3 憎悪の焔・消滅の神威 ①/2
「本当に、あれでよかったんですの?」
会議室退出後、エイジは秘書を連れて執務室へと向かっている。その最中のことだ。
「知らん。オレには、そんな空気を読む力なんぞないからな。その後どうなるかなんぞ想像つかん。だが、思ったこと、言いたかったことは全部言った。それだけだ」
エイジはただ不機嫌な様子で、早足に歩く。シルヴァも押し黙ったまま。
「……そうですわね。ともかく今は、仕事を全て片付けることが先決。仕事の荷が下りれば、落ち着くこともできますもの」
ダッキはそれを不安そうな表情で眺めつつ、深入りはしない。そのまま三人は部屋に入ると、各々仕事を始めた。
昼。未だ終わりの見えぬ業務量、先の会議による雑念、疲労らしき頭のモヤ。最早自分が何をしているのか分からなくなるような、うつろな意識の中、空回りしているような、漠然とした虚無感を抱えたまま、ただひたすら単調な仕事をこなす。このような業務は得意なはずだが、やりがいや刺激のないあまり、ただ神経を擦り減らす。
休憩になろうと、それは変わらない。魂の抜けたように、ぼーっとしてしまう。まだ何もかも始まったばかり。燃え尽きるには早いが、果たしてこの感覚は何のせいであろうか。
そんな、虚空を見つめる彼の耳が、小さな音を捉える。それは、遠慮がちなノックであった。直後、扉の軋む音を立てながら小さな影が入ってくる。
「あら? メディア様、いかがなさいましたの?」
入室した者は、自らに注意を向けようとしない、部屋の中央に陣取るものを見ると、杖を構え、先端が光り
「危ない!」
すぐに反応したのはダッキ。数刹那遅れてシルヴァが間に入ろうとするが
「何のつもりだ」
エイジは驚愕により反応はかなり遅れたものの、シルヴァごと魔弾を防げる障壁を展開。奇行に走った魔術師を睨む。
「どうやら…そこまで…気は抜け…なかったよ…ですね」
それだけ言うと、マントを翻し出て行こうとする。放たれた魔弾も、エイジに当たったところで、丸めたティッシュをぶつけられたくらいの程度の威力に過ぎなかった。
「…………」
「え、なんて?」
ボソボソと何かを言ったようだ。何も聞き取れず、聴力強化しつつ聴き直す。
「…気を付けなさい」
「なるほど。忠告感謝しますよ」
どうやらそれだけの用件だったらしく、そのまま何処かへ立ち去っていった。
「あのまま行かせてよろしいのですか?」
「彼女に悪意はないようだ。何より、あれは気付け薬みたいなものだろうよ。どうやらオレは随分と気が抜けていたらしい」
頭を振り、気を入れ替えようとする。そんな時だった。
「うっ…ああっ!」
目に鋭い痛みが走る。激痛のあまり手で目を押さえ、頭を振り悶える。その痛みはすぐさま消えたものの、そんな彼の目には、ある映像が浮かぶ。
「ああ、そうか……」
「大丈夫です……ッ!」
「大丈夫だ、問題ない。もう治った」
何か悟ったようなエイジ。その眼は……異色の妖しい輝きを放っていた。
「すまない。誠身勝手だが、今日はもう休んでいいか?」
「それは…」
「ええ、問題ありませんわ。ゆっくり休んでくださいまし」
「悪いな…」
エイジはどこか確固とした足取りで退室する。残った秘書二人は、何かを訴える目と、何か諭すような目で見合っていた。
急いで自室に戻る。扉は閉めず、少し開けておく。少し待つと、扉が蹴り開けられた。閉めていたら、ドアが外れてしまっただろう。
「アンタ、わたしと決闘しなさい!」
レイエルピナだ。こちらに剣先を向けてきている。ここで断ったら何も起きないどころか、この部屋で乱闘が起こってしまう。受けない理由はない。
「わかった、受けよう。少し準備をしたら、すぐに行く」
「逃げないでしょうね」
「どこに逃げ場があるってんだ?」
フッと笑いながら肩をすくめるエイジに、レイエルピナはやや疑いながらも剣を納め、踵を返すのだった。
修練場に行き、中央の試合場所で向かい合った。その周囲には、観客として先ほどの会議にいた面子、幹部たちが落ち着かない様子で並んでいた。準備とは、彼らを呼ぶため伝令を走らせたものである。戦闘準備など、彼には大して要らない。
「容赦はしないから。死んでも恨まないでよね」
「あはは、ボクは後方支援担当。正面戦闘は苦手なんで、お手柔らかに頼むよ」
彼の戦闘力を知る者達は、どの口がとでも言いたげである。
彼の言葉になぞ大して興味を示さず、彼女は腰から漆黒の細剣を抜く。その剣は紫色の淡い光を放っていた。
「その剣は?」
「この剣はダインスレイヴ。お父様から賜った剣よ!」
闇のような紫、所々に見られる紅い意匠。禍々しい、いかにもな魔剣である。
「エイジ、気をつけよ! その剣は回復阻害の呪いが込められている!」
「ほう、そいつは怖い。一切気は抜けないな」
それを聞いてなお、エイジの表情は不敵なまま。されどレイエルピナの表情は…
「おっと魔王様、それは不公平じゃあないですか?」
エイジは、レイエルピナに譲るように手を向ける。
「……そうだな。レイエルピナ、気をつけよ。と言っても、私でさえ引っかかるのだから無理があるかもしれないが……エイジは多彩な能力を持っている。さながら、能力の市場とでも言うほどにな。一つ一つが極めて強力と言うわけではないのだが、その手数の多さから、全てを避けるのはほぼ不可能。特に、各能力の組み合わせは厄介だ。真っ直ぐな戦いをするお前には、のらくらとしたコイツとの相性は悪い。常に気を抜かず、防ぐ攻撃と敢えて受ける攻撃などの取捨選択、次の次に来る攻撃を常に考え続けるのだ!」
ベリアルの情報量の差、エイジを持ち上げているようにも、レイエルピナの有利になるようにも感じられる。
魔王の娘。その戦闘力は幹部に勝るとも劣らないという。解放率は三割。油断すれば、魔剣の一撃で即死である。
「さて、覚悟はいい……何してんの」
剣を構え、殺気を放ち、戦闘態勢をとる彼女の前で。エイジは、屈伸したり伸脚したり前後屈したり。
「何って準備運動」
「なめんな!」
魔弾が飛んでくるが、アキレス腱伸ばしや、手首足首回ししながらひょいと避ける。
「やだなあ、逆だよ逆。しっかり本気で戦えるように体をほぐしたりしてるだけだって」
足上げや軽いジャンプをして体を温める。しかし、準備運動と言われつつも、レイエルピナにしてみれば、その緊張感の無さから煽られているようにも感じられるのだ。
「さーて終わり。待たせて悪かったね。じゃあ、どうぞ」
「まさかアンタ、素手で戦うつもり?」
戦闘の準備をすると言っていたものの、装束が変わっていなければ、剣や杖など武器らしきものも持っていない。その様子に不審感を覚える。
「まーさか」
手を伸ばし虚空を掴む。その手には片手剣が握られていた。
「どこから⁉︎」
「これも、能力さ」
驚くレイエルピナの前で、悠々と剣を構える。
「さあ、おいで」
「その余裕、いつまでもつかしら。フッ!」
初手、彼女は剣を切り上げる。すると、その軌道に黒炎が燃え上がる。
「ぬおっと!」
かろうじて避けるが、次の瞬間には刺突が目の前に迫っていた。それも剣の横を打ち、逸らす。
「くっ…」
「へえ、少しはやるわね」
鍔迫り合いになるが、凄まじい熱を放つ彼女の剣に、目が灼ける感覚がする。普通の人間なら、これだけで顔を火傷するだろう。
「その炎は……君の憎悪そのものか」
「ふうん、わかるんだ。ええ、その通り。これが、わたしの怒りよ!」
膂力ではエイジが勝っているはずだが、押し飛ばされる。その勢いのまま後ろに下がる。
「逃げても無駄よ、焼き尽くしてやる!」
レイエルピナが剣を勢いよく振り下ろすと、そこを中心に修練場全体に炎が広がった。
「おっと危ない」
周囲に結界を張り、炎を防ぐ。だが落ち着く暇はなさそうだ。
「はああ!」
正面から飛びかかってくる。受け止めたが、細剣にも関わらずそのまま何度も斬撃を放つ。
「はあっ! せぇ! やぁ!」
剣筋は鋭い。だが直線的すぎだ。始めは押されつつも、次第に慣れてきた。真っ直ぐ過ぎる殺気のせいで、次にどの軌道で来るかわかる。そこまで来れば、防ぐのは簡単だ。
「シッ!」
「うぬっ…!」
斬撃に刺突、さらに蹴りを織り交ぜてくる。その全てが、鋭く真っ直ぐに急所を狙って来る。しかしそれ故、どこにくるか分かり易い。体捌き、受け流し、牽制攻撃。敢えて隙を作り誘導すると、狙った通りに攻撃が飛ぶため、難なく防げる。
「チッ…」
決めきれないと見るや間合いを開ける。と同時に幾らか魔術を放ってくる。
「この程度の攻撃なら、なんてことないなぁ〜」
それらを有利属性魔術で以って、涼しげに全てを防ぐ。
「今度はこちらから行こうか。攻守逆転としよう」
一つ、冷気属性の強化をかけ、炎耐性を上げる。姿勢を低く、突っ込む。
「何が搦手! …えっ?」
真っ直ぐ突貫してきたエイジの体を、その剣は貫いたはずである。しかし手応えがない。
「こっちこっち」
「なっ、く…」
背後から、体を開くような横薙ぎの攻撃。すぐさま振り返りレイピアで受け止めるが
「ちょいさぁ!」
「ッ⁉︎」
左手の槍の突き。死角からの攻撃を、反射で何とか凌ぐが。
「ほらよ!」
右手の剣をほっぽり投げ、次に斧を持っていた。
頭上から大振りの攻撃。これまた反射で辛うじてかわすが、無理な動きのせいで耐性を崩す。
「そい!」
「そんな⁉︎」
あのような大振りの攻撃で、すぐに次の動きなど出来るはずがない。そうレイエルピナは思っていたが、斧を叩きつけた反動でエイジは跳び上がり、左に装着したシールドで殴りかかってきていた。
「はあ!」
転がって避けたレイエルピナの眼前には、サーベルの切り上げが迫る。
「あの動きは!」
「アイツの戦陣構築だ」
「だが、あれには型もなくメチャクチャだ」
「コノ際、型ハ関係ナイノダロウ。振レサエスレバイイトイッタ様子ダ」
一つの武器で一撃出すと、その武器をすぐさま放ったり地面に刺したり。武器を振りながらの宙返りや、稀に武器を踏み台にして、別方向に回り込む。それをただ反射で避けるレイエルピナは、ロクな反撃もできず防戦一方。武器は戦場の広範囲にどんどんと刺さっていく。
「クッソ!」
体勢が安定しないと、火焔も放てない、最初の幻影によって、ペースは完全にエイジのものとなった。苦し紛れの全方位も威力が下がり、防御が常に覆っている以上有効だとはならず、勢いを止めるには不十分。仕切り直しとばかりに大きく距離を取る。
「ならコイツの出番だな」
その時持っていた武器を地面に刺すと、新たに武器を取り出した。その形状は、彼以外には馴染みがなく。
片手を突き出し、その武器を向ける。スコン、という音と共に、レイエルピナの顔すぐ横を何かが掠めた。
「おっと、外してしまったか。意地張らずにレーザーサイトでもつけときゃよかった。やっぱ狙撃はあまり上手くないみたいだ」
その形状は、横向きにされた弓が、柄の先端に取り付けられているもの。手に持つ部分には、引き金がついている。
「何だその武器は⁉︎」
「正式名称クロスボウ。別称ボウガン。シルヴァの弓を見た時から作ろうと思っていて、ね。魔導院に相談したお安い御用とのこと、だ!」
魔力で張られた弦、魔力で形成される弓。その色合いは明るいグリーン。彼が魔力を流すたびに弦は自動で引かれ、矢が番えられる。その連射力はもはや弓のものではなかった。
見たことのない兵器に驚くも、弓の射線から逃れるようにレイエルピナは戦場を旋回するように避けていく。
「ケッ、ヘタクソめ…」
何度も外し、自嘲する。偏差射撃も、未だ慣れぬ武器ゆえうまく行かない。構え方も、まあまあナメたものだから、弾道もブレる。
「獲った…!」
エイジの死角をとり、接近。を試みたが…
「ふふん、残念」
左手で悠々と指を鳴らす。その瞬間、レイエルピナの眼前の景色が歪むと
「きゃあ⁉︎」
爆ぜる。
「気をつけなーよ。そこは機雷魔法陣群だ!」
「がっ、くっ……ああっ!」
爆風で弾き飛ばされた方向には別のものが。その衝撃でまた次の罠へと誘導され、次々と起爆していく。
「エイジめ、いつ間にあんな技まで…」
「アイツは武器を振り回しながら、試合場を縦横無尽に飛び回っていた。その途中に、空中に何かを置くような仕草を……そういうことだったか。初見でアレは、防げまい……」
一つ一つの威力はせいぜい、魔族基準でランク2。されどその程度の威力でもなければ、レイエルピナは良くて戦闘不能だったろう。
「うう…」
ややふらつきながら立ち上がる。も、すぐ体勢を崩す。ダメージとしては軽いのだが、弾かれ続けた衝撃で、脳が揺すられ軽い混乱状態になっているのだ。
「もう終わりにする?」
「誰が!」
「だよね〜、そう言うと思った」
どこか諦めた様子の未だ余裕のエイジに対し、レイエルピナは怒りで自らを奮い立たせる。
「まあいい。お遊び、この程度で終わってもつまらないしね」
「お遊び、ですって…」
「まだまだ、持ち技の二割も出してないんだ。ここまでの集大成的に、試させてもらうよ!」
武器を取り出し、投擲。ロングソード、スピア、アクス、ダガー、メイス、アロー、シールド、ボム、ブーメラン……貯蔵してある、ありとあらゆる思いつくだけの武器種を、一つ一つ丁寧に投擲。ただ、レイエルピナにとってしてみれば、一つ一つは威力も低く、避けるもの難なく。周りにごちゃごちゃと武器が積み重なっていくだけで、何がしたいのか分からなかった。大概の者もそうであろう。これが罠などとは、なかなかに気づけない。
『常に気を抜くな、次の次に何をしてくるか考え続けよ』。ふと父の言葉が頭をよぎる。何が来るか考える。ようとしている間に、ヤツは目の前に。
「えっ」
切り上げを弾く。刺突を躱す。殴打を流す。されど…
「なっ!」
床の武器。エイジがその柄を踏んづけると切っ先が上がり、足を裂かれかける。
「そいっ、はっ!」
武器を引っこ抜いては適当に振る。弾かれてもすぐに次の武器がある。止まることを知らぬ怒涛の連続攻撃、常に彼の周りには数本の武器が浮いているような状態だ。
「これなんかどう?」
「はっ?」
つい間の抜けた声が出る。いつの間にエイジは上下真っ逆さまに。
「ほいさぁ!」
宙に浮く武器、それを足場に。するだけに留まらず、肘からの魔力噴射や足裏での小爆発。その威力で意味不明な姿勢で攻撃してくる。
「うっ、せあっ!」
「ぐあっ!」
苦し紛れの魔弾が当たり、エイジは大きく吹き飛ばされる。が、
「うおっと! あーぶないねぇ! さァ‼︎」
手をつき受身、着地。そしてすぐに突っ込んで来る。
「アイツ、受身取った瞬間に回復をかけやがった…」
ダッキ戦、ベリアル戦で学んだこと。それを糧に反省し、改良。その末、彼から隙というものがどんどんと消えていく。
「さて、手を増やすか!」
再び武器を足場に変態挙動を見せるエイジだが、空中に手を置くと、
「ま ど う ぐ?」
魔術陣や魔導具を出現させ、魔術攻撃も織り交ぜるようになる。特に着弾時爆ぜるものは、視界を奪う。
土煙が晴れた先、レイエルピナの視界に映り込んだものは、
「「「さあ、どれが、ホンモノ⁉︎」」」
目の前に、三人のエイジ。その切っ先が自分に向いていることに気づいた瞬間、本能的に目を瞑る。目を開くと、中央と右側のが、左右スレスレに剣を突き立てていた。そして、剣だけが残り、三つの姿は霞と消える。
「いや、無理でしょ、これ……」
つい、弱音が漏れる。こんな訳のわからない戦い方をするものなど初めて。予想もつかない角度からの攻撃、反射で何とか対処できても、それが逆に追い詰められているような感覚にさせられる。
「あーそうそう、ところでレイエルピナさんや。キミ、防御魔術は得意かな?」
真後ろ、刺さった大剣の上で、彼は見下ろし、余裕たっぷりに腕組みしていた。
「何だって…そんなことを」
「なーに、すぐに防御したほうがいいんじゃない? と言うアドバイスだよ」
周囲を見渡す。そしてすぐ気がつく。自身の周囲の武器が白熱し、高いエネルギーを内包しているらしき様子が。それは今すぐにも爆発しそうな…
「や、ヤバい‼︎」
「いっとけ、『Broken arms』」
エイジが剣から飛び立つと、レイエルピナ周囲の武器群は破裂した。
金属片が飛び散り、爆風で塵が舞う中、レイエルピナの体が徐々に顕になる。その体は、濃い紫の膜で覆われていた。そこに向け一条の光線が飛ぶが、当たった瞬間、飲み込まれるように溶け消える。一切の手応えが感じられなかった。
「触れたものを溶解させる攻性結界……防御まで攻撃的だな」
「……危なかった」
当の本人は冷や汗を垂らし、安堵しているようだった。
「アイツ、遊んでやがるな」
ベリアルは渋い顔で戦況を見据えている。
「どちらが、ですか?」
「エイジだ。私と戦った時のような必死さ、苛烈さがない」
テミスは慄く。少し前の自分には想像もできなかった、人外による超常の戦いに。
レイエルピナは結界を解き、剣を握り直す。目の前にいる男、先程までは取るに足らないちっぽけな存在に思っていたのに、今となっては強大に、恐ろしく感じる。
「チッ、楽に勝てる相手じゃないのね……何が正面戦闘は苦手、よ」
「オレ自身の戦闘技能はそれなり、だからね。真っ直ぐな戦い、試合形式で、同じ武器、だったら誰にも勝てない。オレの強さは特殊能力あっての物種。正面からぶつからず、のらくら小手先の搦手で、せこせこ戦うしかないのさぁ」
握る手に力が入る。眼前の敵、その目を真っ直ぐ見る。次に何をしようとしているのか、その感情や狙いを見抜こうとする。
「ふんふん、さっきまでみたいに、とにかく突撃、ってのをしなくなったのはいいのだろうけれどね……今回ばかりは逆効果だ」
剣を取り、一気に接近。応戦…
「なっ、動かな…」
気づくと目の前にヤツがいて、その剣を胸元に突きつけていた。
「魔眼…!」
「御明察。このオッドアイ、ただの飾りじゃなくてね」
エイジが瞬きすると、フッと硬直が緩み、レイエルピナはバランスを崩す。
「くっ…」
「そうだ、動いてくれ。そうしてくれないと、こちらも防御系や設置系の技が多いのに、それらの出番がないからね」
人差しと中指を突き出し、銃の形。そこから低威力の魔弾を連射する。さながら二連装のマシンガンのように。その連射力から当たりはする。されどレイエルピナとて無防備に非ず。防御を展開し、魔弾を撃ち返しながら、渦を描くように大きく移動する。ただし彼女の反撃の魔弾は、彼の左腕に装着された菱形の盾で防がれる。
「……そこっ!」
「ッ⁉︎」
エイジが左手に隠し持つボウガン。弾幕で誘導しつつの、一点狙い澄ました攻撃が命中する。その色は強く輝く白、闇属性の対極属性。その威力は、薄い膜にヒビを入れた。
「……ッ、はあ!」
三発目が放たれたところで急制動、いきなり方向転換し迫る。
「フゥッ!」
レイエルピナが迫ったのを確認したところで、エイジも一歩踏み出し、左手を突き出す。
「シールドクロー!」
「なにっ、コレ⁉︎」
左腕に装備していたシールドの前面が分割されると、鋏のようにレイエルピナを挟み込む。
「からの…」
「ヤバッ……このっ!」
「パイルバンカー!」
間一髪こじ開け脱出。その直後、盾の中から杭が飛び出す。
「ギミックアーツ。こういうの大好きなんだよね。ちなみにコレは自主開発」
一歩遅ければ串刺し。身がすくむ思いである。
「やりやがったわね、この!」
ダインスレイヴを両手持ちし、やや傾けて地面に突き刺す。その方向に、業火が噴き上がる。
「なんの。フーッ、ハァッ!」
両手を地面につける。すると目の前の地面が隆起、焔を堰き止める。
「今の、魔術じゃない⁉︎」
「勘が鋭いね。これも、特殊能力さ!」
その力は炎を止めるだけに収まらず、レイエルピナに向け一直線に岩が突き出していく。レイエルピナが跳躍して躱すと、隆起は収まり、元の地面へと戻っていく。
「オマケに、コレもどうぞ!」
剣を数本周囲に召喚、展開する。
「何よ…それ……」
相手は召喚された、宙に浮いたままの剣を見て、呆気にとられている。
「いけっ」
剣を飛ばす。その剣は彼女の横を通り抜け、後ろの壁に刺さった。
「わざわざ手で投げる必要なんてなかったっていうね」
横をすり抜けた剣の軌跡を、最早彼女は追うこともしなかった。
「言い忘れていた! レイエルピナ、そいつは私に第二形態を使わせたほどだぞ!」
「は、ウソでしょ……」
さらに、無尽蔵に思われるほどに召喚される武器。それを目にした彼女はうつむき、剣持つ手から力が緩む。戦意を無くした。そう捉えたエイジは気を抜いた。




