幕間 ダッキの魔王城生活①/2
「只今帰ったぞう!」
獣人族達との交渉が行われた日の夜。族長が馬を貸してくれたおかげで、獣人達を連れて当日中に帰宅(帰城)することができた。
「おお、もう帰ったのか。相変わらず仕事が早いな」
エイジたちがの姿が上から見えたのだろうか、ベリアルは城門にて迎えてくれた。
「はい、これ契約書です、魔王様」
「確認した。ご苦労だった。で、お前の背後にいる彼らは?」
初めての魔王城に、ウズウズしている獣人たちのことだ。ベリアルと獣人たちは、お互い興味深そうな目で見合う。
「労働力という名目で魔王城に招待しました。是非彼らには魔王国がどんなものか知って頂きたく。今日は彼らに三階の宿舎を貸してやってください」
「基本私は、お前がしたいと言うことに、理が適っていれば異は唱えない。好きにするがいい」
「はっ! ありがとうございます、陛下」
そのまま獣人たちは、一階エントランスで待機。その間エイジは城中を駆け回り、数名部下を引き連れて戻ってくる。
「おい、君たち、彼らに城を案内してやってくれ」
「は、はぁ。かしこまりました」
そして部下に、めんどくさい役割を押し付けた。本来獣人は魔族語とは異なる形態の独自の言語を持っているが、ここでは不便なため、彼ら獣人の代表者であるシャルに翻訳の魔術をかけておいた。もちろん、部下たちの方にも。そして獣人達が全員いなくなったところで、再び執務室に向かった。ただ、一人だけついてくるヤツがいたが。
「へぇ、これが魔王城ですかぁ。面白いですわ、ご主人様」
ダッキだ。彼女は特例で、獣人っぽいが正確には幻獣であり獣人族ではないため、基本エイジと行動を共にすることになった。それに、馬車の中で垣間聞いた彼女の逸話と、あの実力の前に、目を離すことなんてできないだろう。
そして、半日しか離れていないが、懐かしく感じる執務室の扉を開ける。今日はもう終業時間、お疲れ様の挨拶くらいはしようと向かった。そこには、当然のようにシルヴァがいた。
「お帰りなさいませ、エイジ様。秘書シルヴァ、並びに統括部所属員、貴方様の帰りを心待ちにしておりました。ですが、護衛である私に声のひとつもかけずに勝手に外出されるのはいかがかと存じます。……ところで、貴方の腕にひっついている、その方は?」
「わたくしはぁ、新しい彼の専属秘書ですわ、てへ⭐︎」
「な、秘書……⁉︎」
ガーン! という効果音がふさわしいほどにショックを受け、固まるシルヴァ。秘書ポジションを取られるのが、そんなにイヤなのか。
「コイツのタチの悪い冗談だ。気にするな、シルヴァ」
「じ、冗談ですか……まったく驚かさないでください」
「わたくしは本気でしてよ、ウフフ」
「な⁉︎」
普段の雰囲気からは想像出来ないほどに、シルヴァは動揺していた。秘書という立場を気に入ってもらえたのだろうか。エイジには珍しいし見てて面白いが、同時に脅威も感じる。やはりダッキは人を誑かすことが得意らしい。気をつけねばならぬ。
「ところでダッキよ。秘書になるということは、オレの手足としてこき使われてもいい、ってことだよな?」
「はっ、しまった!」
どうやら目先の人をイジる事だけ考えて、後先はあまり考えないようだ。こんなだから封印されてしまうんだ、そう思わずにはいられない。
「い・い・よ・な?」
「は、はいぃ‼︎」
「承諾したな? 言質取ったぞ」
「あっ、やってしまいましたわ‼︎」
どうやらコイツはボケもツッコミも、イジりもイジられもいけるらしい。
「なるほど、コイツは有能」
「どこがですか‼︎ あ〜も〜、コイツの前だとなんか調子狂うなぁ……」
「コイツ呼ばわりかよ。まあ、それはオレに惚れたからだろ?」
「えっ! あ、ああ、そうでしたね……アハハッ…」
これまた言質。命乞いで言ったあんなことやこんなこと、エイジはしっかり覚えている。それに一度は退け、幹部たちの助けを借りられる今なら、例え幻獣に対しても強気に出られる。逆らったり抵抗されても、余裕で取り押さえられるのだ。
「ところで、オマエ今日どこで寝るんだ?」
「え、それはぁ、ご主人様と一緒に!」
「そうか。どうせオレと一緒に寝れば、良い布団にありつけるとか思ってるんだろ?」
「ギクッ!」
「……__わかりやすいなぁ、いや、元から隠す気がないんだろう__まあいいさ、今日は許してやる」
「やったあ! 愛してますわ、ダーリン!」
「明日には部屋を手配してやるからな!」
「エイジ様と添い寝……」
シルヴァが何かブツブツ言ってる。魔族化に伴い聴覚が良くなったエイジには聞こえてるのだが……空気を読んで、聞かなかったことにする。
「ぎゅうう!」
そんな彼女に見せつけるように腕に抱きつくダッキは、煽る気満々だったが。
そんなやりとりがあったものの、それ以上は大事になることはなく。そして二人は寝室へ。
「あのぉ、わたくし体を洗いたいのですけれど。ほら、戦闘で全身埃まみれですし、長い間封印されていたので」
「残念だが、魔王城に浴場はない」
まだ、無い。設置予定の地下三階は、まだ壁作りの途中である。
「え、てことは……皆さん不潔⁉︎ うわぁ……」
「いや、ちゃんと体と服の汚れを浄化する魔術がある。戦闘中に一度見せただろ。みんなそれを定期的に掛けているのさ」
ちなみに彼は、午前と午後の9時に、一日二回やっている。
「じゃあ、掛けるぞ」
エイジは呪文を唱えて魔術をかけてやる。本来ならばこの魔術は、魔力消費量はランク2程度だが、術式の難度はランク5から6、上級魔術に相当するわりかし高位なものである。実際に一人で一から組み立てるとなると、複雑すぎて挫折する。しかし、この魔術は研究が進んでいるので今ではかなり簡略化され、難度は3〜4程度になっている。風呂嫌いや綺麗好きな研究者たちの熱意が見えるようだ。
「なるほどー。便利ですねぇ、これ」
「オレも風呂は好きなんだがな。効率で考えるとこちらの方がいい」
「おや、風呂に入ったことがあるんですの? 風呂なんて結構珍しいと思いますけども」
「ああ。実はオレ、この世界出身じゃなくて、異世界から来たんだよね」
「フォッ⁉︎」
「クス」
「いや、なんなんですのそれ⁉︎」
「ついやってしまったぜ……」
__しかしコイツ、意外と可愛いな。猫派から狐派に移ってしまいそう………はっ、もう既にオレはコイツの毒牙にかかってしまっているのか⁉︎ しかし、あのモフモフの尻尾はズルイと思う。こんなん絶対モフりたくなるに決まっているだろう!__
「ま、今日は疲れたし、もう寝ようか」
「そ、そうですねぇ…………遂に…この時が。どうしましょう……どうされちゃうのかな……」
どうやら、不安と期待の入り混じった複雑な心境らしい。エイジはそんな彼女を促すと、自分も布団に入る。そして、ダッキに抱き付く。
「ひやぁ⁉︎」
ダッキは変な声を出し悶えていたが、エイジが暫くそのままにしていると、受け入れたように動かなくなった。
「わ、わたくしも準備ができましてよ……。さ、さあ、旦那様のお好きにどうぞ……」
「じゃあ、存分に堪能させて貰うとしようか!」
許可はもらった。ならばと左手で背中を触り、右手手で尻尾を撫でる。そして顔を頭に押し付け深呼吸。フワフワモフモフの触感に癒されつつ、獣らしさと女の子の感じが混ざった香りに包まれて……最高にリラックスした状態で、彼は寝た。
「え⁉︎ 何もしないんですの⁉︎」
意識が落ちる直前、そんな声が聞こえた気がした。
翌朝、エイジはフワフワモフモフの抱き枕のおかげで快眠であった。当のフワフワモフモフは、あまり眠れていない様子であったが。
そして、彼はある失念をしていた。目の前のフワフワモフモフを早く堪能したいがために、そのことで頭がいっぱいになっていたのだ。というのも、朝になれば当然彼女達が来て、そして当然このフワモフの存在に気がつくわけだ。
「ご主人様、おはようござい……え⁉︎」
敬愛する主の布団に見知らぬ女が居れば、それはさぞかし驚くことだろう。
「この女性は、一体…?」
「ああ、コイツは__」
「ご主人様の愛人! ダッキでございます!」
何か説明しようとする前に、トンデモナイ爆弾を投下しやがった。
「あ、愛人⁉︎」
「オイオイ……」
少ししおらしくなったかと思えば、すぐこれだ。そんなダッキの頭を、拳骨で軽く小突く。
「コイツは、昨日獣人族の村で出逢ったヤツでな、コイツの分のベッドが無かったから仕方なく、仕方な〜く一緒に寝たんだ」
「ご主人様ひっど〜い! わたくしを捨てるのですか⁉︎ あんなことやこんなことまでしておきながら! グスッ……」
迫真の演技()だ。しかし、白々しさを感じられるのは、エイジがある程度知っっているからこそ。メイド達はどちらを信じればいいのか迷っている様子。エイジとしては、メイドとして迷いなく主人を信じて欲しかったが、悲しくなる。
「オレ、信用ないなぁ……」
「そ、そんな事はありませんよ!」
今度はエイジが落ち込んだフリをすると、必死に取り繕うように言い訳して宥めるメイド達であった。




