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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅳ 魔王の娘
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夢中 接触・転機

 「やあやあ、こんばんは〜!」


 ふと気づくと、エイジは不思議な空間にいた。周りは真っ白で何もない……そう、異世界に転移する直前にいたところと似ている。


「テメェは…」


 そして彼の目の前に立っているコイツは、いくらか見覚えのあるモザイクだ。


「確か今は……」


 眠りにつく直前を思い出そうとする。テミスと関係を深めた翌日、メディアらに仕事を手伝ってもらいつつ、意欲を見せるテミスに仕事を教えていたはずだ。気付くとダッキが気疲れしていたようであったが、結局何事もなく一日が終わった。そうして各自解散し、就寝したはずだったのだ。


「何の用だ。オレ今忙しいんだが」


 なぜここにいるか。それをなんとなく理解した彼は、正面の不審物に問いかける。


「ご安心を。今は丑三つ時、真夜中です。それにこれは夢なのですから」

「そうか、これは夢か。なら…!」


 今のエイジは夢魔としての力を持ち、加えてこれは自分の明晰夢。ならば完全に制御できる、はずだが…


「なっ、夢の掌握が出来ない⁉︎」

「ふふふ……どうやら、まだ私の力の方が上のようですね」


 だが前とは少し違った。前までは隠蔽が深く、声もだいぶ聞き取りにくかったが、今はもやが薄れ、輪郭が分かるほど。その輪郭は、比較的起伏は穏やかながらも女性的で長髪、エイジより二回り以上小柄だということだ。そして、その高い声も聞き取りやすくなっている。恐らくは自分が成長し、偽装が一部破れたのだろうか、と予想する。


「おや、気付きましたか? ええ、あなたの思っている通りです」


 モザイクがかけた夢ならば、エイジはその掌の上、なのかもしれない。


「チッ、人の心を読むんじゃねえよモザイク野郎!」

「むー、失敬な! もう分かるでしょ? 私は野郎じゃありませーん!」


 不服そうに膨れっ面をしていることが、モザイク越しでも分かるほどの口ぶりだ。


「てかモザイク野郎って何なんですかぁ⁉︎ 天使と呼んでと言ったでしょ? て〜ん〜し〜!」


 腰に手を当てプリプリとした様子。今までの二回の接触と違って、口調が崩れ、かなりフランクになられて戸惑ったエイジは、


「なぜ、今現れた」


 逃げた。


「スルーですか⁉︎ うっうん……おほん。定期連絡にやってきました。何か困っていることはありませんか?」


 そんなモザイクを、エイジは胡散臭いものを見る目で訝しむ。


「疑問に思ったことがある。なぜオレは魔王軍として活動しているのに、お前らは手を出さないのか。オレの予想だと、とっくに能力は剥奪されるものかと思っていたが」


「私たちの仕事は送り出すことのみ。世界のバランスを大きく崩さない限りは、その後は不干渉です。」


「の割には、お前はやけにオレに構うよな。これで干渉三回目だ」

「あはは……痛い所を突いてきますね……」


 こめかみを掻いて冷や汗を垂らし目を逸らす……そんな様子がモザイク越しでもありありと想像できる。


「なぜ、オレに構う」

「じつは〜……これは私の独断なんです。頑張っているあなたを眺めているのは楽しいので!」

「へえ……上にバラしたらどうなるかねぇ?」

「あっ、ヤメテ⁉︎ 処されちゃう!」


 さっきから反応がとにかくコミカルである。いじったら楽しそうだな、と思いつつもどこか違和感、やりにくさを感じるエイジ。


「ふん、オレの何が面白いんだか。アンタもだいぶ特殊な趣味をお持ちのようで」

「ぶー。君、私に対してだいぶ冷たいよね」

「フン、自分の姿を隠しているような奴が信用できるかよ」

「…ごめんなさいね、これは接触する場合の、最低限の規則なんです。」


 自分ですら、残念だと思っているようだ。


「あ、抜け穴あるよ? それはね〜、あなたが自力でこの偽装を剥がすこと! だょ?」


 でも、とにかくどこか終始楽しげなのである。まるで彼との会話が唯一の娯楽であるように。それが例え、刑務所の面会の如くどこか壁があり、彼に軽くあしらわれるだけだとしても。


「ところで、困っていることがあったらとか言っていたな。どういう意味だ?」

「ふふん、そのままの意味です。困っていることがあるなら、私がこっそり! 手伝ってあげますよ!」

「そうか……困っていることねぇ……」


 今まで、能力を駆使したことはあったものの、基本的に自力、あとは幹部ら、現地のものに頼って切り拓いてきた。だから、突然その外側から手を差し伸べられても、ただ困惑するだけだった。


「欲しいものとか、ないですか? 例えば、新しい能力とか! まあ、私の権限の範囲にはなってしまいますが……」


 その提案に、エイジはどうにも渋い顔。


「欲しい能力……無くはないが、既に却下した。能力のコピーや不死身なんてのは邪道だ、もう欲しいなんて思わんよ。ま、元の使い手より上手く扱って魅せるってのは、やってみたい気持ちもあったが、今の力すらまともに扱えねえ奴が新たな能力に手を出したってたかが知れてるってもんだし……どーせ、お前の力じゃ無理だろ?」


「むう! ……まあ、その通りなんですけど」

「それに、すでに10もの特殊能力貰ってんだ。これ以上は強欲だろうよ」


 釣れる気配ナシ。この節度ある部分に感心していたが、実際自分の申し出を断られると応えるものがあった。


「まあ、莫大な魔力、なんてのは、他の能力に比べれば見劣りするけどな」


 既に彼は、魔族の幻魔器を取り入れることにより、本来よりも保有する魔力は大幅に増大している。


「……別に、能力は10まで、という制約はないのですけれど?」

「あっ……」


 自ら、変なこだわりに支配されていたことに、ようやく気付いた。


「いる? いるっ⁉︎ 今私、良い能力持ってるの! えいやぁ!」


 なんとモザイクは、エイジの返事を聞くのも待ちきれない様子で、一方的に押し付けた。


「……くっ、おい、何しやがった」

「あなたが欲しいな、と思うであろう能力を授けました。いくつかある中の一つです。さあ、なんでしょ〜か!」

「余計なことを……まあ、いい。感謝はしとく。何の能力か……それは追々分かるだろう」


 少なくとも、現時点で力が増したとか、体が変化したという調子はない。付与による体の負荷も、大したことはなかった。


「えっと……そうです、欲しい物とかないですか?」


 エイジが考え込み、沈黙に耐えかねたモザイクが口を開く。


「欲しい物だと?」


「何でもいいですよ。例えば……そうですねぇ、高性能な武器とか!」


 例えにエイジは無反応。自分と彼の考えに齟齬がある、つまりまだ理解、観察が足りなかったということに気づき、やや落ち込むモザイクちゃんであった。


「それって、オレが元いた世界からでも可能か?」

「できるけど……ものによります。多分電子機器は許可されませんね。オーバーテクノ、文明バランスが崩れるってやつです」

「…………ある……あるぞ! 欲しいもの!」

「えっ⁉︎ は、はい……何でしょう?」


 身構えるモザイク。はて、一体どんな要求が飛び出すか、想像を巡らす。


「1メートル定規だ‼︎」

「……えっ」


 全く考えもしなかった物を提示され、しばし固まった。


「へえ、そんなものでいいの?」

「そんなものとは何だ! オレにとっては非常に重要な物なんだ! 加えて、タイマー、時計があればなおよしなんだが……」

「それほどのものかな〜?」

「ああ、覗きが趣味なら見てるがいい。オレがそれで何をするかを!」


 嫌味ったらしい口調で、自身ありげな様子。


「でも、予想とは少し違いましたね」

「ほーう……じゃあ、アンタの予想は何だったんだ?」

「銃とか!」

「………あっ」


 考えが至らなかった様子。


「やーいやーい! もうあげないもんね!」


 ここぞとばかりに煽り散らかす。


「ま、バランス崩壊も甚だしい文明の利器だ。そもそも貰えるとは思ってなかったし、そんくらい自分で作ってみせるさ。これもあるしな」


 メガネを取り出し不敵に笑むエイジを見て、最初は負け惜しみかとも思ったが実際そんなことはなく、敵わないなと思い知ったのであった。


「ふーん。そこまで言うなら見ますけど、一応逆恨みされるのも嫌なので、私自らが見繕った物資をいくらかあなたの部屋に送っておきますね。」


 本当は嫌われたくない、感謝されたいだけである。


「余計なお世話だ。まあ、貰えるなら貰っておこうか」

「一言多いですよ! 素直に喜べばいいのに。そんなこと言っていいんですかぁ? 手助けしてあげませんよーだ!」

「元からそんなもの望んじゃいない。お前のお節介だろ」

「むー、もうちょっと優しくてもいいじゃないですかぁ……」


「じゃあオレはもう起きるよ。1メートル定規、よろしくな。」

「え、あっ! いつの間に夢の制御権取り戻されてる……ああ! もうちょっと待って! 待ってってば! もうちょっとお話ししようよーー!」


 モザイクの静止の声も聞かず、エイジは背を向け、溶けるようにその空間から消えていった。



 そしてモザイクは彼が目覚めるまでのラグの間に、必死にあれこれやって何とか定規を間に合わせたのだった。

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