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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅲ 帝魔戦争
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2 戦争準備 その一 ②/3

 戦略の大枠は定まった。あとの細かい部分や人員の選定についてはレイヴンがやってくれるだろう。よって今宰相がやるべきことは各署の進捗度合いを調べ、その援護に回ること。あとは将軍に頼まれた隠密行動のための策を練ることだ。


「ふむ……魔導院に頼み込んでいたあの兵装の確認ついでに新兵器の案を出すか。レイヴンは忙しそうだから…、代わりに魔王様に聞いてもらおう」



「魔王様、少々よろしいでしょうか?」


 ノックをし、玉座の間へと入る。そこにはやはり、魔王ベリアルが威風堂々とした様子で玉座に腰掛けていた。この間にはベリアル以外は誰もいないにもかかわらず。


「おお、エイジか。何の用だ?」


 まるで誰かが来るのを待ち侘びていたかのようだ。


「お手を煩わせることになり大変恐縮なのですが、どうか私の城内の見回りに同行していただけないでしょうか?」

「うむ、構わんよ。むしろ手持ち無沙汰で暇だったからな、喜んで引き受けようとも」


 ベリアルは即答すると、肩を回しながらすぐさま立ち上がった。



 宰相は魔王と共に城内を練り歩き、作業が目につき次第、所々に指示をしていく。そして当初の目的地、魔導院の研究室に辿り着く。


「おーい、フォラスさんや、頼んでおいたブツはできているかな?」

「おや、エイジ君か。ええ、君のおかげで大量生産の目処が立ちましてね、決行日にはノルマの30個より多く納品できましょう。」


「そいつは上々。それがなければこの作戦はうまくいかない可能性が高くなってしまうからな。」


 フォラスの報告に満足した様子のエイジ。


「ほう、そのブツというのは?」

「これです」


 ベリアルの問いに、エイジはフォラスが持っていた石を受け取って示した。


「見た目は石みたいですが、魔術が刻まれた魔道具で、主な用途は通信になります。オレの世界においてトランシーバーと呼ばれているものに類似してます。コイツを各部隊長に持たせ、私の指示を迅速に、同時に伝えるようにするつもりなのです。そうすることで伏兵を動かすタイミングを思い通りに合わせられる。足での伝令は時間がかかったり見つかったりするリスクがありますから。これ無しで戦ったら、各部隊がジャストタイミングで動いてくれるとも限らない。というかそれは現在の魔王軍の練度ではご存知のように間違い無く不可能。よってこれが有れば作戦成功率がグンと上がるわけです。ですが当然、これに伴う問題点もあります。例えばこれが敵に奪われた場合作戦が筒抜けになるかもしれない。そしたら作戦はほぼ失敗するでしょう。」


 能弁に、自慢するように語る。そんな話をベリアルは興味深げに聞いていたが、その後ろで肩身狭そうにしている者が。


「あのー、盛り上がっているところ申し訳ないのですが……」

「うん、どうしたんですか、フォラスさん?」


「先ほど計測してみたところ、量産型ではこの城から城下町の入り口までしか通信出来なくてですね…」

「何だと⁉︎ それではあの都市を跨いで端から端までは通信が届かないじゃないか!」


 魔王城から城下町までというと、2〜3kmあたりである。対して帝都は直径5km近くある。


「そうなんですよね。」

「改善策はあるか⁉︎」


 さっきまでの様子とは一転、エイジは非常に焦っている。


「ふむ、生産量を減らして一つ一つを強力にしますかね。しかしそうすると他の武装の生産との兼ね合いもあるので、ノルマに届かなくなる可能性が…」


「現場で使えないよりは構わない! 10個でもいいから作ってくれ!」

「は、はい…承りました。」


 何事も思い通りにはいかないものだ。ここまでが順調すぎたのだ、と痛感したエイジである。


「あっ、待って下さい!」

「ん? どうしました…?」


「この物体を帝都内に設置して頂ければ、これが中継してくれますが……」


 フォラスが指した先には、アンテナのような棒が上面から生えている、真っ黒い立方体が存在していた。


「ヨシ! どうせオレが帝都内に侵入する予定だったんだ。召喚能力もあるし、設置はすぐに終わる! 戦争後に回収も可能だ!」

「では、その方向でいきましょう。それなら間に合いますから。」


 同僚の優秀さに救われた形になった。


「いやしかし、助かりましたよフォラスさん。これができなければ、あの作戦は成り立ちませんでしたから」


 ホッと一息、落ち着いたエイジ。


「いえ、これが我々の仕事ですから。戦場に出ない代わりに、多少は役立ちませんとね」


 そこに、いつもマッドじみた態度の学者はいなかった。


「あ、そうだフォラスさん。研究所、見学してもよろしいでしょうか?」

「別に構いませんが……お二人とも、随分と暇そうですねぇ」


「まあね。私の仕事はレイヴンや兵站の仕事が進まないと無いものですから。さーて、帝都接近用のステルス装備の参考になるようなのないかなぁ〜」


 軽い足取りで奥へ向かおうとするエイジ。そんな彼を追うように研究所の扉が開くと、


「エイジ様、やっと見つけましたよ」

「はひっ⁉︎」


 凍て刺すような声に、身を震わすエイジ。現れたるは、銀の方の秘書。


「貴方しかできない仕事が溜まっています。早く仕事してください」

「すみません魔王様あぁ〜〜……」


 襟を捕まえられ、情けない声を上げながら引き摺られていくエイジ。そんな様子を微妙な表情で眺めることしかできない二人であった。


 エイジが去り、顛末を見ていた者たちによって静寂になった研究所。先程のなんとも言えない光景に未だ戸惑いつつも、ベリアルはフォラスに声をかける。


「フォラス、私にできることはあるか? 魔術は得意分野だし、何より暇でな」

「でしたら、あのアンテナの調整作業を手伝っていただけますか? 複数個、用意する必要がありましてね」

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