8 深まる愛 ④
「うう、ん……」
少し息苦しい感じと共に、目が覚める。体が重い。昨夜の行為のせいで酷く疲れた為だろうか……と思うが、どうやら違うようだ。なんというか、しっかりした重さがする。
そこで目を開けて確認すると……まず目に飛び込んでくるのは、レイエルピナの寝顔。どうやら胸の上で寝ていたらしい。
そして、それ以外の感触の方向に首を動かせば。両脇にシルヴァとセレインが挟まっており、足が絡められていた。腕にはモルガンとカムイが巻きついており、足の間にはダッキが丸まっていて、頭のすぐ上には、テミスが枕のように横になっていた。そしてこれが定員いっぱいなのか、ガデッサとイグゼが少し離れたところで寝ていた。
「おーい……起きろー……重い」
力づくで引き離すわけにもいかない。モゾモゾと動き、起きるように促してみる。
すると効果はすぐに現れ、全身至る所で何か蠢くような感触がする。レイエルピナはゆっくり目を開け、エイジと目が合うと微笑みかける。
「おはよう」
そして、またゆっくり瞼を閉じた。
「……おい!」
さっきよりも抱きつく力が強くなるというオマケ付きだ。もう起き上がれる気がしない。
「仕事! しなくちゃいけねえだろ!」
「サボりましょう」
「そーだそーだー」
サボりの提案をしたのは、まさかのシルヴァ。そして同意の声が幾つか上がり、ますます動きにくくなった。
「寝返りくらいさせてよ」
「そうだぞ」
そこに同意の声が。動かしにくい頭をなんとかずらして見ると、イグゼとガデッサが起き上がっていた。
「次は、アタシの番だ!」
「そゆことかーい……」
あぶれた二人は、エイジにまとわりついた者たちを引き剥がしにかかる。当然抵抗するため、抱きしめる力はますます強くなる。
人肌と柔らかい感触に包まれて幸せそうに見えるかもしれないし、実際エイジにとっても悪く無い感じである。しかし、この人数だと流石に暑苦しいし、胸の上に乗られることなどで息苦しいし。体を自由に動かせないのがもどかしいのと、このままではダメになりそうな感じもしたので、なんとか脱出しようと踠く。
「えぇい、ちょっと離れて! 今すぐ離れなかったら、今日一日触るどころか近づかせてすらやらないかんな!」
そう喚くと、みんなあっさりと体を離す。
「ふぅ……ハーレムに憧れたことがあるのは確かだが……こうもしんどいとは!」
昨日の分も相俟って、ただ起きただけなのにどっと疲れた。慣れるのが先か、力尽きるのが先か。先が思いやられる。
さて。彼女たちに取り敢えず一旦離れてもらい、部屋の掃除のために明け渡し、レイエルピナの寝室へと移る。そして、またすぐさま囲まれた。
「イグゼとガデッサだけ許す。それ以外は一旦離れて、少しお話でもしようじゃないか」
二名はすぐさま両脇に陣取り、体重を預けてくる。他の者たちは羨ましそうにしながらも、弁えて、やや離れた位置に座る。
「まず、ルールを決めよう。エッチな事できるのは一日に四人、多くても五人まで! 同時には三人が定員な!」
「なんで?」
「なんでって……オレが死ぬわ! 死ななくとも壊れる!」
昨日のは過負荷全開で、流石に限界だった。
「ん〜、それは困るわねェ。だとしたら、順番とか決めなくちゃいけなくなるわァ。どうやってケンカしないようにするか、とか考えなくっちゃ」
「他にも考えなくちゃいけないのは、オレたち共用の部屋をどうするかということだ。恋人同士とはいえ、完全にプライベートな空間は欲しいところだろう」
「だったら、わたしのこの部屋でいいわ。広さは十分でしょ。持て余し気味だったし、少ない荷物を他の空き部屋に移せばいいだけだから、すぐ終わるわ」
「ふむふむ〜、これからはこの部屋がわたくしたちの愛の巣というわけですわね!」
「ここなら、誰にも邪魔されることなく存分にイチャイチャできるということだな」
「……ははは……」
獲物を狙う捕食者の視線を感じたエイジは、急いで話題を転換しようとする。
「君たちは、何かやりたいことはないか? イチャイチャ以外で。すぐにとも言わないけど」
「アタシは……もっと勉強がしてえ。お前さんの役に立つには、まだまだ知識も技能も足りねえから」
「あ、私はエイジの元いた世界……地球、でしたっけ? そのことが知りたいです!」
「ああ。それなら、今は信頼し合う恋人同士、それにカムイもいることだし、話してもいいかもな」
「私も別に構わないが……以前言った通り世俗には疎いからな」
そんな会話をしながらも、周囲では牽制し合うような、視線の駆け引きが繰り広げられている。勿論その狙いは、エイジのすぐ近くのポジションに陣取るためだ。
「ああ、その話で思い出しましたが。順番などを決めるのは、カードゲームなどするのはいかがでしょう」
「ええ、それずるくない? シルヴァってボードゲームとか、そういうのすごく強いじゃない!」
「そうでもないぞ。目線とか表情とか重心とか、ちょっとズレる癖があるし。予想外であろう行動をあえてとってみたら、調子が一気に乱れることもある」
「そ、そんな……! よく、見ておられますね……」
自分でも全く気づいていなかったのか驚き、そしてそれを見つけられたことに恥ずかしさと嬉しさも感じているよう。
「まあ、悪くない案だと思うよ。話し合いで、気分がちょうど分かれればそれでよし。決着がつかなければ、ゲームなど穏便な対決法で解決を図り。それでも納得しないならオレが決める。それでいいんじゃない?」
特に反対の声は上がらない。エイジの案に納得したのもあるが、駆け引きはまだ続いているのだ。
「わたくしは、皆さんとお料理してみたいですわ〜。皆さんの好みや得意なこととか気になりますし、エイジの胃袋を掴むために、勉強もしてみたいんですの」
「確かに、この人数ですと、全員分を一人で料理するというのは現実的じゃないですもんね」
「私は、皆と酒を飲んでみたいな。酔ったらどうなるのか気になる」
「その後始末はオレがすることになるんだろ」
「わたしは……戦いたいわ」
レイエルピナの発言に、皆動きを止める。
「わたし的には、もう十分甘えたつもり。だから今度は、ちょっと体動かしたいわ」
「ボクもだ。突然甘々な雰囲気になってしまったから、ちょっと胸焼けしてしまってね」
「……」
なんだか唐突に雰囲気が変わってしまって、エイジはつい唖然とする。でも確かに、彼もそういった気分になりかけていた。
しかし、戦いと言っても、まさか本気の戦闘ではあるまい。そう考えた彼は、ある案を閃く。
「この世界にスポーツを導入するのもアリかもしれないな。野球やテニスにバレーボールとバスケとか」
「その手もあるかもしれないが……彼女ら、いや、私たちが求めているのは紛れもない戦闘だ」
「え……なぜ⁉︎」
「ああ、それに皆さんと一緒に練習した連携技もありますからね」
「その成果、エイジクンに見せてあげたいわァ」
この空気に同調するかのように、彼女たちはエイジから離れていそいそと服を着だす。
「おら、行くぞ」
そして、一人ついていけなかった彼も、戸惑っているうちに腕を引かれ、連行されていった。




