?」

そして最後にハンスが馬車を降りる。

送っていくという申し出は断られ、広い馬車にオレだけが残される形になった。

「改めておめでとう、シャルル」

降り際、ハンスの手がオレの頭を撫でた。

「お前が海の加護を授かったのには、きっと意味があると思う。あまり不貞腐(ふてくさ)れないでくれ」

「だと良いけどな。ハンスもおめでとな」

この優しさに(ほだ)されている自覚がない事もないが、オレはオレに優しい人が好きなのだから、こればかりはどうしようもない。

ハンスの大きな手が髪をさらう感触に身を寄せ、ハンスとも別れを告げた。

「おやすみ、シャルル」

「ん。お前もな」

そうしてオレ一人を乗せた馬車が走り出した。

「ふわ…あ……」

広い馬車に一人きりという静寂がそうさせるのか、忘れていた眠気がどっと押し寄せてくる。

オレは家までの道を眠って過ごす事にした。

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