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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅱ 魔王国の改革
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1 構造改革 〜水道工事と清掃 ①

「と、トイレがどうしたのか?」

「汚え!!!」


 エイジは絶叫する。


「そんでもって、廊下も汚ねえ‼︎ 部屋も汚ねぇ! 全部汚ねえ!!!」


 事実、一部の廊下には埃や塵などが積もり。また一部には、どこかの砦の如く汚物があったりして、めちゃくちゃ不潔不愉快だったのだ。


「と、トイレはそんなに重要なのか?」


「いいですかぁ、魔王様。汚いとですねぇ、病気が流行るんですよ! それに、オレのいた世界では綺麗な国ほど発展してるんです! まあ、汚くても発展してる国は一応あるにはあるんですが……そんあことや何よりも、オレが耐えられねえ!!!」


 彼の積もり積もった不満が爆発する。喉を痛めそうなほどの大声は、城中に響いた。


「それはお前の都合であろう」


「そりゃそうですが、皆の信任を勝ち取った私の都合や思想は優先されて然るべし‼︎ そして、排泄しない魔王様はわからないかも知れませんがねぇ、トイレって大事なんです‼︎」


 力説するエイジの前に、ベリアルたじたじ。そこにはある種の迫力があった。


「……__全く排泄しないわけじゃないんだがなぁ……中身もあるし。まあ、排泄してて気にしてないって言ったら怒られるから黙っとこ__……」


「ま、お、う、さ、ま? どうかしました」

「い、いや〜、なんでもないぞ。ところで、改善するにはどうするのかね?」


 一変、魔王モードのベリアルに。それに釣られて、エイジも落ち着きを取り戻す。


「そうですね、まずは掃除して、それから……工事かなぁ」


 横を向き、顎に手を当て思考し始める。新たに考え出すわけではない。今までの考えを思い出している。


「工事だと? 一体何をするんだ」

「割と近くに、大きな川があるでしょう?」


「うむ……むっ、まさか⁉︎」


 言いたいことに考えが至ったか、慄いた様子のベリアル。


「はい! 城のすぐ近くに川を通して、そこに排泄できるようにしましょう!」

「だ、だが、とてつもない大工事になるような……」


「だいじょぶですよ。宰相になったらまずやろうって思って、ずっと計画立ててたので! それに便利な魔術もありますし!」


「ま、まずは他の幹部に相談しようか……」


 確かに、ここで二人で話してばかりでも進展はないだろう。部屋はとりあえず置いておき、二人は幹部を招集しつつ会議室へ向かった。




 「アリガトウ」


 工事の目的を話すと、意外な人物から感謝された。それは、黒竜騎士エレンだった。そしてもう一人…


「エイジ、心の友よ‼︎」


 全身灰ずくめの男。そう、将軍レイヴンだ。でもエイジだって、まさか昨日まで関係険悪だった男に抱きつかれるとは思いもしなかった。


__あれ、コイツ本性こんなキャラなの? ツンデレかよ__


 正に掌ドリルな男だ。


「僕は、まぁ、よく血塗れになるからなぁ。そのくらいのこと、あんまり気にならないや」


 不穏なことを言っているのはノクト。


「……」


 メディアは変わらず無口。感情が読めない。


「ワタシはさ〜んせ〜い。なぜって? ふふ、エイジくんの案だからよォ」


「吾は使わないから気にならぬ。ただ、お主が望むなら支持しようぞ」


「私は研究以外はどうでもいいですからね。勝手にすると良いでしょう」


 まとめると、関係が無いから、エイジの案だから、というのがほとんど。


「はい、賛成多数で可決でーす。どうします、魔王様?」

「う、うむ。これほど望まれているなら仕方ない。工事を決行しよう。計画の詳細は、エイジに一任する」


「お任せを。では打ち合わせを始めましょうか。そーれ、くるりんぱ!」


 その場でくるっと一回転。すると、彼の服が黒いコートから、白を基調に紫系の刺繍の入ったローブへと変貌した。


「「なっ…!」」


 雰囲気がガラリと変わり、驚きが広がる。


「召喚能力の応用で早着替えです。そしてこの服は、先程宰相就任記念に魔王様に頂いたものです。つまり、私が政をする際の正装ということになります。当然、霊装ってやつですね」


 霊装、魔術が編み込まれた特殊な服の総称だ。与えられたのは剣だけにあらず。色々と便利なものを貰ったようである。


「因みにですねえ、さっきまで着ていたあの黒コート一式も霊装なんです。魔力を通せば、ある程度は想像した形に変形してくれる、特殊な魔導繊維で出来ているんです。例えば、袖や裾の長さを変えたりして、長袖から半袖、コートからジャケットに変えたりとか、そんなことができます。さらに防御機能も一級品で。耐刺突、耐斬撃、耐衝撃、耐魔力、耐酸、耐塩基、断熱性、防水、耐火……その他諸々が、軒並み各性能特化のB+ランク相当の、超高性能な代物なのです‼︎ 総合性能評価は、A+、ですかね。この世界に来る前、オマケに貰いました」


 おまけでこの性能は神。これ1着で全て事足りる。最高!


「……そんな優れものなら、そのローブの使い所無いんじゃ……」

「チョッ、それ研究させてー‼︎」


 ベリアルはちょっと落ち込んで、対照的にフォラスが目を血走らせて、エイジに掴みかかってきた。


「こ、今度時間があったらな……」


 なんとか落ち着かせる。気を取り直して、会議の続きを。


「そして、見てください! これぞ六つ目の能力だ‼︎」


 手元に先程手に入れた、ただの剣を呼び出す。そして念じると、


「なんと!」


 刃の部分がぐにゃりと変形、波状になったではないか。


「この能力は、手元にあるものを変形できる能力です。これを使えば、加工成形や工事なんてあっという間‼︎」

「わあ、僕の得意分野の存在否定された気がするぅ。かなしみ…」


 ノクトの得意分野は、闇属性攻撃魔術と死霊術、回復魔術と錬金術。錬金術の存在意義を揺るがされた気持ちになったのだろう。


「いや、飽くまで変形するだけで、物質を作り出したり、変質できるわけじゃないし。変形も、単純な構造の物限定だ。例えば、鋼材を変形して釘や工具、鉄骨を作ったりはできるが、人体をぐちゃぐちゃにしたり、でかい丸太から椅子を作ったりとかはできない」


「いや、十分すぎるだろ!」


 つっこんだのはまさかのレイヴン。一気に距離が近くなって、ちょっと戸惑う。


「うむ、召喚能力に加工能力。兵站においては最強の能力だな」


 流石エリゴス、冷静な分析だ。


「当然、結構魔力持ってかれますけどね。しかもデカすぎるものとか、何十個も間をおかずに連続使用したりすると、負担がどんどん激しくなるので。使用の際はどうかお手柔らかに。まだ能力の扱いには全然慣れていないのです」


 こき使われないように一応釘を刺す。


「うーむ、デメリットがあるのか…」


「この世に万能の能力なんてありませんよ、魔王様。それに、これは私の座右の銘なのですが、『大いなる力には、責任と代償が伴う』。私欲のために力を濫用すると、後で手痛いしっぺ返しが来るものです。同じ理由から、千里眼も出来れば使いたくないですね、重要な局面以外は」


 強大な力を手にすれど、エイジは敬虔だ。そんな彼に、ベリアルは感嘆と敬意を示す。 


「トコロデソレハ、ドコマデ範囲ガ及ブ? ソシテ、攻撃ニ転用デキルノカ?」 


「ええ、試してみましたよ。範囲は基本手が触れたもの。若しくは、周囲1mくらいですね。手が触れてないと、途端に消費が大きくなります。地面に手を触れると、地面を隆起陥没させたり、地中の金属を変形して武器を作り出したり出来ました。まあ、精度はとても低いですけどね。そして予想ですが、オレが能力を十全に扱えるようになったら、一瞬で周りに数十本ほどの武器を作り出したりできるかもしれませんね。召喚の武器が尽きてもその場で調達ができるということです」


 驚嘆と羨望、そして畏れの色が見える。一つの能力であるにも関わらず戦闘時、非戦闘時を問わず、汎用性が高く便利であるためだ。


「待てよ……も、もし、お前が能力を自在に使えるようになったら……俺らは全く太刀打ちできなくなるのではないか……⁉︎ まさか、魔王様に反逆を⁉︎」


「ハァ⁉︎ オレがベリアルを裏切るわけないだろ‼︎ 冗談キツいぞレイヴン!」


 本気で激昂した様子を見せるエイジ。その剣幕に、レイヴンは仰反る。


「オレはベリアルに救われたんだ! オレに知識を、戦い方を、便利な道具を授けてくれた……そして何より、オレが今まで恵まれなかった、最高の上司なんだよ! そのカリスマに惚れたんだ‼︎」


「エ、エイジ……!」


 感銘を受けた様子のベリアル。それを見てるとエイジも嬉しくなる。しかしすぐにハッとする。初めて目の前で口に出して魔王様を呼び捨てしたからだ。


「あ、ごめんなさい、呼び捨てにしてしまって…」

「よいのだ、我が宰相よ」


「その寛大な御心に、感謝を」


 オロオロした様子から一転、表情を引き締め最敬礼。そして改めて幹部たちを見据える。


「私は誓います。決して、あなた方を裏切るような真似はしないと。私は、様々なものを授けられました。だから、その恩に報いたいと思っています。それに、私はトップは似合わない。優秀な人の元で働くのが性に合っていますし。また知っての通り、私はあくまでバランス型。各分野に特化したスペシャリストである皆さんの協力は不可欠……及ばぬ私ですが、どうか力添え願います」


 敬礼したエイジ。その彼を、幹部たちは快く受け入れた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] レビュー全文 【簡単なあらすじ】 ジャンル:ハイファンタジー 誕生日の翌日、主人公は目が覚めたら真っ白な世界にいた。彼をそこに呼んだ者が言うには自分には”異世界に行く権利”が与えられたら…
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