79.子猫伯爵と海望む王女
名前の部分は読み飛ばしても大丈夫です
「私には皆さんを守る義務があります。生徒同士でしか分かり合えない事もあるとは思いますが、だからこそ大人であり教師である私が介入しないで済むよう、問題など起こさぬよう授業に取り組んでくれる事を願います」
目を光らせるトラスティーナ教授の言葉を生徒たちは静かに聞き入れる。
ごく普通の事を言っているだけのはずなのに、教授が言うとまるで重みが違って聞こえるのだから不思議なものだ。
かくいうオレも新学期早々に粗相をしないようにと気を引き締める。
(教授はちゃんと仕事しそうだよな)
無表情なままのトラスティーナ教授をちらりと見つめる。
昨年の主任は生徒に興味がないようで、HRが行われないこの学院では行事の時くらいにしか顔を拝む事がなかったのだ。
名前はたしかスターチス・フォン・トールポッドだったか。
神学を教えるグレイトフル・フォン・ケンネルと同じく学士号を持つ優秀な人ではあるのだが、極端な人嫌いで用事があってやっと顔を出すような人だった。
1学年には専攻がない天文学の教師だった事もあるだろう。
昼食の時間に会うような事もなく、主任のはずなのに顔を合わせたのは指折り数える程だ。
そんな思い入れも何もない相手から一転、今年の主任はキース・ヴァン・トラスティーナ騎士爵へと変更となった。
これが『ラブデス』と違う展開かは分からないが、ハンスにとって悪い事ではないだろう。
ハンスの師匠となるだけあって、トラスティーナ教授はあれで面倒見が良いのである。
不愛想な態度にはまだ慣れないものの、ハンスの味方になってくれる人が主任となってくれたのはオレとしても嬉しい限りだった。
その教授がやはり無表情に口を開く。
「挨拶はこの程度にして……既にご存じかと思いますが、交流学生として『海望の国スキラ』の第四王女ジュリアナ・ラ・スキラ様がこのクラスにいらっしゃいます。学院の理念としては平等を謳ってはいますが、王女殿下はあくまで留学生でありその限りではありません。皆さん失礼のないよう、そして学院の模範となるよう王女殿下を迎えてください」
トラスティーナ教授の口から語られたのは、まだ姿を見せていないジュリアナの事だった。
不安に身を固くするオレをよそに、ジュリアナの登場を待ち侘びる生徒たちは浮足立っている。
興奮や好奇といった黄色い空気が教室を包み、瞬く間の内に王女を歓迎するムードが出来上がっていた。
(ハンスの機嫌はとれ……てない気もするけど、大丈夫だよな)
右隣に座るハンスの顔は教室の空気に反し険しいままだ。
カイトとの一件で不貞腐れているようだが、仲直り自体は成功したのだからきっと大丈夫だろう。
ジュリアナを呼びに行った教授を見送り、望んでもいない邂逅の瞬間をじっと待つ。
暫くして、教室の扉が開け放たれた。
「――ではご紹介します。ジュリアナ王女です」
トラスティーナ教授にエスコートされ、紺色の髪をたなびかせた少女が現れる。
毛先に行くにつれ色が深くなっていく髪は、紺碧の空のようでも、深海のようでもあり幻想的だ。
少し吊り上がった大きな瞳は赤色に光り瑞々しい苺を思わせる。
その瞳を彩る長い睫毛も、艶やかな唇も全てが輝きを放っているようだった。
一目で分かる愛くるしい顔立ちに男子生徒の多くは頬を朱に染めている。
可愛いながらも聡明さと艶を感じさせる微笑みに、誰も彼もが心を鷲掴みにされたのだろう。
女生徒たちでさえ感嘆をもらし、教室の空気は彼女一色に染まったようにさえ思われた。
「ご紹介に預かりましたジュリアナ・ラ・スキラです。『海望の国スキラ』より皆様の知啓を学ぶべくやって参りました。王女ではありますが、これより私は皆様と肩を並べる神学院の同志です。どうぞ未熟な私にご教授お願い致します」
注目を一身に浴びる中、ジュリアナが愛らしい笑顔と共に挨拶をする。
王族としての威信があるのか頭を下げる事はしないが、謙虚な姿勢に不満を溢す者は見つからない。
皆が温かくジュリアナを迎え入れ、彼女もまた笑顔で応えるのだった。
(……カイトもだけど王族ってすごいな)
ものの数分で人民の心を掴んだジュリアナの姿に、ごくりと唾を呑み込んだ。
何も知らなければ、オレも同じように頬を染めていた事だろう。
だからこそ余計に、ころっと落ちてしまいたくなる可愛らしい風貌が恐ろしく見えてくる。
何より鼻をつくこの匂い。
ジュリアナから放たれる甘い香りが教室を満たし、胸やけを起こしてしまいそうだった。
「では王女殿下の席は――」
挨拶を終えたところでトラスティーナ教授の視線がカイトを捉えた。
本人が何と言おうとジュリアナは王族である。
三公であるカイトが率先して面倒を見るべき相手という事なのだろう。
しかしカイトはそれに応じようとしなかった。
「必要とあらば力はお貸ししましょう。ですが俺ばかりが王女殿下を独り占めにするわけには参りません。王女殿下にはぜひ広く自由な目で我が国が誇る神学院を見ていって頂きたいと思っております故、ここは王女自ら席を決められてはいかがでしょう?」
いけしゃあしゃあとそれらしい事を並び立て、カイトは笑顔を張り付ける。
それが作り笑いであると難なく分かってしまうくらい、オレに向けられる微笑みが優しい事に気が付いてしまった。
(何照れてんだよオレ…。ってか、ジュリアナのこと嫌いなのか…?)
『ラブデス』の中でカイトとジュリアナが接する場面はほとんどない。
ハンスがジュリアナと密接になる分、宿敵となるカイトが間に入る事がなかったのだろう。
しかし今のカイトを見るに、そもそもの好感がなさそうである。
オレへの好意を抜きにしてもジュリアナに対する態度はつれないように見えた。
とはいえ、プライベートでも関係があるカイトの言い分ももっともなのだろう。
ジュリアナは気を損ねる事なく微笑み、カイトの提案を受け入れた。
赤い瞳が値踏みでもするように隅から隅までを見つめ、オレたちの場所で動きを止める。
(………やっぱハンスか)
『ラブデス』においてジュリアナがへつらわせるのは見目麗しい男たちばかりだった。
才能云々を抜きにしても、ハンスの容姿は彼女の目に留まってしまうのだろう。
出会い頭にぐしゃぐしゃにしておいたが、髪が少し乱れているくらいで諦めてはくれなさそうである。
オレはひどく緊張した気持ちで、ジュリアナの視線が通り過ぎるのを待つのだった。
「後ろの席には空きがないのですね」
祈りも虚しく小鳥が囀るような声が響く。
その視線はこちらを向いたままだ。
迷いない眼差しからいっても、ハンスを気に入ってしまったという事だろう。
しかしながら言葉の通りオレたちの周りに空いている座席はない。
カイトの取り巻きと貴族派の面々が席を埋め、左奥にあたるこちら側の密度が高く、右手前にいくほど席が空いているような状態だ。
(そのためにここに来たのか……?)
カイトはオレのためと言っていたが、まさかこの事なのだろうか。
もちろん純粋にオレの隣に座ろうという気持ちもあったと思う。
だがそれだけならオレを中央に連れて行く事だって出来たはずだ。
あえて角の席に座り、周りも自分の取り巻きで固めたのにはジュリアナを避ける意味合いがあったのではないだろうか。
(っても、ジュリアナが座りたいって言ったら譲らないわけにはいかないだろ)
単純なヒエラルキーでジュリアナに勝てる者はいない。
どこかピリピリとした空気を感じながら、オレはジュリアナの動向を見守り続ける。
笑顔のままではあるが、すぐに動き出さないのは熟考を重ねているからだろう。
席を代われと名指しされるのはオレかユージーンか――誰もがジュリアナの言葉を静かに待つ。
その静寂に一石を投じたのはサマルだった。
ジュリアナが来るからと気合を入れていたのだろう。
豪奢な衣服に身を包んだサマルがゆっくりと立ち上がる。
「海望の国の麗しき月にご挨拶申し上げます。デューク領バロッド侯爵家のサマルです。僭越ながらこちらの席はいかがでしょうか?教卓から遠すぎず、見晴らしの良い場所です。きっと王女殿下にも気に入って頂ける事でしょう」
「ご丁寧にありがとう。そうね、ではそちらの席にさせて頂くわ」
恭しく頭を垂れるサマルにジュリアナは柔らかく微笑んだ。
そのままサマルにエスコートされ、昨年までカイトが陣取っていた中央の席へと腰を落ち着ける。
エスコートの最中、オレたちを仰ぐサマルの顔はしてやったりという得意気なものだった。
いの一番に王族とお近づきになれて気分が良いのだろう。
(バロッド…!お前…!)
しかしサマルの思惑とは逆にオレは心の中で腕を振り上げた。
顔はむかつくが今だけはサマルを褒めてやりたい。
『ラブデス』本編から今日までを通して、初めてサマルが良い奴に見えた瞬間だった。
いっそこのまま悪役同士くっついてくれとすら思う程だ。
(まあ、ジュリアナの趣味じゃないだろうけど)
原作通りならジュリアナはかなりの面食いだ。
サマルには悪いが、細身で嫌味ったらしい塩顔のサマルでは役不足だろう。
そうでなくとも、既にハンスに狙いを定めているようである。
第一接触を防ぎはしたが、必ずどこかでその魔の手を伸ばしてくるに違いなかった。
そしてその魔の手は存外すぐにやって来た。
ジュリアナとの最初の邂逅が終わり、着々と授業が進んでいく中での事だ。
「ミオン様はお優しい方なのね」
午後一番の神学の授業が始まって間もなく、オレの前にジュリアナが現れる。
進級によって新たにグループワークのメンバー決めが執り行われる最中の事だった。
昨年と同じメンツにミラ・クロッシュを加えたところで、ジュリアナが声をかけてきたのである。
「えっと、どうも…?」
「ふふ、かしこまらなくても良いのよ。ミオン様はとても公正な方だとお聞きしているわ。このグループだからこそ見えてくる事もたくさんあるのでしょうね」
「そんな大それた事はないですよ」
「まあ、聖人のような方とは聞いていましたが本当に謙虚なのですね。ミオン様のような方がいるからこそ、こちらの皆さんも伸び伸びと勉学に励む事が出来るのでしょう。ぜひ私も混ぜて頂きたいわ」
そうまでしてハンスに近づきたいのか、当惑するオレなどお構いなしにジュリアナが距離を詰めてくる。
チラリとハンスを見つめる目は狡賢い狐のようだった。
「あー…王女様を入れるにはちょっと……」
やんわりと断りつつジュリアナ越しにハンスたちの顔色を伺ってみる。
オレの視線に気が付いたハンスは嫌そうに首を振り、ユージーンやアンナも気まずそうな様子だった。
あまりの身分の違いがそうさせるのか、ロナルドとミラも揃って無理だと訴えかけてくる。
オレ個人としてもジュリアナと同じグループにはなりたくない。
満場一致の結論をどう切り出そうかと口ごもった所で、カイトが割り込んできた。
「王女殿下、失礼ながらあなたのような高貴な方にそのグループは見合いません」
「でも同じ学徒でしょう?」
オレとジュリアナの間に入り、カイトが薄く微笑む。
以前なら突っかかていたかもしれないが、ここはカイトに任せておくのが良いだろう。
「お気持ちは汲みますが、王女殿下の品位や安全を考えますと推奨は出来ません」
「そうですよ王女様!悩んでいるのでしたら私のグループにいらしてください。信頼の置ける者が揃っておりますし、王女様の品位を損ねるような事もないでしょう」
カイトに合いの手を打ったのはサマルだ。
オレたちを見つめるサマルの形相は鬼気迫るものがあったが、ジュリアナが悩みだした途端にその顔をにんまりと綻ばせたのだった。
そして再びジュリアナへと頭を垂れたのである。
「んー…バロッド様のご迷惑になってしまうのではありませんか?それに折角の留学なんですもの。より多くの方たちと交流したいと思っているのです」
けれど王女は悩んだ素振りをやめようとしない。
チラチラとこちらを見つめ、オレが口を挟むのを待っているようだった。
物憂げな瞳に気が付かないフリをし、心の中で叫び声を上げる。
(行けバロッド!押せ!そのまま押し切れ!)
ここはもうサマルに賭けるしかない。
サマルなら成し遂げてくれると信じ、オレは状況を理解出来ていない体でジュリアナたちのやり取りを見守った。
そんなオレの声援が届いたのか、サマルも食い下がらずに王女へと立ち向かう。
「そういう事でしたら心配はいりません。グループワークでは交流するのは一人二人ではありませんからね。ソフィアも王女様のお世話が出来ると喜んでおります。ぜひおいでください」
「そう?そこまで言われては断れないわね。バロッド様のグループにお邪魔させて頂こうかしら」
サマルの熱意に負けたのか、ジュリアナはすごすごと引いていく。
最後までこちらを見つめる瞳は未練がましかったが、サマルのおかげで無事乗り切る事が出来た。
中央の席へと戻ったジュリアナに、オレもカイトもほっと胸を撫で下ろす。
(――シャルル)
去り際、カイトが耳打ちをする。
(ジュリアナ王女には関わるな)
(何かあるんですか?)
(詳しい話は後でする。今はとにかく王女に気を付けろ)
それだけを残し、カイトもグループを組むルーカスたちの下へ戻っていく。
オレと同じグループになりたそうな顔をしながら結局、昨年同様に貴族派の面々とグループを組んだのだった。
(………変な奴)
分かりきっている忠告はさておき、ぐいぐいくるようでオレの意思を尊重してくれるカイトを憎からず思い始める自分がいた。
どことなく神妙な面持ちでカイトを見つめていると、ハンスがオレの傍へとやって来る。
カイトと入れ替わるように、いまだ顔を顰めたままのハンスが耳元で囁いた。
(デルホークに何を言われた)
(あー…うん。王女に気を付けろだって)
あえて隠す事でもないし、これくらいなら伝えても大丈夫だろう。
カイトに言われたままの言葉を伝えると、ハンスは僅かにだが目を見開く。
(デルホークがそう言ったのか?)
(公爵家だからこそ知ってる事もあんだろ。ハンスも一応気付けといてな)
(…………分かっている)
オレの緊張が伝わってしまっているのか、ハンスもジュリアナを警戒しているようだった。
清楚系よりは可愛い系のジュリアナが好みじゃないだけかもしれないが、簡単に付け込まれなさそうで一先ずほっとする。
(あれ?でも………)
手紙の応酬で発覚した事だが、ハンスが少なからずオレに特別な感情を抱いている事は事実だ。
だがオレは見た目も性格もアイリスのような清楚なタイプではない。
むしろ要素だけを考えるとジュリアナに近い分類である可能性が高いくらいだった。
思わずまじまじとハンスを見つめると、ハンスもじっとオレを見つめ返す。
その目はなおも不服そうで竦んでしまいそうだった。
(デルホークと何があった?)
(何がって何が?)
(しらばっくれるな。何もなしにデルホークがあそこまで態度を変えるわけがない。いつデルホークと仲良くなったんだ?)
(…………その、色々あって)
いつか聞かれるとは思っていたが、まさか今聞かれるとは思いもしなかった。
適当にはぐらかすと、ハンスは不機嫌丸出しにオレを見る。
穴が空いてしまいそうなくらいオレを見つめ宣告した。
(後で詳しく聞かせてもらうからな)
(…………ん)
その後は昨年と同じように事が進んでいった。
ハンスとカイトとジュリアナに挟まれ胃がキリキリしかけたが、何とか切り抜けられそうである。
ジュリアナがいる事で気が引き締まっているのか、生徒の名を読み上げるケンネル教授の声は昨年よりも芯が通っているようだった。
「では確認をとります。グループAは――」
グループAの代表は今年も変わらずカイト・デルホークだ。
班員は多少様変わりし、オレたちの前の席に陣取ったルーカス・キングスレイ、ヘンドリック・リロイ、メイナード・セストッドに、アデライト・ルベンとミルドレッド・ビルズの二人の令嬢を加えた貴族派の集いだ。
グループBの代表はジュリアナとなったようだ。
班員はサマル・バロッド、オズウェル・ガーネット、双子のキャメロン、ディラン・フェリックス、ジェラルド・オストリッチ、ソフィア・スカーレットの貴族派揃いの面々だ。
言い方は悪いが、カイトの取り巻き選抜から落選したメンツといった印象だった。
グループCの代表はケント・ランドルフ。
班員はアルベル・ロックウェル、コンラッド・ムール、ナタリア・ムール、ビアンカ・メルクリート、エイダ・ラムズデン、カサンドラ・クラック、ナナリー・レムスの昨年とほぼ同じ女所帯だ。カイトの取り巻き選抜を落ちた顔ぶれも見られるが、概ね穏健派である事に違いはないだろう。
グループDの代表はオーガスト・サンダス。
班員はイーサン・トールポッド、シグルド・キマリエ、オデット・サンボーン、サーシャ・カースティ、ソーン・キリアン、エドワード・エバンス、セレステ・ノーバート、クレア・ハウスキーと昨年とそう変化のない顔ぶれだ。
グループEの代表は伯ヌース・ペルギル。
班員はセドリック・ゴードン、アーリック・ドイル、マグナス・ダンカン、ノックス・ハワード、スチュワート・ロッド、ミゲル・マクスウェル、ネヴィル・カトラリーに庶民のアイクとジャックを加えた完全男所帯だ。庶民の二人は気が楽なのか、こちらのグループに移ったようだ。
グループFの代表はホープ・トルーマン。
班員はシャレド・サフィール、ジーナ・ヴェルヘルミナ、ステラ・クラレンス、ニコ・クインの中立派の中にニーナ・ジルコンが加わった形だ。オレを除く海の加護持ちは皆ここに集まったようだ。
グループGの代表はモーリス・ダナ。
班員はエドモンド・ブース、ディラン・ロウ、ダグラス・ニューマン、ロイド・ストーンウィル、ジョナサン・ベルドット、トラヴィス・シーバリィ、ランスロット・ティガロ、ダニエル・ソーサーの中立派と新興派が混じった集まりだ。グループ移動の中でこちらも男所帯になったようだった。
グループHの代表はパスカル・マリポーサ。
班員はピエール・カレナン、イヴァン・ルース、ハンドレッド・ルース、リリアンヌ・フラン、キャンディス・シュガー、パメラ・マケロン、ジョセフィーヌ・コロン、シニョン・ブックマークの新興派揃いの顔ぶれだ。グループ変動に伴い華のあるメンバーになっている。
――そしてグループが一つ減り、グループJがオレたちの班となった。
今年も代表にされてしまったのはさておき、73人全員が脱落する事なくこの場へと残っている。
1年も経てば顔と名前が一致するようになり、それぞれの家柄や交友関係も把握出来るようになっていた。
いつものメンバー以外で交友があるのは中立派と海の加護持ちの面々だ。
少し偏屈で苦手意識の強かったシャレドとも海の加護を持つ者同士仲良くなれたように思う。
貴族派とはめっきりだが、今回グループAになった顔ぶれがカイトから見ても信頼のおける相手なのだろう。
特に日頃から傍に置いているルーカスが信用に足る人物という事だ。
オレとしても真面目そうな彼は話しかけやすく、いざという時にも頼る事が出来そうだ。
けしてカイトと更なる友好を深めたいわけではないのだが、ジュリアナの事を考えれば、念頭に入れておいて損はないだろう。
(この調子でバロッドが間に入ってくれれば良いんだけどな)
テーマ決めが始まった後も、オレはぼんやりとこれからの事を考える。
サマルに期待する日がこようとは自分でも驚きだが、上手い事かき乱してくれるならそれに越した事はなかった。
そうやって上の空になりつつあるオレに視線が突き刺さる。
(………………)
突き刺さるのはハンスの視線か、カイトの視線か、はたまたサマルかジュリアナか。
(刺されたりしないよな?)
オレは現実逃避するように思考を巡らせ続けるのだった。




