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子猫伯爵の気のままに  作者: yura.
OP.シャルル・ミオンの長い一日
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2.子猫伯爵と生存計画

オレの目標は1つ。

小説の〝シャルル・ミオン〟よろしくハンスに殴られない事だ。


情けない話だがオレは痛いのが大の苦手だ。

痛い話を聞く事さえ嫌だ。

血を見るだけで気分が悪くなるし、医療もののドラマや漫画も見れた試しがない。

妹と軽く叩き合うのが関の山で、殴り合いにも喧嘩(ケンカ)にも無縁だった。

注射なんてもってのほかだ。

あの太さの針を体に刺そうというのだから正気の沙汰じゃない。

鋭く尖った注射針を見るだけで体がすくむし、予防接種の度に顔色を心配されるレベルだった。


そんなオレが、いずれ薄気味悪い魔物『ヨナ』を蹴散(けち)らす事になるハンスの拳に耐えられるだろうか?

――否、耐えられるわけがない。


作中では全治数か月と言われていたが、実際には再起不能の間違いだろう。

1対多数の状況で全員を医者送りにするハンスの拳が生易しいとは到底思えなかった。

女神を(あが)める神殿に行けば傷を治してもらえるのだが、それでも殴られた瞬間の激痛と記憶が消える事はないのだし、殴られないように生きるのが最適解(さいてきかい)のはずだ。

何よりオレは〝悪役令息シャルル・ミオン〟として生きたくない。

カイト・デルホークの顔色を(うかが)ってゴマをするのも、ハンスに殴られて死ぬほど痛い思いをするのも、自業自得とはいえ世間的に死ぬのも、一生ハンスに怯え続けるのも絶対にゴメンだ。


だからといって聖人になりたいかと問われると、そんな事はない。

平等を(うた)気概(きがい)も、どんな相手にも手を差し伸べる博愛精神も、嘘をつかない潔白さも、ろくに持ち合わせてなんかいないのだ。

嫌いな相手にまで優しくする義理だってないだろう。

ずっと遠くに暮らす顔も名前も知らない赤の他人に尽くす事だって出来ないし、嘘を()くなという方が難しい。

物語の主役なら違ったかもしれないが、所詮(しょせん)オレはただのモブ。

どうあっても我が身が可愛いのだ。

分かりやすいチート能力もなければ、この世界で脚光(きゃっこう)を浴びられるような知識や技術もない。

歴史に名を残す偉業を建てられるとも思えないし、背伸びをするだけ無駄だろう。

今以上の贅沢も思い浮かばないのだし、後ろめたい事なくのんびり暮らすのが1番に決まっている。

家族にも恵まれ、お金にも住む場所にも一生困る事はなさそうだ。

事業を始めたいと言えば手を貸してくれるだろうし、次男坊として領地を出る事になったとしても、それはきっと変わらないだろう。

シャルルへの溺愛(できあい)ぶりが異常なだけで、現当主である父も、後継ぎの兄も非常に優秀な人なのだ。

いきなり家が傾く心配だってない。

不幸中の幸い、名もなきモブとして生きるには有り余る程のものをオレは持っているのである。


では何故オレが危険を(おか)してまで学院に来ているのか。

答えは簡単だ。


オレだって魔法が使いたい!

『ラブデス』ファンとして物語の舞台クーラ・アースの事をもっと知りたい!

関わらないとは言ったが、少しくらいハンスの動向を見守りたい!

あわよくばヒロイン〝アイリス・ティタ〟を生で拝みたい!!


――わけだ。

目標〝ハンスに殴られない〟はハンスに関わらない時点でクリアしたも同然だろうし、胃痛さえ我慢(ガマン)すればどうとでもなるはずだ。

喧嘩(ケンカ)でも何でもオレには関係ないところでやってくれればそれで良い。

モブとして生きると決めた、そうでなくても端役(はやく)のシャルルに影響力なんてものはないはずだ。

是が非でも安泰(あんたい)な生活の中で『ラブデス』の物語を見守らせてくれ。

薄情と言われようと、オレは聖人君子ではない。

オレはオレの人生を生きるだけだ。




――そう思っていたのに、どうしてこうなった。

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