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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅺ 原初の神
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一節 戦闘開始 ①

「対空長距離砲撃、撃ち方はじめ!」


 高射砲が火を吹き、上空を越えんとした魚どもを撃ち落とす。


「中距離爆弾、発射ァ!」


 ポッドが展開され、次々とロケット弾が打ち出される。それらは接触直前に空中分解、広範囲に爆弾を散布して大規模な連鎖爆発を起こしていく。


「破城槍、射出!」


 号令直後にレバーが引かれると、地中より何本もの長大な杭が打ち出される。直上にいた者たちを串刺しにする強力な物理攻撃であると同時に、敵の侵攻を食い止める防壁としても作用した。


「小銃隊、前へ! 斉射用意……狙撃戦開始!」


 それら飽和攻撃を潜り抜けてくる魚どもは、狙撃銃で狙い撃つ。それさえ漏れるようならば、機関砲で蜂の巣にされていく。



 迎撃準備開始より三時間、戦闘開始から約一時間が過ぎた。まだまだ敵はほんの氷山の一角に過ぎないとはいえ、目視可能な範囲で数十万、小銃の射程距離内にも既に数万匹と、その戦力差はざっと百対一である。


 しかし、それでも魔王軍は難なく迎撃し、戦線を維持している。その戦果を実現しているのは、軍隊の卓越した練度、非常に質の高い兵器の数々だ。


 帝魔戦争後、革命期頃から始まった軍事改革と、その指導や訓練の賜物か、他国の正規軍と比べてもまるで劣らぬ統率力を発揮していた。また、迎撃予定地点に到着してからも、彼らは実のところまるで休む様子もなく、黙々と迎撃設備の配備をしていた。その蓄積してきたノウハウと、準備の甲斐であろう。


 そして、何よりも、その場にいる最高戦力が別格すぎた。


「よし、そいつらはオレの獲物だ。任せな!」


 彼が携えているのは、全長5mを超える巨大な砲。


「第五中隊、第二七小隊、退避せよ!」


 トリガーが引かれ、眼を灼かんばかりのプラズマが発露された一瞬後、空を裂く閃光が迸り、その先にいた標的、幻獣級たる鯨の体に風穴をぶち開ける。勿論その余波で周辺の雑魚共も蒸発した。


 その兵器は、所謂レールガン。動力源として魔晶石、使い手の魔力、更には周辺の魔力もありったけを吸収して放たれる。それによって、幻獣さえもこの通り一撃で屠るだけの威力を発揮した。


「チッ、オレがもう一人いりゃあいいんだけどな」


 それだけに、一射一体は勿体無い。連射が効かず、燃費も悪いため、敵を誘導して一直線にしたのち放つ一石二鳥が好ましくはある。だが、戦力は温存したい。そのため、まだ幹部を投入するわけにもいかなかった。砲撃が必要な敵が現れるのはおよそ三分に一度、冷却時間とほぼ同等であることは幸いだったが。


「さて、排熱とメンテナンスを。次に備えろ」


 技師らに整備を任せると、砲を飛び越え白兵戦を始める。何十もの銃火器を展開し、圧倒的な面制圧射撃を行う様は、正に破軍宰相の異名に相応しい。


 更に、その命中率は八割を超える。彼自身の五感の鋭さ、高精度の未来予知、視野視点の広さによるものだ。特に脳魔力波による空間把握能力は飛び抜けている。


 莫大な手数で以て、中距離における絶対的な強さ振るい、埒外の火力で以て、強力な対象を速攻で沈めていく。討伐数は単独で全体の二割程度であるが、貢献度はそれよりも高いだろう。


 だが、彼とて無敵ではない。


「少しかっ飛ばしすぎたか……疲れてきたな」


 銃の機構は自動火器となっており、トリガーを引く動作も脳魔力波で代替できるシステムを搭載したことで、以前とは操縦性が段違いに向上している。しかし、移動や保持、射角調整などには念力を使用しているため、武器の運用に少なからず魔力を消耗し、そのコントロールのため集中力も削れていくのだ。加えて、機関銃など一部の固定砲台も彼の魔力波によって制御されている。弾を無駄にできぬとある程度の命中率を確保しようとする貧乏性も足を引っ張り、彼自身の疲労を加速させる。とはいえ、恐怖など持ち得ぬような魚に牽制射撃は意味がないので、その判断は賢明であるのだが。


 そして、やはりというべきか、兵力差が大きすぎた。彼一人で広域をカバーできるとはいえ、それは戦場全体ではない。どうしてもどこかで綻びができてしまう。空いた穴を埋めようと対処しているうちに、他のところでも問題が起き、手が回らなくなっていく。


「エイジ様! 敵勢力が危険ラインに到達しかけています!」

「仕方ねぇ、一度仕切り直す!」


 そういうや否や、レールガンにも劣らないほどのサイズを誇る、黒い箱状の物体を取り出す。それは、嘗て何十kmもの射程を有する砲撃を以て地形を根こそぎ書き換えたもの、の改良型である。


 出現した直後より、それは変形を開始。上下に分離されたレールが姿を表し、エネルギーが高まっていく。


「出力20%、圧縮率78%……」


 デジタル化された計器を確認し、専用の砲架を以て照準を定め__


「照射開始‼︎」


 凝縮されたエネルギーが解き放たれた。粒子砲を薙ぎ払い、敵を一掃する。以前とは出力が大幅に異なっているとはいえ、元々の最高出力が非常に高いこと、そして改良による威力の底上げによって、容易に敵を消し去っていく。


「追撃!」


 十秒強の砲撃で前方120度を更地に変える。直後、対空一斉射撃を行い、敵陣より飛び出た箇所を殲滅して、一気に押し返す。


「今だ! 体勢を整えろ!」


 彼の号令を聞くまでもなく、兵士達は手際良く各々の職務を遂行する。負傷した兵士の救護、陣形の再編、弾の装填、兵器の点検、武器の回収を素早く完了させて、再び安定した戦線維持を行えるようになる。


「エイジ様! 一度休んでください!」

「ああ、そうさせてもらうつもりだ」


 展開した武器を回収し、彼以外に扱える者がいないために無用の長物と化した大型兵器も収納する。そして、完全にリフレッシュするために、砲塔などの制御も一旦手放した。


「引き継ぎ、用意!」


 だが、折角の兵器が沈黙することはない。兵士達が乗り込み、手動による操縦を開始。また、負傷した兵や疲労した者と交代するように控えの部隊が現れた。エイジも先鋒隊の撤収に合わせて後方へ移動する。


「この調子なら、もう少し保ちそうかな」


 号令が響き渡ると、中距離一斉砲撃が為され、敵の波が大きく削られる。押し寄せる数も若干減っているのか、戦況は人類側が優勢。


 さらに、士気も弱まってはいない。通信網整備のおかげで、他師団や後続の部隊配置など、戦闘準備の進捗が伝わっているのだ。例え押されても応援が居る、或いはそれが終わるまでは引けないという意志ある限り、彼らが折れることはない。


「……いや、その油断が命取りだ。序盤も序盤、ここで押されていては後が思い遣られる」


 銃火と怒号響き渡る戦場を背後に、休もうにも休めぬ心境のまま、彼は前線を後にした。



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