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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅲ 帝魔戦争
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3 戦争準備 その二 ④/4

 次に向かう先は、エリゴスの管轄下。要は、兵器製造場である。


「お疲れ様で〜す…」


 睡眠不足、プレッシャーに緊張等のストレス、脳と能力酷使で頭痛などと、他人を労り甘やかす余裕など本来は無いほど疲労が溜まり、ややふらつくエイジ。だが、人目のあるところでは疲れを見せないよう気を張る。モルガンには偉そうにあんなことを垂れたが、実際自分はそんなことできていなかった。


「おう、エイジか。……元気無いのか??」

「いぃえ! まだまだ行けますともぉ!」


 空元気、テンションがおかしい。


「無理をするなよ? お主が倒れれば、合図を出す者がいなくなり、作戦は頓挫するのだからな」

「ええ、分かっていますとも。自分の限界は把握していますし、今日もこれが終わったら寝ますから」

「ならよいが…」


 エリゴスはひどく心配した。エイジの姿勢、足取りなどから疲労具合を察したからだ。


 そんな心配はよそに、資材採取用の馬車が出発すると聞きつけたエイジは、車にすぐさま飛び乗った。



 ポイントまでは、片道およそ一時間。その間、楽な姿勢をして仮眠をとった。その体勢、実はなかなか邪魔であるのだが、咎められる者はその馬車にはいなかった……。


 着いたぞ、という声にやや遅れて、エイジは馬車より降りる。目の前には森と岩山。切り株と不自然に削れた断面から、既に何度も使用されていることが窺える。


 着いた直後から斧やピッケルを振るっていた魔族の第一陣が、その仕事を一ブロック終わらせたところで

 ようやく宰相が動く。


 愛剣を取り出す。魔力を纏わせ、一閃。木は倒れた。


 試し斬りは終わり。使用予定の木に目星をつけると、スパスパと切っていく。その速さ、実に一本につき0.8秒。彼がいるだけで、作業効率は実に何倍にもなるのだ。


 ある程度やった、と思うとターゲットを変える。次は隣の岩山。


 ビームを撃って、ちょうど腕一本が通るほどの穴を開ける。そこに手を突っ込むと、ランク4地属性爆破魔術を設置。作業員を退避させ、発破。爆発に指向性をつけたことにより、石が粉々になるのを避けつつ、ちょうど良い大きさに砕けた。これをあと二、三回すれば、今回のノルマに達する。あとは運ぶだけだ。


 爆破した岩山の上に跳ぶと、下に人がいないのを確認し、手で引き剥がしたり、脚で押したりして下に落としていく。多少砕けるが仕方ない。そも、そのままでは大き過ぎて使えない。


 周囲を確認し、安全第一で作業を進めていく。そんな彼は、あるものに気付くと動きを止めた。


「あれは?」


 エイジの目線の先には、獣人がいたのだ。しかも数人どころではなく、かなり。作業用ゴーレムなどの使い魔に紛れ、運搬等の力作業を積極的に行なっていた。


 獣人たちには、モノづくりの知識や技能は無い。しかしながら、体力でいえば人間はおろか、ヘタな魔族を上回る。その力を活かしていた。さらに、優れた感覚で食料の確保にも貢献しているそうだ。彼らなりの方法で、魔王国に尽くしているのだ。



 宰相があちこち飛び回り、そして誰より早く効率良く作業を進めたために、予定時間の半分でノルマ達成。そしてその帰りは、重くなった荷物で足は遅くなるが、再び仮眠したエイジには関係なかった。むしろありがたかった。


 そんなこんなで資材が工場に着いた。しかしエイジの仕事は終わりではない。むしろここから。


 再び剣を取り出し、魔力を充填。青白く光り輝く宝剣は、なんと敵を斬るためではなく、加工用のカッターとして使われてしまうのだった。提示された規格に、なるべく合うよう切断していく。小さくなるよりは大きい方が良いと、大雑把に余裕を持って小さくしていく。その分の誤差は、あとで誰かが調節するだろう。


 そしてそれだけで終わりなわけはなく。次に取り掛かるは武器製造。武器の素材となる金属、それを錬金術の応用で還元し、また不純物の分離などもしていく。純度の高くなったものを、次は能力で変形させ加工しやすい形にする。深く集中しないと精密な変形は行えないが、大雑把な形にするだけでよいのであれば、この能力以上の効率を持つものはないだろう。さらに型に押し込みながら、流動するように変形させていけばさらに精密に変形を行うこともできる。


 エイジは完成させるまでの専門的な知識や技能を持ち合わせてこそいないが、その能力は加工に最適であるため、最も面倒な下処理をこなしている。そしてその効率には、単体で勝るものはおらず……。


 このようなことを、昨晩など時間を見つけては訪れ、手伝っていたのだった。



 そしてその夜、疲れ果てたはずなのに、逆に眠れなかった。また昼寝をとってしまったことも相まって、その目は冴えていた。そのため、時間を無駄にはするまいと、地図と作戦概要書を眺めつつ脳内シミュレートを繰り返し……気づいた時には、太陽は天頂にあったのだった。


 気付きすぐさま部屋を飛び出すも、秘書や幹部に見つかり次第部屋に押し戻される。実力行使による待機命令である(エイジほどの階級に命令を出せるのは魔王しかいないため実際は勧告)。何度も連れ戻されたため、ついに折れて大人しくすることにしたが、代わりにある予約を取り付けた。



 夕暮れ、初めて魔王抜きでの緊急幹部会議が行われた。議題は、プランの再確認と進捗報告、そして物資運搬ルートの相談と決定である。


 将軍、および宰相の口からプランの再説明とその補足解説がなされる。とはいえ補足はともかく、幹部ともあろうものが戦略を忘れるはずもなく、つつがなく終わる。


 次点、進捗報告。フォラスとエリゴスが中心だ。製造期間と輸送期間から鑑みるに、このままでもなんとか間に合うだろうとのことである。だがそんなことより宰相を驚かせたのは、本日から妖精国両陣営が作業の協力に入ったということだ。魔王国を認めたことはともかく、こうも早く到着し、しかも即戦力として余裕を大きくしたのであるから。


 そして最後の論点。輸送ルートだ。急遽開いたこの会議の最大の目的でもある。忙しくいろいろ忘れていたためであったが、明日に順次輸送を始めないと間に合わない計算なのである。


 境界線防衛戦、そして帝国偵察に向かうなど、最も多く通りつつ現代の最適化されたルートの敷き方をある程度心得た宰相が音頭をとる。なるべく正確な地図を参考に、地形などの条件も考慮し、最適なルートを決めていく。


 そしてルートがある程度決まり、先遣隊が目印をつけたマップを頼りに、目印となるフラッグやマーカー等を設置してとともに、中継地点となる野営地の設立も行うことも決まる。残るは、魔王による制圧がいつ頃終わるか、という話になったところで ダダン! と急ぐような雑なノックの後に


「皆様、ご報告です!」


 秘書シルヴァが飛び込んでくる。ということは、噂をすれば何とやら。


「魔王ベリアル様が、制圧予定だった村を全て陥落させました!」

「おお、さすがベリアル様だ! 予定通り、いやそれよりもやや早い!」


 報告を聞くとともに空気は沸き、そして暫くすると必然か、宰相に視線は集う。


「よし、では明日夜明けと同時に先遣隊を出発させる。それまでに、各々の部署の人員をどの順に派遣するか計画を立てよ。物資については私が協力しよう。そして先遣隊の隊長には、ノクトを任命する。他も編成が済み次第、漸次前線に送る。そこで訓練なりをする必要もあるだろうしな。さて、行動開始!」

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