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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅷ エイジの女難
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1 復讐の『R』

 魔王城で始業時間を少し過ぎた頃。エイジはレイエルピナを背負って、帝国領上空を飛翔していた。


「ねえ、奴らについて教えて。施設を見て回ってきたんでしょ」

「そうだね。確かに、事前の情報共有は必須だ」


 会話のために、少し速度を落とす。音速では碌に会話もできはしない。


「奴らのアジトは、たいてい廃墟だった。農村であることもあれば、先の戦争で投棄された要塞であることもある。だが、本部だけは別だ。まるで一つの城塞都市のように、堅牢な城壁で囲まれている。内部にはビルのような頑強な施設が乱立し、さらには防衛装置なんかも作動しているようだった」


「そう、だから重火器を持ってくるように言ったのね。それで? ヤツらが逃げないというのは、なんで?」


「とにかくデカいからだ。大量の爆薬を使おうが、完全な証拠の抹消はできない。何より、奴らの研究成果の全てがそこにあるんだろう。データだけならまだしも、兵器や設備は簡単に移送できるようなものでもあるまい。何より……他の施設が襲撃されたということを、奴らは知りようがないからさ」


「どういうこと?」


「報告する余裕さえ与えないよう、即座に全員暗殺。千里眼で位置はわかるし、幻覚で惑わすこともできるしな。そこで有益な情報を収集したら、跡形も残さず消し飛ばした。とは言え、他の施設がいきなり音信不通になったら、多少は怪しむかもしれないけど」


「……さすがね。敵に回したらと思うと身震いがするわ。で、敵はどんなやつだった?」


「他の研究施設は、碌な防衛設備は無かった。偽装によほど自信があったんだろうな。ただまあ、キメラなどの魔導生物や数機の魔導タンクはあった。そのくらいかな」

「なら余裕かしら」


「……」

「なんの沈黙よ」


「本拠地には、他の施設と比べものにならないほどの魔導タンクが配備されていた。さらには、武装した兵士たちが駐屯していた。特殊なヘルメットを着けていたが……それより特徴的な点が二つ。まずは軍隊の様に統率のとれた動きだったこと、そして銃で武装していたことだ」


「銃⁉︎ そんな……」


「オレも驚いた。だが、魔弾タイプの銃ではないようだけど。とはいえ、対空設備に機銃や高射砲、さらには大規模魔術障壁を展開してくる可能性がある」


「……そう。本当に一人で来てたら、危なかったわ」


「この兵力の前では、下手な搦手など潰される。しかし、かと言って正面突破など無謀だ」


「じゃあどうするの」


「では、ここで作戦を説明する。……君の復讐だが、オレが口出ししても良いかい?」


「ええ。わたしより、アンタの方がこういうの得意でしょ。それに、ここまできたからには頼らせてもらうわ」


 彼女は完全にエイジを信頼している。その証に、今までは遠慮がちだった抱きつきも、全てを委ねる様にしっかりと密着していた。


「おおよその作戦だが、施設の直前で二手に分かれる。そこでまずは、オレがこっそりと防壁に穴を開けよう。そしたら上空を旋回しながら砲撃と爆撃を行い、陽動を展開する。障壁が現れたら、それも破壊してな。その隙に君は内部に侵入。隠密行動をしつつ敵の防衛の要を破壊し、混乱させるんだ」


「わたしにできるかしら……」


「おや、まさか不安なのかい?」


 まさか、普段はあんなにも勝気で生意気な少女が、こうも弱気になるとは。やはり長年待ち望んだ復讐の機会がやってくるともなれば、緊張や不安もあるのだろう。


「ええ。だってわたし、おとなしく行動できる自信ないもの」

「ふ、そうかい」


 どうやら、心配はそっちのようだ。思っていたより大丈夫そうで、エイジは胸を撫で下ろす。


「不満はないね?」

「ええ、大丈夫よ」


 決意新たに、二人は対象に向かい、空を裂いていく。




 魔王城出発から、約一時間。途中から速度と高度を落とした静音飛行をしていたために、やや到着は遅れたが、特に不都合はない。二人は難なく基地に接近する。


「まさか偽装がされているなんて。あれだけ探し回っても見つけられないわけだわ……アンタ、よく見つけたわね」


「オレは幻影の達人、夢魔だぜ? こんなものでオレの目は誤魔化せない。とはいえ、これほどの規模の施設なら、偽装しなければ簡単に見つかってしまうから必須なんだろう。そんなことより朗報だ、この壁はどうやらコンクリートらしい。魔導金属かと思ってた」


「きっとコストの関係でしょ。この施設全体は魔王城より大きいんだもの。でも、これならわたしでも壊せそうね」


「いいのかい?」

「アンタの方がハードよ。移動でも消耗してるんでしょ、温存しときなさい」


「ほんとにどうした? 君がオレを気遣うなんて」


「……緊張してんの。言わせんな」


 その会話を最後に、エイジは飛び立つ。そして、上空から挨拶がわりにビームを一発。中央の施設、その直前の道に着弾する。


「……アイツの予想通りね」


 その瞬間、施設全体にけたたましいアラートが鳴り響くと、臙脂色の半透明な魔術障壁が施設全体を覆うように展開される。


 しかし__


「ふっ、バカね」


 壁の上はすっかり覆っていたが、壁のすぐそばに立っていたレイエルピナは障壁の中に。


「じゃ、いくか……はあぁぁぁ!」


 バズーカランチャーを担ぐと、壁に向かってぶっ放す。その一発だけで、人一人が通るには十分以上の穴が空く。その穴を素早く通り抜けて侵入すると、すぐさま物陰に隠れて周囲を伺う。


「アイツは……ちょっと苦戦してるか」


 魔族の翼を広げ、赤い光を放つエイジは、惑うようにフラフラ飛んでいる。一直線に飛んでばかりで、空を飛びながら相手の弾幕を避けることに慣れていないのだから仕方ない。三対の翼の細かい出力制御も、まだものにしたわけでもない。


 しかも、エイジは結界を前に攻めあぐねているのに対し、敵の魔力砲撃はその壁を貫通、一方的に攻撃を仕掛けてくるのだ。


「……エイジ、聞こえる⁉︎」


『どうした、レイエルピナ』


 それを見かねて、別れた時のためにと渡されていた通信機を取り出す。


「アンタは回避に専念しなさい。壊すのは骨が折れるでしょ。わたしが制御装置かなんか破壊して消すわ」


『そうしてくれると助かる。そういうのは往々にして、きっと目立つ形状をしているはずだ』


 通信を終えると、彼の飛翔コースも変わる。旋回しながら滑らかに、砲台の死角を通り抜けていく。


「さて、と」


 方針は定まった。レイエルピナは通信機をポケットにしまうと、物陰からから飛び出す。


「ッ……邪魔!」


 その侵入者を見つけて、白い装甲とヘルメットで全身を覆い隠した警備兵たちがざわめく。しかし、まだ戸惑っている様子の彼らを殴打して沈黙させると、警戒モードに入った魔導タンクの足関節を死角からバズーカで撃ち抜く。


「動きがノロいわね。アイツのおかげかしら。なんにせよ好機だわ」


 ほんの一瞬だけ神性を解放すると、数十メートル飛び上がって、建造物の上へ。


「さて、発生装置は……あれしかないじゃない」


 呆れた様になるのも無理はない。建物の上や道のど真ん中に、赤く発光しながら回転する傘の様なものがあった。さらに、いかにも重要であるかのように、厳重な警備がされていた。


「突っ込むのは悪手ね。じゃ、狙い撃つか」


 周囲に敵影がないことを確認すると、バズーカの精密射撃用高倍率スコープを展開し、前方へバレルを延長。狙いを定めて魔力を充填する。


「ここから撃てるのは、三つね」


 シルヴァを見てしまったので、自信を無くしているが、彼女の射撃能力も確かなものだ。十秒ほど、しっかり狙いを定めて砲弾を撃つ。


「さて、何基あるのか知らないけど!」


 彼女の砲弾は、難なく制御装置を貫いた。そして空を見上げると、結界の色が少し薄くなった様に思える。


「次は、あっちから撃つか」


 ビルを屋根伝いに移動し、別の狙撃ポイントからも数基撃ち抜く。それを数度か繰り返せば、魔力障壁はさっきよりずっと薄く、ひび割れた様な模様になる。


『レイエルピナ、ご苦労様。あとはなんとかなりそうだ。では、衝撃に備えて伏せてくれ』


 避難の指示。彼の全力魔力砲撃を見たことのあるレイエルピナは、焦った様子で移動。特に堅牢そうな建物の影に隠れると、防御魔術も展開して待つ。


 それからしばらくして、エイジの放つ光に銀と紫が加わる。そして一際高く飛び上がると、全身から強い輝きを放って急降下。


「ううっ……あれ?」


 縮こまって衝撃を待っていたが、いつまで待っても来ない。もう大丈夫かな、と目を開けると__


「きゃあ⁉︎」


 爆音が轟いた。それにはビックリしたが、空を見上げると、普通の曇り空が見える。


「ああ、急降下じゃなくて真横に貫いたのね。それにこの時差は、勢いを殺さないための長距離方向転換かな……にしてもあの爆音だけは、なんとかならないものかしら」


 防御魔術とて、遮音はちゃんと別途で術式に付与しないといけない。それをしていなかったレイエルピナは、まだ耳がキーンとしている。


「でもま、これで突破口はできたわね。本番はあれだとしても、防衛装置を混乱させるための重要施設を探さないと」


 中央の巨大な施設。そこに敵の全てがあるにしても、そこに辿り着くまでに敵の兵力を削がなければ。全体を止めることはできなくても、大幅戦力ダウンを狙えるものを探す必要がある。


 エイジが再び施設上空に戻って砲撃戦を開始したのを見ると、彼女も地上から施設を探して回った。

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