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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅷ エイジの女難
202/291

2 深淵 ①

 一つ目のケジメをつけた二人は。レイエルピナが落ち着くのを待ったのち、中央施設への侵入を果たしていた。


「エイジ、ここは二手に別れましょう」

「なぜだ?」


「その方が効率いいじゃない。敵の親玉見つけたら、連絡とって」

「……はぁ、わかったよ。くれぐれも、気をつけろよ」


 最初の廊下の分岐路で、二人は左右に分かれた。


「全く、危なっかしいたらありゃしねぇ」


 当然の如く、エイジは千里眼で彼女の様子を見守る。


「まあでも、一人にしてほしいよな。思う存分暴れるといいさ」


 反対側で爆音が轟く中、エイジは悠々と施設を闊歩する。


「さてさて構造は〜」


 武器を真っ直ぐ飛ばし、敵の脳天を的確に割りながら進む。もはや彼らは、エイジにとって人間ではなかった。故に、機能停止させることに躊躇いはない。


「この施設だけ、外と独立したシステムがありそうだな」


 周りの人形を壊すと、両目で別々に千里眼を使って施設を走査する。バラバラの視界など気持ち悪くなりそうだが、エイジは訓練によってある程度克服済み。流石に、精度や集中は落ちるけど。


「おや、外から見えるだけが全てじゃなかったな。地下が広い……レイエルピナはそこに向かうか」


 それによって、大体どこに何があるか理解したエイジは、千里眼で自身を俯瞰、三人称視点のまま進む。当然、そのまま敵も撃退する。


「さーて、研究室、資料の部屋はどこかな〜、ここかな〜」


 などと言いながらも、すでに場所を割り出していたために、その足取りに迷いはない。階段を降りて、真っ直ぐ目的の部屋に辿り着くと、片目の千里眼を解除して扉を変形。侵入して、散乱した資料を漁り始める。


「うっ、胸糞悪い」


 神をも恐れぬ命の冒涜。視界に入れることすら穢らわしいと思われる資料を、探っていく。


「この兵器のデータだけは、利用させてもらうかね。あ、魔獣の解剖記録、これも使えるか。あとは……菌に毒ガス、薬品の人体実験か。さらには、強化人間計画。君らの犠牲を無駄にしないためにも、このデータももらっていこう。人助けに役立ててやるからな」


 一見、人殺しのためだけにあるようなものも、思わぬところに人助けできる要素がある。例えばダイナマイトなど、現代にも本来暮らしを便利にするはずのものが、兵器として利用されている例がある。その逆だ。毒を以って毒を制す、とも言う。


 結局、何々だけ、などと言いながら、様々なデータを収集していく。紙の資料をかき集め、デバイス上のものは翻訳して、メモを取った。


「ん、あった……これがホムンクルス、レイエルピナのデータ……」


 コンソールをカタカタ叩く。昨晩色々な施設で情報収集していたため、おおよその操作方法は掴めていた。戸惑うことはない。


「……セキュリティコードか。上級研究員の許可が必要……捕まえて、催眠洗脳して全部吐かせるかね」


 本来、エイジのポリシー的に、このような邪な用途には能力を使いたくなかった。だが、人でなしのクズ相手なら、そんな遠慮は無用。


「とはいえ、今更倫理もクソもねえか。オレは、すでに人を何千と殺しているわけだしな」


 今まで現代日本で培ってきた倫理観、価値観。そういったものが、戦争只中な別世界に移り住み、手を血で染めて、人ならざる者の力を身につけていくうちに薄れていく。そのことに気づき、恐怖を覚えたが、もはや止められぬ仕方なきこと。生きるためだ。


「さ〜て、どこにいやがる?」


 逃げ遅れを探しつつ廊下へ出ると、真下へビームを撃って穴を穿ち、跳び降りる。


「よお」

「ひっ⁉︎」


 突然目の前に光の奔流が通り抜け、そこからすぐさま現れた男に、研究員たちは怯える。しかし、それは一瞬だけ。


「魔眼発動」


 真っ直ぐ見つめられ、あまつさえ目が合った或る者は、最早この魔眼から逃れる術はない。


 その固まった彼が首から下げるプレートは赤、お目当てのものだ。


「オレの言うことには絶対服従」

「……ハイ」


 続け様に発動した催眠。魔力に関する耐性が無かったか、男は唯の傀儡と化した。


「お、おいどうした⁉︎」

「下っ端に用はない。消えろ」


 上級研究員一人いれば十分。残りの研究員は、拳銃で胸を撃ち抜き射殺する。


「さて、と」


 指示がないために棒立ちしている、目が虚な研究員を担ぐと、穴の上にぶん投げる。エイジもすぐさまそこを登り、奴が落ちる前にキャッチして部屋に投げ込む。


「では、このロックを解除しろ」

「……オオセノ、ママニ」


 キーの挿し込み、パスワードの入力、データの展開。全てをこなしてくれるために、楽である。


「うーん、どれどれ?」


 高度な研究のデータともなれば、魔術の禁忌とも言えるレベル7や8に関連したものばかり。死者の蘇生、遺伝子操作と強制進化促進。神の降霊然り、気候の操作など魔法、権能の域だ。その多くは、工業的に生み出されているホムンクルスたちが犠牲となっている。


「ホムンクルスの製造……いや、培養法、魔力及び身体特性、遺伝子データ……採取場所? おい、これは何だ⁉︎」

「フメイ。ワタシハシラナイ」


 上級研究員でさえ触れられない、禁忌中の禁忌のデータがあるというのだろうか。


「……恐らくは、このホムンクルスの素体となる遺伝子を持つ者がどこにいたか、ってことだろうな。白髪赤眼だ、只者じゃ無いのは確か。遺伝子操作の可能性もあるが……どうやらそこまではできてねえようだな。だが、こんなことをなぜ隠す必要がある……おい、このデータを見るにはどうすればいい」


「ソウキョクチョウノ、バイオメトリクスガ、ヒツヨウデス」


「てことは、レイエルピナが全員ブッ殺しちゃう前に、指だの眼球だのを採取する必要があるってことか。もしくは……そいつの複製体、クローンやらがあればいいけど。それでいいか?」


「コノタンマツデハ、ケンサクフノウ。メインデータベースカラノミ、アクセスカノウ。サイカソウニ、アル」


「そうかい、じゃあ後回し。まあ、それよりもだ」


 いくつもタブを開き、素早く閲覧しスクロール。必要な情報を探していく。


「早くしねえと、レイエルピナが本格的な戦闘を始める前に。ホムンクルス、神……レイエルピナ。この辺りか?」


 いくつもリンクをジャンプし、下の方へスクロールして、ようやくそれっぽいデータ群へ辿り着く。


 そこで__


「確か、レイエルピナのコードは281Fだったか……てことはこれ。……は? 実験後、新たな人格だと⁉︎ 本来の性格は穏やかで従順……まさか、彼女は……本当にレイエルピナ、なのか?」


 驚愕の事実を知ることとなってしまった。もしこのことを知れば、彼女のアイデンティティは、自我はどうなってしまうのか。


 そのことに彼が動揺しつつも、まだ続きがあることを知り、データベースを読み進めて__見つけてしまった。


「開発責任者……フォラス⁉︎ なぜ、アイツの名前がここに……まさか__」


 目を疑った。まさか、この非道な実験に彼も一枚噛んでいるというのか。マッドな感じは確かにあったが、良識をわきまえた良い人だったはずだ。それが、なぜ?


 だが、それよりも……彼は信じがたい記述を目にすることになる。


 それは__


「擬似神霊量産計画……? は? え、いやいや待てよ、この字面、そういうこと以外無いだろ⁉︎」


 一体こいつら、どこまでやれば気が済むのだ。


「実験、成功……F型、200番台の親和性、適合率は比較的高位。実戦投入は調整段階……ふざけてやがる‼︎」


 思わず画面を殴り飛ばす。壊さないようにと強化を抜いたために拳はジンジンとするが、そんなことなど気にならないほどにショッキングな内容だった。


「確かに、こいつらは存在しちゃならねえ……世界には、触れちゃあいけねえモンがあるだろうがよ」


 残滓、と言うには大きい、今も半分以上を占めるヒトとしての倫理が許さなかった。


「っと、落ち着け……メモだ。役に立つデータは収集したら削除……あとは、敵兵器の脆弱性は分かるか?」


 深呼吸して、再びデータを走査する。パスワードを全て聞き出し、キーを奪い、生体認証を全て解除させると、用済みとなった男の眉間を撃ち、殺す。


「……ホムンクルスへの絶対命令権、封神装置……チッ、こりゃマズいぞ」


 研究が進んでいけば、こういった安全装置の開発も進む。暴走や造反への対策といったところか。一人にしていたら、間違いなく彼女が危ない。


「おっと、レイエルピナめ、本気の戦闘を始めやがった。これは、助けに入らないとヤバいかな」


 考えるのは後だ。最後にメモを取ると、残りはメインベースに託して資料室を完全破壊。床に穴をブチ開けて、彼女の下へと急ぐ。

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