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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅲ 帝魔戦争
62/291

4 宰相vs魔王 ③/3

 土煙がモクモクと上がる。と、一閃。土煙が晴れた先には、所々が傷ついた、されど健在のベリアルの姿。


「装甲損耗率、2.1%、損傷軽b…⁉︎」

「ウオォオ‼︎」


 極光を放つアロンダイトを大上段から振りかぶる。ベリアルは咄嗟に避けるも、肩が触れる。そして剣と触れた箇所が徐々に赤熱化し、溶けて……


「なんと…!」


 腕より先、肩の飛び出た部位の大部分が斬り落とされた。


「はぁ…ハァ……これが、全力ってやつです!」


 斬り落とされた部分が落下すると同時に、ベリアルも片膝をつき、目から光が消える。…しかし、何かが震えた音がしたかと思うと、すぐさま光が灯り、立ち上がる。


「ォォォオ!」


 ベリアルの全身が一瞬眩い光を放つと、全身に血管のように、今までは見えていなかった魔力の導線が赤紫に発光。そして傷面が淡く輝くと、


「うっそぉ…」


 たちまち新たな装甲が形成され、元通りに。


「……いやはや、素晴らしい。素晴らしいぞ!」


 だがベリアルは、呆気にとられているエイジをよそに、極めて興奮し歓喜していた。


「この体に、斯くも傷をつけるとは……このようなことは、今まで数えるほどしかなかった‼︎」


 ヤベェ、変なスイッチ入れてしまったか、とエイジは後悔するも、時既に遅し。


「エイジよ、貴殿は我が本気を見せるに相応しき相手である。そろそろ体が温まってきた頃あいだ。では、見せてやろうか。我が変身を!」


 その言葉に、既に相当疲れているエイジは、なんとか身構える。その体は温まるのかとか訊いてはいけない。


「オオオオオ……!」


 鎧が変形を始めた。全身に亀裂が入ったと思うと、その部分が展開もしくはスライドし、大きくなった亀裂を埋めるように、奥から紫色に光る硝子のようなパーツがせり上がってきた。さらに背中のパーツがスライドしてテールユニットとなり、今まで開くことのなかった口の部分がギザギザと開いた。


「オオオ……ハァ‼︎」


 変身終了時に吹き荒れる魔力に、思わず後退る。変身を終えたベリアルは、全身がひと回り大きくなったものの、全体的にスリムになっていた。体の各所を紫色に光るラインが走っており、先程の形態では装飾のようであったパーツも、その真価を発揮できる形状になっていた。そして何より、纏うオーラと魔力が膨れ上がっていた。


「お前の言い方に合わせると、さっきの形態が出力25%、今の形態が50%だ。この次で70%かな。」


 エイジも予想はしていたが、実際に目の当たりにするとこれ程までのプレッシャーなのかと圧倒された。変身後の形態に、呆然とする。


「呆けているところ悪いが、再開させてもらうぞ! ハアァ!」


 突進して切り掛かってくる! どうやら形態変化時に体の各所に現れた噴射口から、魔力をジェットのように噴射することで瞬間加速したようだ。


「うおッ!」


 先程までとはスピードもパワーも段違いに上がっている。なんとか受け止めたが、体勢が大きく崩れる。


「フンッ!」

「何ッ⁉︎」


 左から殴られる。全身が鎧、すなわち全身凶器である。不意を打たれ、躱し切れず食らってしまう。


「いッ……たぁ」


 防御力を高めていたおかげでダメージはさほど食らわなかったが、直撃だ。結構痛い。


「チッ、ならこっちもフルパワーだ!」


 30%から40%まで引き上げて全身に強化をかけ直す。その隙にベリアルは剣を地に突き立て、エイジに掌を向けた。その掌には、先ほどまではなかった球形の紫水晶のようなものが……


「マズイッ!」

「射!」


 掌からの砲撃。ギリギリ躱したが、直径6㎝くらいのその魔力砲は見た限り相当な貫通力であり、着弾したのか後方で爆発が起こる。


「ヤッベェ……危なかったぁ。」

「これだけじゃないぞ!」


 今度は指を向ける。その先が光り……


「またか!」


 今度は五本のレーザーが飛んで来た。


「それそれそれ!」


 こっちは連射が効くようだ。次々と飛んでくる。


「ハァッ…遠距離では分が悪いか…よし、リング!」


 指輪魔術で弾き、体勢を立て直すと、姿勢を低くして距離を詰める。


「接近戦か、よかろう」


 突き立てられた大剣に亀裂が走ったと思うと、柄と鍔部分が開き、中から大剣の1/4程の小剣が現れる。それを左手に構える。


「なんつーギミック…!」


 右手に大剣、左手に小剣。二天一流の構えである。


 接近してアロンダイトで数度斬り結ぶ。しかし全て防がれ、数度手痛い反撃を喰らってしまい、たまらず下がる。相手は二刀、こちらは一刀。これでは手数が足りない。


「ならこっちだって…!」


 今貯蔵している武器の中で最高品質の片手剣を左手に取り、周囲にもいくつもの武器を展開する。


「いけっ!」

「ふっ、この程度か、小賢しい攻撃だ。」


 ベリアルは左の剣を腰部ラッチに懸架、掌を広げ障壁を展開。強化した剣でも易々と弾れてしまう。


 魔力を纏う剣で障壁を切り裂き、周りの武器で牽制しつつ切りつけるが、ほとんどの攻撃が防がれ躱され、直撃しても平然としている。全力で強化し大上段から斬りかかるが、それでも軽く受け止められ、吹っ飛ばされる。


「よし、ようやくこの形態にも慣れてきたぞ。」

「まだ本気じゃなかったのかよ……これは無理して5割まで引き上げていてもキツいかもしれない」


「いや、お前も見事だ。少し前まで戦いの素人でありながら、ここまで食い下がるとはな。だが、そろそろ終わりにしよう。」

「いいえ、まだまだやれますよ!」


「ほう、ならば技も本気を出そう」

「えっ……」


「ふ、歴戦の戦士たるこの我が、この程度の技量だと思ったか? 甘いな」


 再びジェットして切り掛かってくる。しかし、今度は直線的ではなく、各部バーニアスラスタからの噴射でジグザグに動き、予測ができない。周囲を高速で回りながら攻撃を仕掛けてくる。たまに剣の軌道を捉えても、フェイントだったり突然動きが変わったりする。こちらから切り掛かっても受け流されてしまう。


「チッ…ならこうだ!」

「む、幻影か」


 幻影からの光屈折による透明化を組み合わせて、難を凌ぐことに成功。


「どれが本物⁉︎」


 頭上から三人のエイジが降り掛かる。


「どれもホンモノ!」

「ふむ…まだ技があるのか」


 三体とも大剣で薙ぎ払ったが、全てハズレ。しかし攻撃は食らった。要は、


「幻影に座標を合わせて剣を飛ばしたか。引っ掛かった、流石である」


「リングッ!」

「不意打ち時に声を出すな」


 エイジの声が飛んできた方向に、すぐさま腕を向ける。腕の装甲が軽く開くと、ビームシールドが展開され、難なく防ぐ。

「ほほう、私の与えた指輪を、改良しながら使い続けてくれているとは、嬉しいものだな」

「らぁっ!」


 近くの木から、剣を振りかぶりながら飛びかかる。


「バレバレ」

「かはっ…」


 かがんで躱されると、足を掴まれ、近くの木に叩きつけられる。


「相当、加減されてるなぁ…」


 飛びかかりの勢いをそのまま流しただけのようだ。本気でぶん回されれば、何本も骨が砕けていただろう。


「次は、こうだ!」


 停止して、今度は周りにいくつもの魔法陣を展開した。やはり魔王と言うべきか、その全てがランク4、5に相当する魔術だ。


「まあ、歴戦と言っても魔族の中では若い方なのだがな……人間からすれば十分歴戦と言えるだろう。それに、私は『魔界』の中でも指折りの実力なのだぞ」

「な、魔界? そんなものまであるのか…」


 エイジは驚いたフリをしながら、展開された魔術を防ぐに足る魔術をこっそり紡ぐ。話で時間稼ぎをしているのだ。


「ああ、魔界だ。我ら魔族の本拠地。そして迷える魂の行き着く冥府と同地。とはいえこの大陸よりは随分狭いが。ああそれと、我が幹部のおよそ半分は魔界出身だ。それに魔界だけでなく、いわゆる『天界』もあるぞ。未練や汚れのない魂は天界へ行き、そしてそこでマナへと還る」


 木下で動けなくなっているエイジに、いくつもの魔法陣を向けている。チェックメイトだ。それゆえに、ベリアルはペラペラと喋る。エイジの驚いている顔が可愛らしいというのもあるのだけれど。


「これらは神の権能、魔法によって作られた空間だ。実際この世界に存在し、知覚はできんが、無であるため観測はできる。ところで、防御の魔術はできたかな?」

「気付かれてた⁉︎ 気付いていながらも見逃していたと……これが強者の余裕か」


 自嘲するように笑い、そしてもう隠さずに全力で魔術を練る。


「さて、お前は四割と言ったな。これ以上の力は出さないのか?」

「出さないんじゃない、出せないんです。ここから先は力の制御がまだうまくできない。実質四割が全力です。これからのことを考えると暴走したくはないので、これ以上は、出せません」


「そうか、本気のお前と戦いたかったが、時期尚早だったか。では、そろそろ撃つぞ。3、2、1、ドンッ!」

「ぐああぁぁぁ!!!」


 魔王の魔術が放たれた。




 __………完敗だ。今のオレが使える力ではたった一回だけ変身したベリアルには勝てなかった。だが負けて良かったかもしれない。このまま人間とだけ戦って自分の力に酔いしれ図に乗るよりは、一度敗北を経験しておく事で頭が冷え、無謀な事をしなくなるだろう。さらに今の自分の力も測れた。ベリアルには敵意や殺意がなかったが、同じ強さで殺意を持った相手と当たっていたら危なかった。せいぜい逃げるのがやっとだっただろう__



「大丈夫か?」

「ううっ、はい。ありがとうございます。」


 差し出された手を握る。戦闘が終わったからか、ベリアルは変身を解いていた。


「それっ」


 さらに回復まで。


「お前はまだまだ発展途上だ。これからの成長に、期待しているぞ」


 肩を軽く叩き、高次元の闘いに圧倒されていた幹部らを連れ、背を向けて拠点へ戻って行った。頼れるその背中を見ながら、エイジは自分もいつか変身でも身につけてやろうと思うのだった。

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