2 制度改革 〜部署制定
「では、城内改革、その二を始めたいと思いまーす……」
パチパチパチパチ……とやや乾いた拍手が鳴る。ややみんな疲れ気味のようだ。あれほどの大工事であれば、さしもの幹部も疲れるというもの。さりとて、宰相以上に疲れている者はいないが。大魔術を放ったり、各所を走って指示を飛ばしたりと……。睡眠不足で魔力不足、さらには魔力が桁外れといえど人間の体である。加えて国を背負い、責任を負うという精神的な負荷もあり、その負担は計り知れない。
「さてと…今度もまた大きな改革になりますし、やりたいことがいっぱいあるんですが……やっぱり本当に大丈夫ですか? 新参者の私が色んなこと変えてしまって」
しかしそんな彼は自分の身の心配より、そちらの方が気になっているようだ。
「大丈夫だ。気に病むことはない。この国のことは好きにやれ。昨日までのお前の働きを見て思った。お前は、本当に我らのために熱意を持って働いてくれたと。そんなお前だから、任せられる。それに私や幹部達は長い時を生き、熱意が冷め、固定観念によって思考も固まり、現状に満足してしまっているところがある。我ら老ぼれのことは気にするな」
「そ、そんなことは……」
認められているのは嬉しいが、その期待は重圧。そして、ベリアルの自嘲に慌てる。
「ふっ、安心しろ。肉体的にはまだまだ衰えておらん。お前という一陣の新しい風が吹くことで、我らも触発され、また活気あふれるというもの」
「ッ……承知いたしました。その期待に応えるべく、全身全霊、励ませていただきます!」
斯くも期待されたならば、やらないわけにはいかない。しかしさすがに…
「ですがすみません。今日は指示し終わったら寝ます。さすがに疲れました」
「いいさ、気にすんな。お前が一番頑張っているのはみんなよく知ってるからな」
労ったのは、まさかのレイヴンである。やはり距離感おかしいのではないか。
「じゃあ、お言葉に甘えて後で休むよ。では指示を出そう。昨日までのはハード面の改革だったが、今度はソフト面の改革といこう。君ら幹部八人に、それぞれの明確な役割を与えたい。それだけじゃない。魔王城に勤務する者達を、君たちそれぞれ直属の部下として指名し、所属を整理する。さっきの工事も感じたことだけど、今は区分があやふやだからな」
幹部らは折角のスペシャリストにも関わらず、部署というか、それを活かせる立場が定まっていない。魔王城の者達でさえ、誰が何処をやるか、いちいち相談していたのだ。それでは、時間の無駄となろう。
「まあ、今決めるのは私の独断と偏見による暫定で、合わなかったり問題が起こったりしたら、適宜変更や増設など検討しようと思う」
その言葉を聞き、場の空気が引き締まる。幾人かは緊張しているようだ。
「では、まずはレイヴン。あんたには管制を担当してもらう」
「管制? それは何だ?」
「役職はずばり軍隊への指示司令。つまりは総司令だ」
今のところレイヴンは、将軍と呼ばれている。戦闘力に戦術眼、指揮能力などは側から見ていても幹部随一。戦場経験も最も豊富だろう。自ら戦線に立ち、全体に指示を出すのにはもってこいの人選。
「ほう、大して今と変わらないのか?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。例えばだけど、今まで率いていたのはあくまで隊。でもこれからは、この国全ての軍に指示を出すことになる」
「つまり、規模が桁違いということか」
「そう。レイヴン総司令率いる管制室として、これからは前線の指揮だけでなく軍全体の維持や管理、軍に所属する者たち全員の行動を委ねる。多分これから、戦争をする機会も増えると思うからね」
「お、おう。なかなか責任重大だな……」
今まではあくまで一つの戦場の指揮官に過ぎなかった。だがそれは今や、一つの国家の軍隊全てを率い、管理する者へとなる。その責に、レイヴンでさえ張り詰めた面持ちだ。
「次にエリゴス氏。あなたの担当は兵站部です。軍、ひいては魔王国全体の物資の調達や運搬、生産に管理、さらには他部署と協力で兵器開発を担当してもらうことになります。それだけでなく、インフラの整備や新兵の育成も任せたい。多忙だが、任せられますか?」
「承知した、喜んで引き受けよう」
エリゴスは落ち着いた様子で、されど自信もあるように大きく頷く。
「兵站は管制との緻密な連携が不可欠。情報交換や相談などを欠かさず行って下さい。そしてエレンさん、あなたには観測をしてほしい。軍事関連で言えば、敵の調査、斥候が主な仕事です。つまり先の二つと連携して行動して頂くことが前提です。また、戦闘関連だけでなく、地図の作成に、植生や生態系などの調査全般を担当して貰いますが、構いませんか?」
「アア、引キ受ケヨウ。一部至ラヌ点モ、アルカモシレナイガ」
「その時は遠慮なく異動を申し出て下さい。そしてノクト、アンタは医療担当だ」
あくまで謙遜のような感じであったが、思い違いがあっても困る。はっきりと告げたのち、のほほんとしている野郎に視線を向ける。
「医療ねえ…」
「治癒魔術、割と得意だろ? 死霊術師だから体の構造にも詳しい筈だ。ケガの治療だけでなく、病気や薬についても研究したりして欲しい」
「めんどくさいなぁ。自分の研究だけしてたいけど……まあ、任せられたからには頑張るよ」
フラフラとしているために、束縛されるのを嫌っている様子だったが。仕事の一部は趣味の分野と重なるし、何より幹部に任命されるだけの責任能力がある。口調とは裏腹に、しっかり仕事をしてくれるだろう。
「そしてフォラス、あなたは魔導院だ。つまり魔術や魔道具、魔導兵器に関する研究」
「おお、まさに私にピッタリの役職ではないですかあ!」
「研究で軍略に役立ちそうなものがあったら兵站と相談して実用化したりしてくれ」
「かしこまりました!」
過去一ノリノリである。他の幹部達が少し羨ましそうに見ていた。
「メディアさん、あなたには情報を担当して欲しい。各部署から入ってくる情報を整理、保管してもらう。あと図書室と魔導書の管理も頼む」
「……………」
やっぱり感情が読みにくい。だがまあ、拒否はされなかった。仕事をこなせないようなら、別に回せばいいだけのこと。
「沈黙は肯定と受け取らせてもらいます。さて、ではモルガン。君には人事を任せたい。この城で勤める者や、市民たちを把握、データの管理が主な仕事だ。それと、治安の維持のため、争いの調停、彼らの意見や不満、生活の状態などを調査する事」
「あら、ワタシのだけ、なんかつまんなそうだしィ、大変そ……」
「一見地味だがとても大切な役職だ。まあ、オレが手伝うし、できる限り頑張って欲しい」
「は〜い」
本来は宰相がやるべきでもあるのだが、流石に手間がかかり過ぎる。あんまり期待はしていないが、例によって魔王の信任を得た幹部である。一定以上の仕事はこなすと見て間違いない。
「残るはゴグだが、まあアイツ……彼は前線担当のままでいいだろうな。敵の監視と本隊が到着するまでの前線維持だ。帝国の脅威がある今、防衛線の放棄はできない」
これで全幹部の任命は終了。彼らの立場は大臣のようなものだ。
「どうかな? 緊張するほどじゃなかったろ。それぞれの得意そうな分野にしたからさ。以前とやることはそんなに変わらないけど、役職をきちんと明分化して固める必要があった」
そして残るはあと二つ。宰相と魔王だ。
「そしてオレは統括だ! 宰相として政策を立てるほかに、幹部率いる各部署をまとめ上げる役割だ。各部署へ指示を出したり、情報の整理や共有をしたりする。後は王国の財源の管理など。何かをしたいときには相談したり、重要な情報があったら報告をしてくれ! ……いやしかし。ふふっ、まさか総務の経験が、こんな所で役立つだなんて。人生何があるかわかんないなぁ」
不当に飛ばされた総務課。そこで社内の様々なことを押し付けられ、奔走し忙殺された日々。少しは楽になるだろうか、と慣れるために真面目にやっていたが。その努力は、全く繋がりのない地にて実を結んだのだ。
「そして、魔王様ですが……」
「ふむ、私はどうすれば?」
「玉座で踏ん反り返っていてください」
「!!?」
どんな大役が任せられるのか。そんな期待をしていたらしきベリアルは、肩透かしを食らったように驚いている。
「魔王様は国家の象徴。いるだけで意味があるんです。まあ、何か大きなことを起こす時の号令役であったり、国の一大事のときには全魔王国市民への絶対的な命令権、勅令を下していただくなどの仕事はありますが。まあ、余裕があるようでしたら、皆の仕事を手伝っていただけると、有り難いです」
「う、うむ、そうか。仕事が減り過ぎてなんか、こう、アレな気もするが……」
慈悲深きこの王は、下々の者だけが汗水を垂らしている中、自らは座すのみである、ということができないらしい。だからこその人望でもあろうが。
「さて、今日と明日のあなた方の仕事は、移動です。各部署と折り合いをつけて、城の何処の部屋を主な職場にするか決め、そこに道具など設備を移動してください。そして魔王城勤務の者達を、統括を含め前線を除く八つの部署に分けてください」
「本当に大掛かりになるな」
「……ワタシの仕事、タイヘンなコトになりそうだわァ……」
「配分は、一番多いのは兵站になるように。そして、一番少ないのが統括になるよう調節していただきたい。数十名で構わないので。特に総務は国の中心でございますので、優秀な者達を優先、少数精鋭でお願いいたします。それ以外はまあ、ご自由にどうぞ。ああそれと、それらの部署とは別に、城内の管理人として料理や掃除など雑用担当の者、即ち召使い。執事やメイドなどの役職も作り、増員して頂きたい。基本的に彼ら彼女らには、兵站所属寄りの中立でいてもらうよう。あと、オレは専属の秘書が欲しい! 以上!! オレは寝る!!!」
話したいことは話したし、皆納得した模様。ならばと叫ぶや否や、エイジは部屋から出て、自室まで早足で向かい。そしてベッドに飛び込み、ほぼ丸一日熟睡したのだった。
翌朝目を覚ましたエイジは、日付が変わっていたことに愕然としつつも、最近定例と化している朝の幹部集会に向かおうと部屋を出て。まず最初に目に入ったのは、さまざまな種族の者が忙しなく城内を動き回っているところだった。仕事が早いことに感心しつつも、幹部の彼等はまさか寝てないのでは、と心配になったのだった。魔族だから大丈夫なのだろうけど。




