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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅲ 帝魔戦争
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幕間 敵情視察 ②/4

 「ようこそ。ここがジグラド帝国の首都、帝都メラレアです」


 目の前に大通りが広がった。とはいえ、その道幅は十メートルもないが。そして壁からやや進んだ先に、ようやく建物が見える。最も外側の部分は店、少し進むと建物同士に隙間があり、その先には住宅街が。その奥に商店と住宅の混ざったエリア、さらにその奥は教会など重要そうな施設が伺え、最奥には威容を誇る帝城が見える。


「このメラレアは、円形の都市なんです。各通りが真っ直ぐ中心まで通っていて、家がブロックで分割されていて、そこから隣の大通りと行き来できるんです。……ごめんなさい、私ってば説明がヘタで……」

「いえ大丈夫です。なんとなくわかる」


 要は同心円上に広がる円形都市、典型的な城郭都市だ。


「わ、分かりましたか⁉︎ よかったぁ…」

「それほど卑下することでは…」


 上空から眺めたし、予備知識もある。それにその説明も、それほどわかりにくいわけでもないのだが。


「でも防衛上の観点からすると良くない。真っ直ぐ中心まで繋がっていては、敵の進行を阻めない。互い違いにしないと」

「……な、なるほど! そうか、きっと君は頭が良いんです! うんうん!」


 なんかコンプレックスでも抱えているのだろうか。


「で、では。苦手なりに頑張って案内してみます! ついてきて下さい!」


 今度は手を引かずに、先導する。



「この城近くのエリアは、中央に比べると貧しいのですが……それでも、一番活気があるんですよ?」


 フレヤは先導しつつもあちこちに行っては、どこか誇らしげに紹介してくれる。


「ここのお店、果物が美味しいんです。特にリンゴ! すみません、二つください」


 二つ買うと片方をアイザックに押し付け…


「ここの焼き鳥、絶品なんです!」

「お、フレヤちゃん、ありがとうね。お、そこの彼はもしかして?」


「ち、違います! ええ、そういうのではありません! とりあえず三本!」

「おうおう、一本サービスしてやんよ!」


 彼女は顔を赤らめながら戻って来て、アイザックは一本手渡されるのだった。


「次はこの食堂の魚が

「よく食べるんだね」

「!!?」


 身を震わせ、固まるフレヤ。よく見ると耳が赤くなっている。先程のリンゴと鶏はおろか、他にもいろいろ食べ歩いていたのだが、すっかり完食済み。


「そ、その……やっぱり、良くないですか?」


 振り返ると、人差し指を付けたり離したりしながら、目を逸らして顔を赤らめはにかみ……ズギュン‼︎ という音がする。そう、そのあまりの可愛さに、アイザックのハートがぶち抜かれた音である。


「……いっぱい食べる君が好き」

「すっ…!!?」


 アイザックは瀕死ながら言葉を絞り出すが、フレヤの顔はますます赤くなる。


 末長く爆発しろ! というノクトの幻聴が聞こえるような、初々しい二人である。




「き、気を取り直して、中心街の案内をしましょう」

「……うん」


 先程のやりとりの気まずさから、どこかよそよそしくなる二人。ノクトがこれをみたら、きっとじれったいと感じつつも、顔を輝かせながらニヤニヤとしていることであろう。


 しかし、アイザックは気になることがある。先程から通りの人々の視線が集まっているのだ。それはおそらく自分が貧相な身なりのこともあるかもしれないが、何より


「ここが、教会です。聖王国の宗教分派で、信徒は比較的少ないのですが……集会場やシェルター、貧しい者への支援などで役に立っているのです」


 この超美人が視線を集めるのだろう。本人は気にも止めていないようだが。


 そして図書館、兵屯所などの設備の案内もしていく。


「その歩き方、只者ではないね。……なんて言ってみたかったり〜」

「あれっ⁉︎ バレた⁉︎」

「えっ…」


 自分にはレイヴンらほどの経験は無い。だから見破れるはずないだろうが、言えたらかっこいいなー、など思い独り言を言ったら、当たった。カマかけたわけでもないのに。


「す、鋭いですね。ええ、その通りです。私は貴族なんです。だから、市民を守るために鍛錬を積んでいるのです。民を守ること、それが普段贅沢をしている私たち貴族の責務」


 フレヤは、真っ直ぐだった。エイジが眩しく感じるほどに。


「あ、そうです。アイザック君の出自は?」

「……言えません。言ったら、何処かで迷惑がかかる」


「誰にも言いませんよ。それに、この街の外の民の暮らしに興味がありますから」

「そんな面白い話じゃない」


 知らないだけだが。なんとかして追及を誤魔化したいところ。


「そうですか……言いたくないなら仕方ないですね」


 案外すんなり諦めてくれて一安心。


「では、これからはどうするんです?」

「一文なしですからね……これを質に入れて食い繋ぐ」


 そちらの言い訳は考え済み。ポケットから、宝物庫よりお小遣いとして拝借したルビーの指輪を取り出す。


「お守りとして持ってたんだけどね…」

「そんな! 大事な物じゃないんですか⁉︎」


「こういう時に使ってこそのお守りだと思うんだ」

「……そうですか」


 何か思案する様子のフレヤ。


「そのあとは?」

「身なりを整えたら、どこかで雇ってもらうつもり」


「そうですか。よく考えていて偉いですね。そのお店が私の行きつけだったら、また会えるかもしれませんね」


 言葉だけなら嬉しそうだろう。だが、どこか思い詰めている様子。


「どうしました?」

「……これ!」


 突き出されたのは、これまた高価そうな宝飾類。


「これは?」

「それの代わりに、使って下さい」


「そんな、受け取れません」

「こういう時は変に遠慮しないで甘えるのが得ですよ?」


 本当に真っ直ぐだ。貴族としての誇り、揺るぎない意志を感じる。しかし、


「だがそれは、傲慢だ」

「ッ! ……そう、ですね」


 持つ者が持たざる者に、高い階級の者が下の者へ。そこではどうしても見下しがあるもの。それを理解したフレヤは目を閉じ、哀しそうにしつつ、手を下ろしかける。


「でも、その優しさは嬉しい。ありがとう」


 宝飾は受け取らず、それでもと手を握る。


「どう、いたしまして」


 仕方ないなあ、という変な笑顔で握り返された。

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