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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅷ エイジの女難
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プロローグ::兆し

 時期は十一月。屋内にいようが肌寒く、厚着するか暖房をつけないと辛抱たまらない。さらには日も短くなり、北風も強くなる。冷帯に位置する魔王国では、もういつ雪が降ってもおかしくない。


 そんな、ある寒い朝のことだ。


「おはよう、レイエルピナ。今日はちょっと重要なお話があるんだ」

「あら、おはよう。話って、何よ」


 彼女は寝起きでまだ少しぼんやりしているのか、頭がフラフラ揺れ、小さなあくびまでしてしまっている。まったく、可愛らしい。


「実は……君の探しているものが、見つかった」

「ッ……!」


 その瞬間、目を見開き、鋭くエイジに詰め寄る。その勢い、胸ぐらを掴まんというほどだ。


「アイツらが見つかったの⁉︎ あの忌々しい機関が!」

「落ち着け、レイエルピナ。落ち着いてもらえなきゃ、この話は出来ない」


「見てわかるでしょ、わたしは過去一落ち着いてるわよ!」

「……」


 とてもそうは見えない。だが、飽くまで今、主導権を握っているのは、情報を持っているエイジの方だ。エイジが話そうとしないなら、レイエルピナにはどうしようもない。


「一つ言うことを聞いてくれたら、話を続けよう」


「……何よ」

「目を瞑って」


 その要求に、ぴくりと体を震わせる。そして、どこか覚悟を決めたように目をキュッと瞑る。


「息を大きく吸って……吐いて……よろしい。では、話をしよう」


 だが最初の指示で頭に疑問符を浮かべた彼女は、すぐに察し、吐く息は溜息になっていた。


「これに見覚えはあるか」


 エイジは大きな亜空間の孔を広げると、そこから何かを取り出す。


「ッ……! ええ、あるわ」


 ズズンという重々しい音を出したそれは、かつて王国で或る事件に巻き込まれた時に鹵獲したもの。魔力で動く機械兵器、仮称“魔導タンク“だ。


 既視感がある、という言葉に偽りはないように、彼女の息は荒くなる。


「これをアリサーシャに見せたところ、心当たりがあると。そしてつい昨日、デモンズハウンドからの情報で関連施設が見つかった。だからその直後、つい先ほどまでだ、大陸中を探し、施設という施設を潰して回ったが、その中に奴らの本拠地と思しき施設を発見した」


「まさか、もう破壊したの⁉︎」


「いや。見つけただけだ。君に譲ろうと思ってね」


「それは良い心がけね。で、場所は、どこ」


「帝国、王国、そして共和国の国境が接する一点、そこに近い」


「……」


 レイエルピナは、考え込むように息を止める。思ったより遠く、さらに魔王国の手も届かない場所だ。その足ですぐ向かうことはできないだろう。さらには、情勢的にもおいそれとは向かえない。共和国からの帰還時に、帝国軍から襲撃を受けたばかりだ。


 その事実を整理すると、彼女は苦々しく歯噛みする。


「おや、思ったより冷静だね。なりふり構わず、すぐにすっとんで行こうとするかと思った」

「流石に、わたしもそこまで軽率じゃないわよ」


 さらに思案するように、目を固く閉じて、眉間に皺を寄せていると……しばらくして、エイジの目をしっかりと見上げる。


「ねえ、お願い。わたしをそこまで連れて行って。……難しいかな」


 不安そうな顔、さらに伝家の宝刀上目遣い。こんなの、断れるはずがないだろう。


「そう言うと思って、仕事はもう終わらせた。休むって連絡も各方に入れてある」


「それって……」


「今の君は危なっかしいからね。一人にはできないよ」


「……ありがとう」


「ふ、今日はやけに素直だ。……待っているから、決戦の準備をしておいで。なに、奴等も逃げはしないから」


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