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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅸ 越冬準備
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4節 ユインシア ③


 エイジが異なる世界より来たということ、そして現在の世界情勢を聞いたユインシアは、その情報の多さと突拍子のなさから目を白黒させていた。


「ざっとこんなところだ。理解できたか」


「はい…………私は、決めました」


 その混乱から立ち直った彼女の瞳の奥には、ある強い意志が宿っていた。


「私にも、世界を守るお手伝いさせてください!」


 その申し出には驚きこそすれど、意外ではなかった。


「ただ一人生き残った私は、何を託されたのか、何を願われたのか、考えてみました。その、私なりの答えは……未来の人たちのお役に立つことです!」


 エイジは目を瞑り、時折頷きながら黙って聞いている。それは、どこか満足そうでもあり。


「みんなから託されたこの力で、今度こそ、何かを守りたいんです!」

「ふむ、そうか」


 エイジは値踏みするような視線を向ける。


「ならば、歓迎しよう。神の力であれば、大いに役立つことは間違いないからな」


 ユインシアの表情に喜色が浮かぶ。しかし、エイジの雰囲気は変わらない。


「だが、その前に問おう。お前は何ができる」


 厳しい面接官のように見据えて、強めの語気で問うた。


「ええと、私の力は……」


 彼女は自信なさげに目を逸らしながら、ポツポツ話し始める。


「味方を強化できる結界が張れます! ええと、一応魔術じゃなくて__」

「ああ、なんとなく理解できる。術式なしに、念じた通りに強化内容、効果範囲を指定できるのだろう。魔法とはそういうものだ」


「は、はい、そうです! それから……周囲の岩や金属を操作したり……植物を操ったりとか__」

「もう少し詳細に。岩の方は、地形を変えたりできるってだけか」


「えっと……」

「特定の種類の鉱物だけ分離して取り出すってのは」


「で、できます!」

「植物は、成長させるだけか。思うまま触手のように動かしたり、新種の植物を生み出すことは」


「できます!」

「ふむ。他には」


 すると、ユインシアは両手を掲げる。そこへ虚空より金の器、聖杯が現れた。


「これは、私の神器なんですけど……これに魔力を込めると、物質が作れるんです」


「なるほど、それは有用だな。現代の魔術で生成可能なのは、原子番号35番の臭素までだ。しかも、複雑な分子や一部の原子は錬金術として作り出すのみであり、他の魔術に組み込むなど不可能。それを魔法として魔力の限りいくらでもできるというなら、文字通り金を作り出すことすら可能か」


「あ、あとは……魔道具が作れます」

「具体的には」


「ええと……お料理に強化効果をつけたり、お飲み物を回復薬にしたり」

「なるほど。使い切りのマジックアイテムを作れるってわけだな」


 そこまで話すと、ユインシアは口を噤んで俯いてしまった。


「私ができるのは、こんなことだけです。味方の支援とか、物作りとか、そういったことしかできません……」

「以上か」

「はい……」


 最後まで、エイジの雰囲気は変わらなかった。失望されたか、とユインシアは落ち込んだ。が__


「欲しい‼︎」


 一転、エイジの表情は輝いていた。


「素晴らしいじゃないか! 何を卑下することがある! ちょうど欲しいと思っていた人材だ!」

「え? え? ええっ⁉︎」


 対する彼女は、態度の急変に戸惑っていた。


「で、でも私、戦えません……臆病ですし、力も強くないし、魔術も慌てちゃって全然__」


「別に戦うばかりが役に立つことではない。資源を生み出し、物資を与えることも人の役に立つことだ。お前が生み出し加工した道具で、皆の生活を豊かにすることができる。戦場に出ずとも武器を作ったり、支援を撒くだけで十分な戦力の向上が見込める。すごいことなんだよ!」


 逃がさないとばかりに目をしっかり見つめ、手を取り力説する。


「オレからも頼む! 是非とも、オレたちにその力を貸してほしい! キミが必要なんだ‼︎」


 そんなことを言われてしまったユインシアはというと……潤む目を見開いて、息を詰まらせつつ、顔を紅潮させていた。


「……ねえ、聞こえた?」

「ああ、バッチリ」


 苦笑いしつつ、外野と化していた面々がヒソヒソと話始める。地獄耳エイジはそれをバッチリ聞き入れて。


「あ、何のことだ? どんな音がした」

「恋に落ちる音が聞こえました」


 途端にユインシアがあたふたと挙動不審になる。そしてエイジも経験者、そこまで言われれば流石に察する。


「あー、わりぃな」

「でも、無意識なんだろう?」

「責任、とってあげなさい」


「いいのか?」

「ウェルカムだ!」


 どうやら彼女たちの方も歓迎ムードのようだ。最初の対応からしても薄々感じ取れていたことではあるが。


「私達からも、お願いします。仲間に入っていただけますか?」

「は、はい! 喜んで!」

「では、これからよろしく頼む」

「でも、ライバルですわよ」

「彼に相手して欲しかったらぁ、ワタシたちに魅力で並ばないといけないのよ?」

「う、うぅ……がんばります!」

「うん、その意気だ!」


 ユインシアは微笑ましく受け入れられて、早くも友情が出来上がり始めてきたようだった。


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