4節 ユインシア ③
エイジが異なる世界より来たということ、そして現在の世界情勢を聞いたユインシアは、その情報の多さと突拍子のなさから目を白黒させていた。
「ざっとこんなところだ。理解できたか」
「はい…………私は、決めました」
その混乱から立ち直った彼女の瞳の奥には、ある強い意志が宿っていた。
「私にも、世界を守るお手伝いさせてください!」
その申し出には驚きこそすれど、意外ではなかった。
「ただ一人生き残った私は、何を託されたのか、何を願われたのか、考えてみました。その、私なりの答えは……未来の人たちのお役に立つことです!」
エイジは目を瞑り、時折頷きながら黙って聞いている。それは、どこか満足そうでもあり。
「みんなから託されたこの力で、今度こそ、何かを守りたいんです!」
「ふむ、そうか」
エイジは値踏みするような視線を向ける。
「ならば、歓迎しよう。神の力であれば、大いに役立つことは間違いないからな」
ユインシアの表情に喜色が浮かぶ。しかし、エイジの雰囲気は変わらない。
「だが、その前に問おう。お前は何ができる」
厳しい面接官のように見据えて、強めの語気で問うた。
「ええと、私の力は……」
彼女は自信なさげに目を逸らしながら、ポツポツ話し始める。
「味方を強化できる結界が張れます! ええと、一応魔術じゃなくて__」
「ああ、なんとなく理解できる。術式なしに、念じた通りに強化内容、効果範囲を指定できるのだろう。魔法とはそういうものだ」
「は、はい、そうです! それから……周囲の岩や金属を操作したり……植物を操ったりとか__」
「もう少し詳細に。岩の方は、地形を変えたりできるってだけか」
「えっと……」
「特定の種類の鉱物だけ分離して取り出すってのは」
「で、できます!」
「植物は、成長させるだけか。思うまま触手のように動かしたり、新種の植物を生み出すことは」
「できます!」
「ふむ。他には」
すると、ユインシアは両手を掲げる。そこへ虚空より金の器、聖杯が現れた。
「これは、私の神器なんですけど……これに魔力を込めると、物質が作れるんです」
「なるほど、それは有用だな。現代の魔術で生成可能なのは、原子番号35番の臭素までだ。しかも、複雑な分子や一部の原子は錬金術として作り出すのみであり、他の魔術に組み込むなど不可能。それを魔法として魔力の限りいくらでもできるというなら、文字通り金を作り出すことすら可能か」
「あ、あとは……魔道具が作れます」
「具体的には」
「ええと……お料理に強化効果をつけたり、お飲み物を回復薬にしたり」
「なるほど。使い切りのマジックアイテムを作れるってわけだな」
そこまで話すと、ユインシアは口を噤んで俯いてしまった。
「私ができるのは、こんなことだけです。味方の支援とか、物作りとか、そういったことしかできません……」
「以上か」
「はい……」
最後まで、エイジの雰囲気は変わらなかった。失望されたか、とユインシアは落ち込んだ。が__
「欲しい‼︎」
一転、エイジの表情は輝いていた。
「素晴らしいじゃないか! 何を卑下することがある! ちょうど欲しいと思っていた人材だ!」
「え? え? ええっ⁉︎」
対する彼女は、態度の急変に戸惑っていた。
「で、でも私、戦えません……臆病ですし、力も強くないし、魔術も慌てちゃって全然__」
「別に戦うばかりが役に立つことではない。資源を生み出し、物資を与えることも人の役に立つことだ。お前が生み出し加工した道具で、皆の生活を豊かにすることができる。戦場に出ずとも武器を作ったり、支援を撒くだけで十分な戦力の向上が見込める。すごいことなんだよ!」
逃がさないとばかりに目をしっかり見つめ、手を取り力説する。
「オレからも頼む! 是非とも、オレたちにその力を貸してほしい! キミが必要なんだ‼︎」
そんなことを言われてしまったユインシアはというと……潤む目を見開いて、息を詰まらせつつ、顔を紅潮させていた。
「……ねえ、聞こえた?」
「ああ、バッチリ」
苦笑いしつつ、外野と化していた面々がヒソヒソと話始める。地獄耳エイジはそれをバッチリ聞き入れて。
「あ、何のことだ? どんな音がした」
「恋に落ちる音が聞こえました」
途端にユインシアがあたふたと挙動不審になる。そしてエイジも経験者、そこまで言われれば流石に察する。
「あー、わりぃな」
「でも、無意識なんだろう?」
「責任、とってあげなさい」
「いいのか?」
「ウェルカムだ!」
どうやら彼女たちの方も歓迎ムードのようだ。最初の対応からしても薄々感じ取れていたことではあるが。
「私達からも、お願いします。仲間に入っていただけますか?」
「は、はい! 喜んで!」
「では、これからよろしく頼む」
「でも、ライバルですわよ」
「彼に相手して欲しかったらぁ、ワタシたちに魅力で並ばないといけないのよ?」
「う、うぅ……がんばります!」
「うん、その意気だ!」
ユインシアは微笑ましく受け入れられて、早くも友情が出来上がり始めてきたようだった。




